第2話 依頼主
探索依頼が出ている大穴の前で、依頼主ラギンが説明を始めた。
「この穴から入って、探索をして欲しい。まずは、構造が知りたいので深く潜らないように安全第一で頼む」
現在、大穴入り口には30名ほど集まっており、ごちゃごちゃ言いながらパーティごと入っていく。
「自然の洞窟とか落盤跡じゃねぇな、これ。しっかり手が加えてある」
入り口は土砂が崩れただけの穴だが、中に入ると天井・壁・床と補強してあり、それなりに広い空間で正面に通路がある。
通路を進んでいくと分かれ道があり、左・右・直進と分かれている。冒険者は、それぞれ道を選び探索する。しかし、だだっ広い空間に行き着くだけで、入り口からの直進の道を選ぶしかなかった。
直進し、また空間に着いた。壁を触り、床も調べる。これといった変化は起こりそうになく、罠も仕掛けられていない。
「探索しがいのない空間だなぁ。ラギンの爺さん連れてきて、見てもらってもいいだろ」
一組のパーティが、ラギンたちを連れて戻ってきた。
「おい爺さん、何もないがこれだけの人数集めたんだ。報酬はしっかりもらうぞ」
複数の冒険者が、ラギンに詰め寄る。ラギンは、高々と右手を挙げた。手には少し大きめの手帳があった。
「これが見えるか?先程、ワシのところに荷物が届いた。高尚な魔法使いが書き残したというダンジョンの設計仕様書という話だそうだ」
ざわつく冒険者たちと、『同じことやる気だ』と察するリステアとトコピ。
ラギンは手帳を開き、読み始めた。
「このダンジョンは、私が理想とするダンジョンを創造するため確保した空間。あらゆる設計を試すための場所でもある。しかし、用意したはいいが、じっくりと手をかける時間が私にはない。そこで、この設計仕様書を手にした者にダンジョン作成の権限を与えてみようかと思う。設計の注意事項は以下の通りだ」
・各階層ごとに、ダンジョン設計できる階層主を決める。ただし、設計期間は1ヶ月。期間を過ぎれば、その階層の追加・改修は不可能となる。その階層主は、『第○階層主』というダンジョンマスターの称号が与えられる。また、設計仕様書に基いて、モンスター召喚や罠配置をしてダンジョンの維持防衛に役立ててほしい。
・階層主を決定する手段は、勝敗がつく競い合うもので決定される。しかし、階層主が指名した場合、その相手が次階層主の権利を得られる。階層主を決める条件は、その階層主が示した意思によって変わる。必ず、血を流す必要はない。
・階層主に挑戦する権利に制限はなく、年齢、性別、職業、種族等も関係ない。複数人いるパーティの場合、パーティ名が階層主扱いになる。
・爆発等によるダンジョンの破損は、階層主期間が過ぎていれば精霊により自動修復されるが、期間内では改修作業と同等とみなされる。そのため、階層主負担による作業となる。ダンジョン拡張の発破作業は爆発範囲を計算して行うように。
・設計仕様書は、階層主やその他の人の手によって破壊する事ができない。なので、水没や燃焼による消失はない。
ラギンは続けて言った。
「もっと細かく仕様は書いてあるから、階層主になった時に熟読してくれ」
冒険者が声を上げる。
「次の階層主は、どうやって決めるんだ?ラギンが指名するのか?」
「いや違う。分かりやすく、希望者や代表者1名が出てきて、この部屋で戦ってもらう。ただし、武器の使用は禁ずる。関係ないものは、通路で待つように」
一気に騒ぎ出す冒険者たち。様子見や争いを好まぬ者は、通路に出た。
部屋に残ったのは、5名。階層主候補者である。一定の距離を保ち、いつでも攻撃できるよう身構えている。この戦いは必ず一対一と決まっておらず、一対多数。ヘタに仕掛けて、袋叩きも想定される。
やたら動く若手冒険者もいれば、壁を背にして構える者、大声出して牽制する者。
「誰からやってやろうか!どいつでも、やってやるぞ~!」
人相の悪い男が叫んだ拍子に、体がビクッと固まってしまった若い冒険者が一気に襲われ、動けなくなった。そこで均衡が崩れたため、乱闘が始まる。身軽な装備な者は素早く動けるが、一発攻撃を受ければダメージが大きい。重装備な者はチャンスを伺っている。もみ合いになっている中、攻撃が当たりにくく、頑丈で、体当たりで次々に相手を倒していく冒険者がいた、ドワーフの男。最終的には頭突きで勝ち残った。
通路から見ていたラギンが部屋に入り、こう伝えた。
「第2階層主は、勝負に勝ったそちらに決まった。名前は何というのかな?」
「私は、モスモスだ」
「そうか。では、モスモス、この設計仕様書を手渡す」
設計仕様書を受け取った瞬間、モスモスの体がフワッと柔らかい光に包まれた。また、ゴゴゴゴという轟音と共に第2階層へ進む階段が現れ、モスモスは下りていった。
冒険者の一人がラギンに質問した。
「あのさ~、第2階層が出来るまで、どこで待つの?ダンジョンから出られないのか?」
「今回参加している者に、通達が来るそうだ。一旦、街に戻っても構わない。新たな冒険者は、階層主が了承しないとダンジョンには入れない」
傷の手当もあるので、街に戻る冒険者がほとんどだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます