第5話 真理と『東京スピンドール』
極楽の親父が殺られた一件は…熊井組長の詫びによって平和的な幕引きを迎え、
《東京スピンドール》の店員達にと…
熊井組からの差し入れを配ったのだが、
一人につき50万円を越える額となった……。
若い衆は それぞれに気晴らしをしたみたいで、
梓と隆史が目を光らせたり、言いたい事を受け止めてやっている事もあり、
その後にお礼参りを名乗り出る者は居なかった。
隆史
「梓姉さん…お袋と極楽の親父との馴れ初めなんて…姉さんは知ってるんですか?」
梓は隆史の問いに…今までの険しい表情が消えて、
一人の乙女の表情になった。
「ああ…まだタカには言って無かったっけ…
お袋は元の親父に先立たれて…
女手一人で、俺達二人を…
それは大変な苦労をして育てたっていう話だよ。
それで夜の勤めをしてたそうなんだけど、
とにかくベッピンでスタイルが良い上に頭が切れるから…
当時のオーナー、つまり極楽に見初められたって訳さ。
店の名前は以前は《キャバレー東京》ってダサい名前だったんだけど、お袋のダンスが上手くて、《スピンドール》つまり踊り子って意味の名前に変えたそうだよ。
よほど極楽はお袋に惚れてたんだね。」
隆史
「そうなんですね。 お袋って…そんなに良い女だったんだ。」
梓
「それで…どうなんだ? タカのほうは?」
「えっ!俺ですか?」
隆史は極楽の親父が殺られて…色恋沙汰の話をするのを 少し躊躇(ちゅうちょ)した。
それに梓姉さんには自分のせいで目を潰した…
という負い目があり、姉さんのほうが先に幸せになってもらわねば…という思いが強かった。
「俺はあんまり……
それより、姉さんに先に幸せになって貰わないと!」
隆史は少しムキになる言い方になった。
すると見る見る梓姉さんの顔が曇り…
「舐めんじゃねえよ……!
こんなオバケ女に誰が恋など… 」
先に泣き出したのは隆史のほうだった。
「姉さん…… ゴメンよ! 」
梓は一瞬……気を削がれたが、
泣いている隆史の肩を抱いて…
「姉さんが悪かったよ。
タカ…… ゴメン。」
隆史は[いや…俺のほうが悪いから…]
そう言いたかったが言葉にならかった。
梓は隆史と抱き合いながら、母性愛に似たものを感じ…
隆史は母親の胸に泣きじゃくる子供の感情を感じたのかもしれない。
……………………………………………………………《東京スピンドール》の店のほうでは…
また何だかキナ臭い雰囲気が漂っていた。
何処かの組の若い衆がトラックで店に突っ込んで来たのだった。
店の者は すんでのところでトラックに引かれるところだったが、幸いケガ人は無かった。
玉井組の者だとトラックの男は言い放ったそうだ。
それから1時間後に玉井組の組長を名乗る男から隆史に電話があった。
「隆史さん…極楽亡き後…スピンドール辺りの島をどうするんです?って言うか…もう既に その辺りの島はウチが戴いてますがねえ。
後はスピンドール位のもんですよ。どうです?
ウチにショバ代払ってくれますか?」
隆史は頭に来て…
「断る!と言ったらどうする?」と言い放った。
「そうですねえ。今日みたいな自動車事故が毎日起こりゃあ…
スピンドールの客も安心して通っては来れないでしょうねえ。ははは。」
[何て奴だ!こちらの弱味に付け込みやがって!そうだ、梓姉さんに相談してみるか!]
隆史
「分かった、少し時間をくれ!」
隆史は難儀な問題が起こる度に相手をぶっ潰したい衝動に駈られるが……、
相談する為に梓姉さんに会うのは少し楽しみでもあった。
「姉さん…実は玉井組の組長から電話がありまして…。」
隆史は今日は梓姉さんが少し めかし込んでいるのを感じていた。
「ああ…どうしたもんだろうか?」
隆史は梓姉さんが いつものような気迫が無いことに何か違和感を感じた。
「タカ…どうだろう…ここらで裏の世界から足を洗うっていうのは?」
「梓姉さん…何かあったんですか?」
梓
「確かに極楽亡き後、島を取り合う争いがあるのは…分かっていたんだが……、
その後をタカに継がせるのもなあ… 」
「俺の事を案じてくれてるんですね。姉さん… 」
隆史は気丈な姉さんの気持ちの変化がどこから来るのか?と戸惑っていた。
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