第二十一話「お前は強いよ」
「大丈夫か」
戦いを終えると、奈路はすぐにカルマイのもとに駆け寄った。カルマイは仰向けに倒れていた。
口の近くに手をやると、かすかに空気の流れを感じる。
「息はしてるな」
カルマイの両腕を背負っておぶろうとしたが、鎧も合わせると、重量は岩のように重く感じられる。奈路が非力なこともあり、一歩も動けなかった。
「重すぎだろ。子泣きじじいかよ」
ひとまずダンジョンからは出たかったが、どうするか。
奈路は自分のポーチから道具屋で買った回復薬のビンを取り出した。
カルマイの顎を引いて、無理やり口を開くと、ビンの中身をすべて注いだ。
カルマイは咳き込みながらすぐに目を覚ました。
「おえッゲホッゲホッ苦い。なんだこれ」
「おお、効いたか」
目覚めたカルマイは、奈路が手に持つ回復薬が目に入ると笑った。
「それ経口薬じゃないぞ」
「ごめん」
奈路が気まずそうに謝ると、カルマイは尋ねた。
「なぜ私を助けにきた」
「この剣が理由だ」
奈路は前日にカルマイに渡した女神の剣を抜いた。
「この剣はどうやら、俺が必要だと思うと、その瞬間にどこにあったとしても俺の手元に戻ってくるらしい」
奈路はそういうと、剣を地面において、数歩離れた。
わざとらしく右手を掲げると、剣は一瞬で奈路の手元に戻る。
カルマイはあまり驚かなかった。この剣の異常さは、既に今日、嫌というほどわかっていたから、追加で何があったとしても意外に思えなかった。
「前の日にも同じようなことがあって、今日やっと気づいたんだ。それで、剣がなくてピンチになってるだろうと思って、助けに来た」
「なるほどな。一先ず礼を言わせてくれ。お前が来なかったら、今日私は間違いなく死んでいた。心から感謝する。この借りは必ず返すことも約束する。一つだけ聞かせてくれ。なんでそんな剣を、お前は私にくれたんだ」
「言っただろ。こんな危険な効果があるなんて今日まで知らなかったんだ。知ってたら絶対渡さないよ」
「そういう意味じゃない。今日私は、その剣を半日振り回した。切れ味は凄まじく、羽のように軽い。その剣さえ持てば、簡単に最強になれるだろう。そんな代物を、お前はどうして簡単に手放したんだ」
「格好悪いからだ」
奈路は即答した。
「こんな剣使って勝ったってしょうもないだろ。今日だって、昨日お前と戦ったときだって、本当は使いたくなかったんだ。でも死にそうになって、言い訳して使った。俺は弱いから、手元にあると絶対に使ってしまうだろ。だから遠ざけようとした」
「そうか」
「結局、俺が弱いせいですぐに手元に戻ってきたんだけどな」
カルマイは、自分の剣の師匠を思いだした。同じ獣人で、試合で一度も勝ったことがなかった。ただ手段を選ばず、闇雲に強さを求めるきらいがあり、最終的に禁呪を使って魔族になり、行方不明になってしまった。
もし師匠がこの剣を持ったら、絶対に手放そうとはしないだろう。それを、この男は簡単に手放した。
「お前は強いよ」
カルマイはそう言って笑った。
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