第10話 姉さんたちの部屋で……

隆史(たかし)は目覚めて驚いた!


大蔵(たいぞう)兄さんから「梓(あずさ)を頼む…」と言われて、

玉井家に護衛の役目として宿泊した隆史だが…


梓姉さんが寝ていた筈の夫婦の寝室のベッドで目が覚めたからだ!


何だか美味しそうな匂いがして…

「タカ……朝ごはん出来たよ♡」


隆史がマメ鉄砲を食らった鳩みたいにキョトンとしていたので…

「大丈夫よ。あなた何もしなかったから…」


そう言われて…やっと隆史は平常心を取り戻した。


隆史

「姉さん…俺…確か廊下で姉さんの護衛を…」


「護衛…ありがとう! 梓3等兵は無事であります!」


隆史

「姉さんったら…」


「タカ…サンキュー♡」


「こうしてタカと朝ごはん食べるのも何十年ぶりかしら…」


隆史は夕べの事よりも、《梓姉さんと俺は血が繋がっていないのか?》という事のほうを聞いてみたかった。


梓姉さんは結婚してから、身体の肉付きがふくよかに成ったようで、姉さんの身体を生めかしく眺めてしまった。


「姉ちゃん…少しくらいならタカにしてほしかったのに…」


[ブー‼️]隆史は飲んだコーヒーを吹いてしまった!


「冗談よ、冗談…大人のジョーク♡」


隆史は[まあ…冗談が言えるくらい梓姉さんも元気になったんだから…良いかな。]と思った。


………………………………………………………

それから3ヶ月も経ったろうか……

再び大蔵は命を狙われた。 


前回ヤられたのは飛び出しナイフでだったが、

今回は拳銃で撃たれた。


しかも重症だ。 おそらく弾は肺に達している。 医者は助かる確率は五分五分だと言っていた。


「梓……隆史さんを呼んでくれ… 」

病室で大蔵は苦しそうに そう言った。


……………………………………………………

大蔵

「隆史さん……

狙われてるって分かってたのに……

ざまあねえな…! 

それで…気がかりなのは梓の事だけさ。

梓は…幸せ薄い人生だったからな…

せめて小さな幸せっていうものを…感じさせて やりたかったんだが…

こんなタイミングでしか言えねえんだが、

《梓を宜しくお願いします。》」


隆史

「大蔵さん…気を しっかり! 

大蔵さんじゃないと梓姉さんはダメなんですよ!

早く回復して梓姉さんを安心させてあげて… 」


大蔵の容態が急変したのは…

大蔵が隆史の手を握って「梓を…たのむ… 」と言った直後だった。


看護師が呼びに行ったのだろう…

直ぐに梓も大蔵に寄り添った。

「大蔵さん……しっかり…… 」


大蔵が意識を取り戻す事は無かった。

二日間生死を さ迷った後に大蔵は息絶えた。


玉井組の組長は大層落胆していた。

大蔵には五つ離れた弟がいて、

「俺が玉井組を継ぐ!」

と言ったそうだ。


組長は「梓さん…悪かったね。

短い結婚生活だったが……大蔵は幸せそうだったよ。

あんな笑顔を見せた事はそれまで無かったからね。

それに大蔵は寛大な男さ。

梓さんの事は、

《俺にもしもの事が有ったら…梓には好きなようにさせてやってくれ……

再婚するって言うのなら、そうさせてやってくれ。

俺はそのほうが心残りが無くて良いから》

と遺言を残していったよ。」


梓は それを聞いて大いに泣いた…。

梓は大蔵に大切にされて本当に幸せを感じていた。


梓は組長の許しを得て玉井家を出て独り暮らしを始めた。

大蔵の弟が玉井組を継ぐのを邪魔してはいけないと思い…

また大蔵との想い出が梓の胸を締め付けて苦しくなるからだった。


隆史は梓姉さんを心配して、

新しいアパートの契約や引っ越しの手伝いまで

…面倒を見てやった。


「タカ……済まなかったね。色々ありがとう。助かったよ。」

そう言って梓は隆史の首に手を廻して感謝の気持ちを表現した。


隆史

「姉さん…困った事や要るものが有ったら何でも言ってください。

今まで俺を大切にしてくれた…

せめてもの恩返しですよ。」


「タカ……一つ頼みが有るんだ。

この辺は外灯が少なくて寂しい所だろ。

隣の部屋が空いてるみたいだから……

タカも隣へ引っ越してきてくれないか?」

梓は心細いような表情をした。


「ああ……分かったよ。

姉さんが寂しいって言うのなら……

越して来るよ。

きっと亡くなった兄さんも…

そうしろって言うだろう。」


隆史はそう言うと梓が寂しくないようにハグをしてやった。

そのハグは…いつもより長かった。

そのハグに梓も隆史も陶酔した……

梓の息づかいが少し荒い。


「あっ、ゴメン。キツくなった?」

隆史はそう言うと梓から離れた。


「タカ……今日は姉さん…

初めて このアパートに泊まるだろ。

ちょっと心細いんだ… 」

梓はそう言いながら顔を赤らめた。


「ああ…じゃあ俺が台所で寝てやるよ。」

隆史がそう言うと梓は少し元気が出てきたみたいだった。

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