第12話 レイラ

 倒れている体に声かけしたり、つついてみるが反応がない。失敗なのか?イモウは、大きな声で呼んでみた。


「レイラ、起きろ!」


 ゆっくりと起き上がる姿があり、イモウは涙目になった。


「ぁ~、良かった生きてる」


 レイラは起き上がると、イモウの肩口を叩く。


「あんた名前を付けたんだから、真っ先に呼んだらどうだ!」


 少しご立腹。でも、照れ隠しのよう。


「はっ、ごめんなさい」


 サキュバスから転生した姿は、2mくらいある冒険者にしては長身女性。元が3mあったので十分縮まった。種族は、デビリッシュという悪魔と人との混血種。以前よりかなり知能が高く、一般冒険者より数倍の筋力。2本の角があるが、獣人もいるので、さほど驚かれないだろう。また、イモウが望んだのか、冒険者の恰好をしていた。


「この姿と名前の意味があるなら教えて」

「隣にいて欲しいから冒険者。サキュバスは夜に活動するから、"真っ黒な夜"という意味でレイラ」


 レイラは少し照れている。


「腹が減った」


 そう言うと、レイラはイモウに口づけをした。


「お、ちゃんとドレイン効果がある!」

「ぐぉぅ、奪われるよ。力が抜ける・・・」


 そこに近づく人影があった。


「おい、何やってんだ?」


 トコピが第9階層に来ており、イモウが尋ねた。


「なぜ、この階層に入れたんですか?」

「知らねぇよ、階段下りれたんだ。通路も水で出来た壁もあるから完了なんじゃないのか」


 その後から、リステアも追いついた。


「どうなってるの?」


 イモウが答える。


「階層主として、いろんなことが進展し発展しました。紹介します、パーティメンバーのレイラです」


 リステアは、その姿を見て納得し、ひとまず拍手をした。

 イモウは、設計仕様書をトコピに渡した。


「第9階層の階層主決定条件は、『私以外で最初にレイラを目撃した冒険者』なので」

「ぇ、ぁ、そうなのか」


 その後から、ぞろぞろと冒険者たちがなだれ込んでくる。


「どうなってんだこの階層は?水の壁だけど排水機能がしっかりしてるから水たまりがない。けど、モンスターもお宝もない」


 イモウが答えた。


「設計途中で事故がありまして、急遽この形状で設計終了となってます。ただ、水壁に触れないように。通り抜けできないよう、高い水圧で体が斬れますので。また、次の階層主が決定してるので、ご報告します。第10階層主は、こちらのトコピに決まりました」


 よく分からない突然の紹介で、トコピは高々と設計仕様書を掲げ、戸惑いながら雄叫びを上げる。

 それを見ながら、イモウとレイラは周りから見えない位置で手を繋いでいた。


 トコピは、颯爽と第10階層に降りていき、他冒険者たちは一旦、第8階層のセーフエリアで待機することにした。

 リステアは、第8階層のカウンターだけの狭い飲み屋に入った。設計仕様書の効力をイモウが試した結果、単純な欲だけでなく、その人の思いが種族を超えさせたんだな、と余韻に浸りたかった。

 しかし、そうはさせてくれない。[王室調査隊]エリスが鼻息荒く店に入ってきた。


「探したぞ、リステア。聞きたいことがある」

「なんだぁ、飲めよ」


 リステアは、すでに酔っている。エリスも一杯注文して、一口飲む。


「どこから冒険者が湧いた?」

「何言ってんの?」

「第9階層の中央付近にいた女冒険者がいたでしょ。我々は冒険者の把握をしているし記録も取っている。急に増えたのはありえないだろ」

「え、冒険者たちの記録をつけてるんだ。[王室調査隊]ってラギンって爺さん調べてるだけじゃないんだ」

「ラギンと通じている者がいるかもしれないからな」


 リステアが面倒くさそうにしていると、店にイモウとレイラが入ってきた。『よそに行けよ』と露骨に表情に出てしまうリステア。


「あ~リステアさん!お世話になりました!」


 大きな声でリステアにお礼を言うイモウ。じろりとリステアを見つめるエリス。


「やっぱり、何か知ってるんじゃないのか、リステアさん?」

「二人に聞いてみれば、話が早いでしょうに」


 エリスは、つかつかと歩いて近づき、レイラに問うた。


「そちらさん、これまでの階層でお見掛けしなかったが、いつから探索に?」


 レイラはイモウの顔を見る。イモウの表情はこわばっていた。


「どうも初めまして、イモウのパートナーでレイラだ。イモウが急にダンジョン探索に行くと言ってワタシをほったらかしにしたので、ダンジョンまで押しかけた」

「この階層まで、単独で来たのか?」

「必ず戦わないといけないわけでもないでしょ?モンスター除けのお香を焚いたり、隠密スキルを使えばね」

「でも、あなたのような異形の者を見たことがない。どこの出身だ?」


 レイラは右手でエリスの両頬を軽く掴み、ぐっとエリスに顔を近づけ、こう言った。


「出身や容姿で、貴様は判断するのか。イモウは、このワタシの姿にベタ惚れだぞ」


 そう言った時、レイラの瞳が悪魔の目の形に切り替わった。エリスの体は、激しく硬直した。

 オロオロするイモウ。


「うぉ~ぃ、レイラぁ!飲むぞぉ~」


 いい塩梅に酔っ払いに出来上がったリステアが声をかけ、殺伐とした空気を晴らした。

 エリスは怯えつつ、すごすごと店を後にした。


「なんだ、アイツは?」


 レイラがリステアに聞く。


「ん?[王室調査隊]って、地上の国から要請された、なんか調べに来たヤツ。レイラは、すごく冷静に応対してたね。あんた頭いいね」

「そうか?」


 横からイモウがお礼を言った。


「リステアには何かと助けてもらって、本当に感謝している」

「何かの形で恩を返してくれ。ふふん」

「そりゃ、もちろん!」


 レイラが言った。


「パーティじゃなくても、連携とか協力体制ってヤツだね」

「そだね、ありがたい。レイラは、今潜っている冒険者の中では一番強いだろうからね」

「えぇ、素材が違うからな」


 この後、しばらく飲み続け、リステア・レイラ・イモウは親密度が上がった。

 それから、数日後、第10階層が下りられると連絡があった。

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