第5話 多様な冒険者たち

 街に戻った冒険者たちは、ギルドに立ち寄り依頼書を確認した。その後、打ち合わせしているわけでもないのにギルド隣になる酒場に立ち寄る。他にも小さな酒場はあるのに。

 バラバラに座りたかったが、空いてる席が同じテーブルしかなく、しぶしぶまとまって座る。仕方なく、皆で乾杯。

 第一声は、皆同じだった。


「「なんだよ、鼻エリアって!!」」


 第3階層主エネルがこの場にいたとしても、同じ発言だっただろう。皆が共通意見だったので、各パーティや職業・種族を超えて、ワイワイと盛り上がりだした。

 そんな中、高齢パーティ[陽だまり]のカメロが、第2階層主であるドワーフのモスモスに話しかける。


「モスモスさんよ~、あの甘いお菓子エリアは感動したよ。子供の頃からの憧れだ」

「お、そうかい?気に入ってくれて良かった」


 見た目年齢が近いせいか、互いの話を始め、意気投合していく。


「そうだ、モスモス。うちの[陽だまり]に入らねぇか?」


 なんと、口説きだした。


「『陽だまり』は高齢だが、その分経験がある。他二人も俺の知らない過去がある。あんたが入ると楽しくなりそうなんだがな」

「そっちのパーティに参加した所で、階層主権利はオレのままだぞ」

「第2階層主権利が欲しいわけじゃねぇよ。高齢チームにジジィを増やすってだけだ」

「なんだと!ジジィの寄り合いかよ!・・・入ってやってもいいぞ」

「素直じゃねぇなぁ、ジジィは!おい、ピレン!ゼピン![陽だまり]にメンバー増えて、さらに暖まったぞ!」


 鼻息荒く高齢者たちが肩を組み、酒を飲み、椅子から転げ落ちる。

 他冒険者たちは思った。


「テーブル移りてぇ」


 それから数日後、冒険者たちに通知が届いた。


「ようこそ、第4階層へ」


 装備を整えた冒険者たちは、第3階層の下り階段周辺に集まった。


「いや~どうも、第4階層主の薬師アルラムです。まず、連絡事項があります。第3階層主エネルが鼻炎悪化により、第4階層以降の探索に参加しないそうです。こういう場合の階層主権利について設計仕様書を見ますと"階層主が階層作成途中で死亡または逃亡した場合、一つ前の階層主が階層決定をやり直す。作成後の場合は階層主不在とし、階層の仕様変更はできず改めて階層主を決定しない"とあります。なので、今後の第3階層主は不在。エネルの伝言は、以下の通り。"芸術的な鼻たちに愛を"」


 最後の伝言を聞いて、真顔な冒険者たち。それを見て、アルラムは第4階層へ皆を誘導した。

 第4階層へ下っていくと、漁港のような魚の匂い、生臭いと感じる者もいる印象があった。次第に床が見えてきて天井が高く、下ってきた階段の壁際から正面~壁の奥に大きな水槽がいくつも見える。階段から左を見ると階層の中央が見え、そこには、いくつも階段がある建物がある。なんだかよく分からない場所だ。


「は~い、冒険者の方々、もう少し進んでください。説明を始めます」


 後から付いてきた冒険者が下り階段から離れた時点で、階段に鉄格子が下りてきて上階層に戻れなくなった。


「では、このアルラムが説明致します。この第4階層は、冒険者全員参加で次階層主を公平に決めたい、そう考えております。その内容は、サハギンレース!半分魚・半分人の体であるサハギンを育成しレースを行なって、1位になったら次階層主権利が与えられます」


 続けてアルラムは説明した。


「私が設計したこの階層、中央にレース場、壁際水槽でサハギンを飼育。さらにその奥がサハギン卵の孵化施設。反対側の壁側は、冒険者の宿泊施設となっております。改良を加えたサハギンは、最大成長サイズが50cmほど。ちなみに鉄格子を下ろした理由として、外界の知識を持ち込んで不正に強化飼育をさせないため。公平さをご理解頂きたい。また、次階層主決定以降、この第4階層はダンジョン内レース場として運営します」


 冒険者から質問が出た。


「ここは、モンスターが出ない階層(セーフエリア)なのか?」

「いえ、モンスターはおります。サハギンだけがね!」


 テンションが気持ち悪いアルラムは続けて言った。


「サハギンの成長過程で、凶暴性を増す場合もあるでしょう。その場合は、育て親冒険者による対処が必要になるのため、装備品を外しておくのは危険かと思います。では、飼育説明書をお配りします」


 各パーティ・冒険者に配布された飼育説明書には、10日ほどでレース参加まで成長する行程としてサハギン卵の孵化図解やエサ配合、レース実戦までの調整方法が書かれていた。

 他階層へ移動できず、しかし不自由ない生活設備があるため、冒険者たちはサハギン育成に集中することにした。


 レース当日、育てた改良サハギンを運搬用水槽に入れ、レース場に運び込む冒険者たち。


「見た目ひどいのに、なんで愛着わくんだろうな。何言っても、"グェグェ"しか返さないのにさ」


 成長した改良サハギンの見た目は、頭部が魚、上半身が人に鱗、ヒレ、手に水かきがある。腰から下は魚類。大半の冒険者が育てた結果は、その形状。しかし、裏稼業が専門のパーティ[タマハガネ]が育てた改良サハギンは、どう見ても大型の魚に手足が生えている。"グェ"すら言ってくれない。


 タマハガネのリーダー:タマは、叫んだ。


「なんでウチのヤツは、うおの状態なんだ!」


 タマハガネの若い衆がなだめる。


「タマさん、これは卵選びで決まっているので、飼育状況が影響するものではないんです」

「うるせぇな!この体形に手足があんだぞ。指の股に水かき無いし、腕足に鱗じゃなくて毛が生えてんだ。ちょろっとじゃなくて、フサフサだ」

「はい、その毛を剃ろうとした別の若手が、サハギンに殴られ蹴られ、尾びれでアバラ折れまして。水の抵抗減らせば、もっと速くなるんじゃないかと考えたのですが、現状維持でレースに望むべきです」


 頭を抱えるリーダーのタマ。


「・・・レース場の控え水槽まで運べ。レース後、解体ショーをやってやる」

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