第10話 セーフエリア

 第8階層に下りたリステア。急いできたものの設計案が浮かばないし、第7階層から一斉に逃げてくる冒険者たちを受け入れなければ、という思いもある。・・・やはり、アレですか。

 第7階層の冒険者たちは、腕力・魔力、さまざまな力を振り絞ってサキュバス含めた興奮状態であるモンスターたちを足止めし、第8階層に転げ落ちてきた。


「ハァハァ、もう入れるってことは、出来上がったってことだよな・・・」


 疲労で、階段周辺から動けない冒険者たちに近づく複数の存在があった。コツコツコツコツ・・・足音が響く。


「・・・もう戦えねぇぞ。ちきしょう」


 また戦闘かと思う冒険者たちに、話しかける者がいた。


「重傷者はいませんか?」


 ハッと目線を上げると、そこにはリステアと複数の服を着た人の形をしたものがいた。


「急ごしらえでこの第8階層を作りました。ここはセーフエリアです。設計仕様書の魔法効果で人形(パペット)を作り、各施設の応対できるよう設計しています。単純な会話は可能です」


 リステアは設計仕様書を開き、指示を出した。


「さぁ、この冒険者たちを治療室に運びなさい」


 どこからともなくパペットが増え、タンカで冒険者を運びだした。いろいろ聞きたかったが冒険者たちは素直に応じ、治療と回復に専念することにした。

 軽傷だった冒険者は、セーフエリアということで武器防具の修繕や装備品の補充等、店をうろつく。

 動ける冒険者の中には、トコピがいた。散策していると見覚えのある光景だなと思った。


「おーぃ、リステア」

「あ、トコピ。ケガは大したことなさそうね」

「忍者だから、隠密行動で目立たないようにしたさ。そういえば、このセーフエリアって・・・」

「うん、以前のラギンが作らせたダンジョンと同じ配置のセーフエリアを設計したよ。緊急だったから一度作ったものが頭に浮かんで。ただ、今回は街の人を働き手として第8階層に頼む時間なかったし第7階層の暴走か発情してるモンスターを避けて連れてくるのは無理そうだから、パペットを作った」


 トコピとリステアが立ち話していると、割り込んでくる人物がいた。


「話の途中失礼。先程"ラギン"のことを話していなかったか?」


 リステアが返事をした。


「どちらさん?」

「申し遅れました、私は[王室調査隊]リーダーのエリス。ラギンについて知っていることをお聞かせ願いたい」

「ラギンは、このダンジョンがある土地の所有者。その程度よ」

「そうか。実は、数年前、今回と似たような発見されたダンジョン探索に多くの冒険者が参加して行方不明になっている。手がかりすらないので、直接調査をしている。何か異変があれば、私たちに連絡をするよう協力を求める」

「えぇ、そうしますよ」


 エリスは、パーティが集まっている所に戻っていった。


「[王室調査隊]ねぇ。国が調べに乗り込んできたのか、若い娘さんがリーダーで」

「軍隊上がりのリーダーかな?」

「精鋭を集めたんだろう。しかし、リステアは"前回の生き残り"と伝えるのかと思ったぞ」

「初対面だし、信用していいものか分かんないよ」

「確かにな。以前のダンジョン探索もギルド調べれば依頼主がラギンって事くらい情報が出る。さて、食堂とかいくつか回って王室調査隊の聞き込みしてくる。またな」

「了解。まだしばらくは次階層には誰も行けないから、休息しよ」


 トコピとリステアは、また単独での行動に戻った。

 リステアは、急ごしらえの第8階層の点検・確認のため、各施設を巡回している。まず、一番重要な第7階層と接続している階段。魔法効果によりモンスターたちは下りてこれないが、たまに奇声が聞こえてくるので気になるところ。しかし、設計完了扱いだから、追加設備ができない。ただ、既に生み出したパペットたちには指示が出来るようなので、警備パペットとして数体巡回させることにした。

 巡回途中、休憩兼ねて飲み屋に立ち寄る。よくある居酒屋とは別にカウンター席だけの狭い飲み屋を作り、一人飲み冒険者を招き入れるようにしたいのが目的の店。


「おーい、マスター。問題はないかい?」

「ハイ、問題ナク営業シテオリマス」

「んじゃ、しゅわっとした爽やかなお酒をくださいな」

「オ待チクダサイ」


 ぐびっと飲んで、ぷわーっと一息つく。客がいないと思っていたら、隅っこに冒険者がいた。かなり飲んでいるようで、しかも泣いている。


「マスター、あの人どのくらいの時間いるの?」

「オソラク2時間クライ」


 リステアは、そっと近づいた。


「あの~大丈夫ですか?」

「えぇ、飲みたい気分だったので」

「泣くほど飲んだわけですか」

「どうしていいのか分からなくて、忘れるために飲み続けたら余計にもどかしくなり・・・」

「そりゃ~飲んだら、思いに浸るので、抜け出せないでしょう」

「・・・そうですよね。聞いてもいいですか、好きになってはいけない存在を好きになってしまった場合、どうしますか?」

「相手が気持ちを知ってるかどうかによるかも。でも、不倫とか後々大変なことになるからダメでしょ」

「いえ、不倫ではなくて。また、相手は気持ちを知ってて断られてます」

「断られてるんなら、それ以上は相手にとって迷惑な話」

「でも、この気持ちは抑えられないんです!あのような理想の姿がサキュバスだなんて」

「うわぁ」


 のけぞるリステア。そして考える。『どのような恋愛でも燃え上っちゃって盲目になるのは、よくある話だけどさ、相手はモンスターだし悪魔であって淫魔ってどう考えてもダメな条件揃ってるのに、どうするのよ?ん~設計仕様書の力を使うとどうにかできるかもしれないけど、こういうのに使っちゃっていいのかな?これまで欲求通りの階層は確かにあったけどさ』


 リステアは、少々酔っていた。なので、大胆な案をイモウにぶつけてみた。

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