第6話 欲にまみれる
第4階層の中央にあるレース場の建物。中に入ると、観覧席とレース用控室に進める道が分かれている。
控室では、待機水槽からレース場の真上につながる水で満たされたパイプが連結されおりレース開始5分前になると、パイプを通じてスタート位置まで移動できる。レース開始の合図と同時にスタートゲートが開き、滑り台で一気に加速しながらレース場の水面に滑り込み、楕円形の水中レースが展開される。レースは、水中内を1周速く泳いだ魚人が勝者となる。
レース開始前に、第4階層主アルラムの挨拶があった。
「いよいよレース直前!皆さんが育て上げた改良サハギン他が泳ぎます。今回は初めて尽くしなのでどういう結果が待っているか分かりません。楽しみで仕方ありません。では、始めましょう!」
パパパーン パラッパパーン パーン
なんとも間の抜けた音の後、ゲートが開き、各魚人たちが滑り台を豪快に滑っていく。
今回レース参加は、12体の魚人たち。レース前にくじ引きでコース振り分けが行われた。個体差はあまり感じられないが、未経験な事ばかりで、少々太りすぎなサハギンがいたり、かなり絞られた体形もいる。
勢いよく水中に入り込み、尾びれの加速でインコース側のサハギンがレースを引っ張っている。最初のコーナー、直線と変化はなく、同じ形のままレースが進んでいく。このままだと、誰が育てたか?というより、どのコースから泳ぎ始めるか?というくじ運になってしまいそうな勢い。
しかし、最終コーナーを回る時、徐々に個体差が現れ始めた。ぽっちゃり体形サハギンが浮力がありすぎて他のサハギンが起こした波により、加速ができず失速し始める。他にも、水流に乗れない個体が離されて縦長なレース展開となった。そこに、大外からグングン速度を上げた個体がおり、一気に抜き去り勝負を決めた。
最後に追い抜いたサハギンの飼育者は、階層主であるアルラムだった。他サハギンに比べれば若干細身で力強さには欠ける見た目ではあるが、最後の追い上げは冒険者たちを驚かせ、感動すら与えた。
誰も見えない場所で、ほくそ笑むアルラム。彼は、薬師。筋力・体力増強、人に使えるモノをしっかり与え、ドーピングしたサハギンをレースで泳がせていた。他冒険者たちは、気付きもしない。
「今回の階層主権利を賭けたレースの結果、次の階層主も私アルラムが得た」
一言宣言して、アルラムは今後一般冒険者がこの第4階層に訪れた際の使用料や賭けの対象とした場合の親の取り分の計算を考えていた。
そこへ、音も立てずにスーッと近づいた者たちがいた。[タマハガネ]の面々である。
「うわっ、何だよ!」
「今回の階層主が作った階層は、とても欲にまみれ、こういうことしていいんだって参考になった」
リーダーのタマが一言伝え、ニヤッと不敵な笑みを浮かべ、その場を離れた。
アルラムは、第4階層の上り階段鉄格子を通行できるようにして、第5階層作成への作業に入った。
久しぶりの地上に、冒険者たちは疲れを癒した。
ギルド横の酒場で相変わらず飲んだくれる者もいるが、普段言えない事を言う者いた。若い冒険者イモウが[陽だまり]のゼピンに、ぼやいている。
「ダンジョン探索や探掘って、もっと冒険心をくすぐるものだと思ってたんだが、これまでの階層は欲にまみれている。多くの冒険をされてきた方々はどう思いますか?」
「あのさ~、結局、冒険者は欲の塊だろうよ。財宝や武具、その材料になるもんを欲しいからダンジョンに向かう。モンスター討伐で名声得るものもいるが、結局は金が絡む話だ」
「ダンジョンが、あの仕上がりでも良いと?」
「それなら正解なダンジョンとは何だろうか?モンスターも戦わされるために召喚されて、そこにどう意味を持たせるのか。お前さんが階層主になった時に、どういう構造にするか答えが出せるかな?」
言葉に詰まるイモウ。しばらく黙った後、ボソッと言った。
「自分には、まだ見えてこないです」
「正解ってないんだよ。欲というより願望で作り上げるのが、あのダンジョンで求められてることかもな」
ゼピンが酔いつぶれながら答えた。
それから数日、比較的早い日数で通達がきた。
「お待たせしてるね、第5階層だよ」
冒険者たちは、生臭い第4階層レース場を通り抜け、第5階層への下り階段周辺に集まった。
「ようこそ皆さん!次の階層の説明します。十字路となった通路があるだけの構造です。しかし、周りは土に埋もれています。今回の目的は、探掘!貴重な鉱石や原石が埋まっているので、一番高価な物を掘り出した者が次の階層主権利が与えられます。掘り出した物は、私アルラムに見せて下さい。職業は薬師だが、錬金術も学んでおり、鉱石等の鑑定も出来ます。必要な方は、探掘道具を第5階層で渡しますので、頑張ってください。そうそう、大事なことを伝えておきます。掘った場所は12時間で元に戻るので生き埋め注意とモンスター出ます。以上」
この説明を聞いて単独で参加しているトレジャーハンターのノルチェンが鼻息を荒くした。ようやく経験が活きると思ったからだ。他にも、武器防具や魔法効果を高めるため冒険者たちはやる気を見せた。
いざ、第5階層に下りてみると、そこそこ幅のある通路が十字路になっており、階段からまっすぐ突き当たる所にアルラムが机を置いて簡易鑑定所を設けていた。高さは10mはあろうかという壁。土の部分もあるが、岩石部分もある。
ここで、各冒険者たちの個性が分かれる。肉体自慢の[ビッグトルク]は、やみくもに掘り出す。魔法使い集団である[サンピラー]というパーティは、数種のダウジングで探している。他には、高さがあるため上り階段状に掘り出し穴場の上層部を狙っている。
[陽だまり]は体力勝負には非力。しかし、ドワーフのモスモスが加入したため、ほぼ穴掘りを任せて他メンバーが土砂を分別する分業にした。掘り進める中、モスモスが木片が埋まっていることに気付いた。
「おーぃ、板出てきたけど、どうするよ?」
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