第二十話「俺が知るかよ女神に聞け」

 奈路は周囲を見回したが、女神の姿を見つけることは出来なかった。探すのを諦めて、代わりに空に向かって叫んだ。


「おいクソ女神。カルマイの場所を教えろ」


 するとすぐに返事が帰ってくる。

『誰がクソ女神よ。ただ、カルマイの場所に行きたいんだったら、あなたが剣を握ってそれを望めば叶うかもね』

「なんだそりゃ。アホらしい」

 しかし奈路は言葉とは裏腹に、すぐに剣を握り、女神の言う通りに、カルマイのいる場所に行きたいと強く願った。


 すると剣が光る。その光は、奈路が最初にこの世界に降り立ったときと似ていて、眼を開けていられないほど眩しかった。

 反射的に眼を閉じる。

 次に眼を開けたときには、奈路は砂漠には居なかった。思わず尻もちをつく。


 手のひらをつくと、床は冷たく硬い。石だった。どうやら洞窟の中に居るようだ。

 今朝受付嬢にカルマイの所在を尋ねたとき、ダンジョンに潜ったと言っていたから、多分ここがそのダンジョンなんだろう。


「なんでもありだなもう」

 奈路は剣を見つめてつぶやいた。

 広い空間だったが、眼の前に岩のような材質の赤黒い肌を持った、筋骨隆々の巨人が居るせいで、狭く感じた。


 巨人は自分の身の丈を更に超える大きさの、巨大な斧を振るおうとしている。その体は赤く発光していて、そのお陰で周りがよく見える。斧の先にはカルマイが居たが、戦いに集中していて、奈路には気づいていない。


「おい、助けに来たぞ」

 奈路が叫ぶと、巨人が振り向いた。その頭には腕と同じくらいの太さの角が生えていた。


「ふはははは、随分と心強い増援が来たものだな」

 巨人は奈路を見て言った。 


「そうだな。私はとても嬉しいよ」

 カルマイは言った。


 奈路は、巨人が自分に近づいてくると、異常に気づいた。

「熱ッ」

 肌が焼けるように熱い。汗が出るのではなく、焼けた鉄板をそのまま押し付けられたような熱さだった。


 逃げるように十歩距離を取った。

「どうした? 助けに来たのだろう? その剣で、吾輩と戦うのだろう? どうして離れるのだ? 近づかねば戦えないだろう」


 巨人が発光している理由に気づいた。巨大な体から、尽きること無くマグマが溢れている。

(こんなやつとどうやって戦えっていうんだよ)

 確かにこの剣は最強だ。ただし、近づかなければ剣では斬れない。


 いや、まてよ。

「別に、近づかなくても戦えるぜ」

 奈路はそう言うと、剣を投げた。軽い剣はフリスビーのように横回転しながら巨人に飛んでいった。


 ギューカイは、奈路の投げた剣を簡単に避けることができたが、あえてその選択をしなかった。

 それは魔族の考え方だった。この剣を溶かし、少年とカルマイが絶望する姿を見たい。

「こんなもの効かんわ」

 そう言って、ギューカイは奈路の身長と同じくらい巨大な左の手のひらで剣を受け止めようとした。


 剣は簡単に溶かせるはずだった。それが普通の剣であれば。

 剣は溶けることも、止まることもなく回転し続け、ギューカイの左手の人差し指から小指まで、四本の指を手のひらの途中から切断した。


「貴様ァッ許さんぞ!!」

 巨人はあまりの痛みに涙を流した。その涙もマグマだった。


「効かないんじゃなかったのかよ」

 奈路はあまりにも自分の企みがうまくいったため、思わず笑ってしまった。


 ギューカイは切断された箇所を手で押さえた。マグマのお陰で、すぐに血は止まる。

「あまり調子に乗るなよ。武器を失って、もう戦えまい。絶対に拾わせないぞ」


 奈路は何も言わなかった。無言で念じて剣を手元に戻すと、巨人に見せつけるようにそれを|掲(かか)げた。


「なに? 貴様、どうやった? どういう仕組みだ?」

「俺が知るかよ、女神に聞け」

 奈路は再度、剣を投げつけながら言った。

 それから三分も経たない内に、ギューカイは巨大なバラバラの死体になり、奈路は勝利を収めた。

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