第6話 濃厚なハグ

「熊井組の次は玉井組かい! 

全く《東京スピンドール》もナメられたもんだよ!」

ホステスの一人が酒のグラスを飲み干して、テーブルにドンと置く!


次の瞬間、そのホステスの頬にビンタを喰らわせる女がいた!


「ナメてるのは どっちだい! 《東京スピンドール》は真っ当な仕事をしてるんだ! 

何も文句を言う筋合いは無い筈だよ! 

言っとくが、この店はカタギの店だよ! 

組の者が何かすりゃあ…警察に言えば良いことだよ! 

良いかい! 玉井組とは私がナシを付ける! 

お前達はちゃんと仕事をするんだ。

家に帰りゃあ待ってる家族も居るんだろうが!」


隆史

「梓(あずさ)姉さん! 来られてたんですか。

ウチの店員が挨拶も せずに すみません。」


隆史

「俺の実の姉貴の梓姉さんだ! 

この方は組の者が10人まとめて掛かっても敵わないほどだ! 

間違っても粗相の無いようにな!」


……………………………………………………………隆史

「梓姉さん…玉井組とはどういう風に話を付けるお積りなんですか…。」


「そうだなあ…

実は玉井組長の息子がアタイと同級生でな…

こんな私に求愛して来てるんだよ。」


隆史は組に話を付ける事と、組長の息子の求愛と

どんな関係があるのか…ピンと来なかった。


「それでな…アタイが嫁に来てくれるのなら、

《東京スピンドール》の店は悪いようにはしないって親子共々に言うんだよ。」


隆史は酒のグラスを危うく取り落とす処だった!


隆史

「姉さん!姉さんは…それで良いんですか!無理して無いんですか!

俺に気を使って…行きたくも無い相手の所へ嫁ごうとしてるんじゃあ…!」


「おいおい!タカがムキになる処じゃないだろ! 

これは姉さんの婚礼の話なんだから…。」


隆史

「ゴメン…。本当に姉貴がそれで良いのなら…良いんだ。

でも俺や店の為にこれ以上姉貴が犠牲になるのは堪えられないんだ。」


「そうか…ありがとよ。

姉貴思いの弟を持って姉ちゃんも幸せ者だよ。」


ふいに隆史は梓姉さんを抱きしめたい思いになった。

しかし婚礼話が出ている姉貴と触れ合うのは何か後ろめたい気がした。


そんな隆史の気持ちが分かる訳は無いが…

梓姉さんは隆史をハグしてやった。


そのハグは隆史にとっては姉貴と今まで した事の無いような濃厚なハグだった…。


ひょっとすると梓姉さんは婚礼話が出て男女の仲に急に思いが いくように なったのかも しれない。


隆史は、その相手が血の繋がりの無い女性なら…

そのまま口付けをして…

服の上から愛撫をしたい衝動に駈られるのだった。


隆史は何が何だか分からない思いでクラクラしてしまった。

[何なんだ!この感覚は?]


「ああ…すまん!隆史には恋人が居るんだったな!

焼きもちを焼かれると申し訳ないからな…」

そう言って梓姉さんは隆史から離れた。


梓姉さんも立っていられない程 めまいを感じているようだった。

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