第8話 歓楽街の暴走

 冒険者たちは、それぞれ探索を始めた。といっても、店選び。普通に食事がしたい[サンピラー]の面々は大きな通路から一つ奥に入った食堂に入った。


「いらっしゃ~ぃ」


 この第6階層が歓楽街とは言え、基本設定があるようで食堂ではサキュバスが肌を露出した格好ではなく清潔感のある身だしなみでエプロンもつけている。丁寧な応対で、料理を運んでくれる。


「いいじゃないか、こういうの」


 思わず声に出していた。お代も生命力を奪われるかと考えていたが、ダンジョン内への輸送費が少しかかる分ちょっと高いかな?という金額を支払い、店を出た。


「実にうまかった。このような魅了なら悪くない」


 口々に言っているが、相手はサキュバスということを忘れてはならない。

 単独で参加している若い冒険者イモウ。道に迷い、どんどん奥の細い路地に入ってしまう。大きい通りとは異なり、照明も薄暗くなっていく。また出来たばかりの階層で店は配置されているものの全てが開店しているわけではない。暗い細い路地というのは、味わい深い反面、怖さもある。


「お兄ぃさ~ん、遊んでかな~い?」


 路地のぼんやりとした灯りの下に、サキュバスが2体、手招きをしている。


「地上では味わえない快楽があるの。どうする?」

「お金ないんで・・・」

「私たちはサキュバスだから、お金よりも生命を食らうんだよ」


 背筋がゾクッとしたイモウは、手を振って逃げた。


「待ちなさいよ~」


 サキュバスから必死で逃げるが、どこにでもサキュバスがいるため、どんどん追手が増える。

 少し広い通路に出たところで、大柄なサキュバスに遭遇した。


「あ、あの、横通ります」

「ん、追われてるの?」


 大柄なサキュバスは、イモウを抱きかかえると、ふわっと宙に舞い、近くの建物屋上に着地した。


「ありがとうございます」

「ははっ、サキュバスに礼を言うんだ?」

「あの大勢から追われてたので、もう命がないと思って」

「ふふん、助かったと思ったんだ。でも、それは違う」

「え?」


 大柄なサキュバスはイモウに口づけし、少し生命力を奪った。


「大勢から精魂尽き果てるまで吸われるより、マシだろ。ワタシも腹減ってるから少しもらった」


 少しふらついたイモウは言った。


「えぇ、あなたになら奪われてもいいかも」

「何言ってんの?」

「背の高い女性がタイプなんで」

「根こそぎ奪われても知らないよ」


 大柄なサキュバスは、イモウを小脇に抱えて大きな通路まで飛んだ。そして、人目に付かない所で

イモウを降ろす。


「あの名前を教えてください」

「ワタシは、名持ちのサキュバスじゃないんだ」


 そう言うと、サキュバスは飛び去った。

 イモウは、サキュバス特有の魅了を受けておらず、単に一目惚れをしてた。冒険者の中には時々ある話らしい。ヘタに会話が成り立ってしまう知能の高いモンスターに恋をしてしまうそうだ。しかし、モンスターであり、悪魔。


 大きな通路にある大きな看板、派手な装飾、きらびやかな店内。布面積の非常に少ない裸のような衣装を着て匂い立つ色香に、まんまと引き寄せられた[ビッグトルク]と[タマハガネ]のパーティ二組。酒だけでなく豪勢な料理も振舞われるため、大いに盛り上がっている。

 それぞれの若い衆が飲み比べをしたり、[ビッグトルク]の肉体自慢余興があったり、時間が過ぎていく。


「冒険者って、すごい肉体持っているのね。生命力がみなぎってるのが分かるぅ」


 数体のサキュバスが目を輝かせて、[ビッグトルク]面々の筋肉を触り始める。


「そうでしょ。我々[ビッグトルク]は選ばれた者しかパーティに入れないし、筋肉が落ちれば探索メンバーから外されるんだ」

「やぁ、すごぉぃ」


 我慢できなくなったサキュバスは、口づけした。初めこそ、周囲はニヤニヤしていたが明らかに様子が違った。生命力というより、命の根源である精気を吸いつくす勢いで、肉体自慢の体が次第に細くなって、肌が青白い。


「おい、何やってんだ!」


 周りが騒ぎ出し、精気を吸われた冒険者は意識を失っている。その姿を見た他のサキュバスたちは思った。


「一人吸ったんなら、他も精気吸っても構わないのではないか?」


 サキュバスたちは、店内を香りや魔法陣等あらゆる手段を使って、魅了効果を高めた。

 それを察した[タマハガネ]は、即座に店の外に逃げ出した。


「お代を置いていきなよ~。それか、吸わせろよぉ、なぁ~!」


 大騒動になり、アルラムが急行した。


「サキュバスたちよ、何の騒ぎだ!」

「ん~、精気吸いたくなった。もう我々を止められないよ」

「悪魔は契約を守るんだろ!」

「いずれアンタに大金入ってくるんだから、先に見返りもらって構わないでしょ」


 そういうと、サキュバスたちは[ビッグトルク]を襲い始めた。また、サキュバスの1体がこんな事を言い出す。


「あ~そうだぁ。契約相手が消えたら、契約内容も失われるよねっ!」


 他サキュバスたちも賛同し、標的にアルラムも加えられた。


「なんだよ、それ!」


 慌てて逃げ出すアルラム、そして追いかけるサキュバスたち。アルラムは、第7階層へ下りる階段が見える路地に隠れ、設計仕様書を開き、階層主権利条件を書き換えた。アルラムは細工をしていた。第6階層限定で、階層主が緊急時に権利条件を変更できる設定を加えていた。


『第6階層で最も資金を持つ者が第7階層主権利が与えられる』


 効果すぐに現れ、アルラムの体が薄っすら光る。そして、アルラムは第7階層に逃げた。

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