第2章 異世界アンチと女剣士

第十話「罪悪感」

 奈路がギルドの建物に入ると、カウンターで酒を飲んでいたハザンに見つかった。


 ハザンは、マーモロットに噛まれて傷だらけの足を指さして笑った。

「バカめ。だから脛当て買っとけって言ったんだ」

「今日中に買うよ」

 奈路は恥ずかしさを誤魔化すように、ギルドの受付嬢にマーモロットを五匹討伐してきたことを報告する。奈路は不安だった。

 

 帰り道の途中でどうやって依頼を達成したことを証明するのだろうと気づいたのだ。草原に戻り、五匹分の死体を手に持って帰る余裕はなかったため、もし証明しろと言われたら、足の傷が直ったあとに脛当てを買った上で、再び草原に赴く予定だ。


 心配は杞憂に終わった。受付嬢が、奈路のブロンズ色の冒険証に手をかざした。

「はい、マーモロットを五匹駆除いただいたことを確認しました」

「どうして分かるんだ?」

「冒険証には、狩猟したモンスターを自動的に記録する仕組みがあるんです」

「なるほど」


 受付嬢の表情が、急に変化する。

「あれ? 少々お待ち下さい。まさか、特定個体のマーモロットを一人で討伐したのですか?」

「特定個体?異様にでかいやつのことなら、まあ一応」

 奈路は気まずそうに言った。女神に渡されたずるい剣を使ってしまったからだ。その剣は、今は奈路の背中にある。


 受付嬢は奥に下がり、手配証を持って戻ってきた。

「草原の巨大な個体は懸賞金がかかっていました。なので報酬として金貨二枚と冒険証のランクアップを行います」


 そう言うと、奈路の銅色の冒険証が銀色に変わり、続いて金色に変わった。ブロンズから一つ飛ばしにゴールドランクになったようだ。

「おい凄えじゃねえかナロ。草原のデカイの一人で倒したのか?」

 ハザンが奈路の肩を小突いた。


「別に凄くなんかない。剣を使ったんだ」

 奈路は目を合わせずに言った。実際そうだ。女神に貰った剣を使った。

「謙遜するなよ。剣を使うのなんて当然じゃないか。素手で倒せるわけないだろ」

「いや、そういうことじゃなく」

 奈路が言い返しても、ハザンは聞いていないようだった。


 金色に変わった自分の冒険証を見つめて、奈路は憂鬱な気分になった。


 その時、背後から異様にドスの効いた女の声が聞こえた。

「おい、貴様か。マモ太郎を殺ったのは」

「は?」

 声の方向に振り向いた直後、奈路の視界が揺れて、息苦しくなる。


 重機のような凄まじい力で胸ぐらを掴まれ、そのまま壁に押し付けられた。

「うぐぅ」

「貴様かと聞いている」

 奈路が突然の出来事に泣きそうになりながら、声の主の顔を覗くと、それは奈路と同じくらいの歳の猫耳の生えた女の子だった。

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