第13話 密林の階層

 第10階層へ下りる階段周辺に冒険者たちは集まった。


「諸君!第10階層主のトコピだ。次の階層は、密林を生成させてある。階層主権利を得られる条件は密林内にある第11階層への下り階段を発見すること」


 [陽だまり]モスモスが聞いた。


「トコピが設計したんなら、下り階段の位置は分かってるだろ?お前さんが有利じゃないか」


 トコピが答える。


「私は、連続で階層主権利を求めていない。いろんな階層を探索してみたいので、次は別の階層主がいい」


 この発言に感心する者と、欲がなさすぎると失笑する者とさまざまだった。


 いざ、第10階層。冒険者たちは、慎重に下りていく。


「・・・すげぇな、こりゃ」


 階段付近こそ石造りの床となっているものの、密林になっている。高温多湿、天井が高くよく見えない。どこからどのように進んでいいのか、判断しづらい。

 トコピが言う。


「よく見れば、獣道がある。そこを手がかりとして探索していける。それと密林だから、いろいろいるぞ」


 何だよそれ?と皆が思いつつ、木々につかまり奥に進む。時より風が吹いてきて、それに合わせ鳥たちが鳴いている。


「うわっ、マジかよ!」


 木にもたれかかったトレジャーハンターのノルチェンの足に大蛇が絡みついてきた。重く太い締め上げが木と足を両方を巻き込んでおり、ミシミシッと骨がきしむ音がする。


「ん゛んっ!くそぅ!」


 ノルチェンは、大蛇の頭をナイフで木に突き刺し固定させる。当然、締め付けはまだ収まらない。そこで、かばんから火薬粉末を取り出し、木と大蛇の胴体の間に流し入れ、火をつけた。


 ボンッ!


 爆ぜた大蛇の胴体は部分的にちぎれて吹き飛び、ノルチェンは火傷を負った。

 その衝撃音に[サンピラー]の面々が近づいてきた。


「何事だね?ほ~、見事な大蛇。しかし、場所が悪かったな」


 爆発の衝撃で弾けた大蛇の肉片が、近くの蟻塚を破壊していた。一斉に溢れ出したアリの集団は黒い絨毯として近づいてくる。ノルチェンは慌てて回復薬をかばんの中から探しているが見つからない。短時間で生物を骨にする黒い絨毯。すでに、大蛇を襲い始めている。


「くそぅ、くそぉぉ!」


 ノルチェンは足のダメージが大きく、まともに歩けない。


「困った時はお互い様だろうよ」


 [サンピラー]ズフィッチは、火炎魔法で黒い絨毯に対抗するも、数が多すぎ分散され、あまり効果がない。


「ひっひ、面白くなってきたねぇ」


 ズフィッチは、前方に半円状を射程範囲として粘着魔法を仕掛けた。その間に[サンピラー]ラドヤが回復魔法をノルチェンに施し、黒い絨毯から距離を取らせる。


「ズフィッチ!魔法効果はどうだ?」

「数が多すぎるね。重ね掛けしようか~?」


 一定範囲粘着による黒い絨毯の侵略には効果があったが、その上にさらに黒い絨毯の援軍が何重にも重なり、粘着部分を超えて攻めてくる。


「どれどれ、ここは私の出番だろう。皆、離れてくれ」


 [サンピラー]ルイターが木に登り、高い所から蟻塚周辺~黒い絨毯の進路予想一帯を凍結魔法で一気に凍らせた。


「おーぃ、一時しのぎだ。この場を離れるぞ~」


 ノルチェンは[サンピラー]と同行し、蟻塚から距離を取った。


「申し訳ない。助かった」


 どうにか声を振り絞って、ノルチェンは礼を言った。

 ラドヤが言う。


「こんな密林地帯で戦ったことある冒険者は、そんなにいないんじゃないか?他国出身じゃないとなぁ。さっきのアリも焼き払いたいが、木々が燃えれば、我々も一緒に火に飲まれてしまう。ここで生活するわけじゃないから食料調達より、とっとと階段を探そうじゃないか」


 他冒険者たちも、この密林の自然の驚異や動きにくさに悪戦苦闘していた。

 そんな中、[ビッグトルク]の面々は違った。


「俺たちは魔法は出来ねぇ!だから、爆破出来ないなら切り開くのみよぉ!」


 [ビッグトルク]は、斧で豪快に木々を切り倒して、道を作っていった。もちろん、野生動物に遭遇することも数多くあった。オオトカゲを殴り、蛇はぶん回して放り投げ、ジャガーには威嚇し遠ざけた。

 そのまま突き進んでいくと、急に開けた場所にたどり着いた。


「おい、いかにも怪しい場所だ。・・・階段があるなら、空洞に音が反響しないだろうか?いや木の根が邪魔するか。それなら、風が吹いてるとかありえるんじゃないのか?」


 [ビッグトルク]ゴンブトが仲間に提案し、落ち葉や細い枝が風にそよぐ場所を注意して探した。


「リーダー!この場所が風でひんやりします~」

「おーし、待ってろ全員集合だ!」


 木の根に一面覆われている歩きにくい場所を、ドタドタと巨漢が小走りで移動した。


「おぉ、確かに下から風が吹いているな。しかし、よく見えないな?」


 ゴンブトが地面を見ようとした時、メキメキッと音を立て[ビッグトルク]全員が落ちた。木の根がパーティ全員の重量に耐えられなかったのだ。


「階段見つけたぞ~、鍛えている我々の勝利だぁぁ!」


 雄叫びをあげる[ビッグトルク]一行。その光景を高い木から見下ろしていた第10階層トコピは思った。


「あんな筋肉の鎧をまとっているパーティなら、木の根も支えられないくらい重さが集中するよな。分かりやすく細い根で隠したのがマズかったか」


 騒いでいる[ビッグトルク]にトコピは近づき、設計仕様書を渡した。受け取ったゴンブトの体はボワッと光り、階層主権利が移った。


「よぉし、やっと順番が回ってきた!真っ向勝負な階層にするぞ!」


 ゴンブトは第11階層に下りて行った。


「さて、他パーティに知らせないとな」


 トコピは、気付いてもらえるよう狼煙を上げ、階段周辺の岩場を小さな安全地帯に設計していたためキャンプが出来るよう火を起こし、他冒険者たちが来る準備をした。それに気付いた冒険者たちは少しずつ集まってくる。そんな中、爆発音が数回あった。


「なんだあの音は?」


 音の方向から、イモウとレイラがやってきた。・・・イモウはレイラに担がれていた。

 トコピが聞いた。


「おーい、重傷なのかー!」

「違~う、問題なーい」


 レイラはキャンプに近づいてイモウをゆっくり下ろし寝かせる。そして、トコピに言った。


「あのさ、このイモウ。オオコウモリがぶら下がってるのを見てギャーッて気を失なったんだ。そんで、道作らないと行けなくなったから、爆発魔法で強引に切り開いたわけ」

「・・・強いなアンタ。イモウは尻に敷かれてるな」

「かわいいでしょ、この人」


 ニヤニヤするレイラ。顔が引きつるトコピ。

 しばらくして、参加している冒険者たちが揃い、傷を癒したり、体力回復に務めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る