第四話「なろうアンチの悪巧み」

 光に包まれた奈路が再び目を開くと、見慣れない中世ヨーロッパのような街並みの中に、二本の足で立っていた。

 飛ばされる場所についても、何も無い平原や森の中などではなく、気を使われているようだ。


 街はレンガ造りの建物が多く。そこまで高さはないものの、壁や天井がカラフルな塗料で装飾されていたり、窓にはガラスのような光を通す透明の素材が使われていたりと、そこまで文化レベルは低くないように見えた。


 街の住人が身につけている衣服も、やや襟の形が変わっていたり、生地がガサガサと頑丈そうだったりする以外は、奈路の世界の衣服と変わらない形をしていて、そこまで奇抜なものはなかった。逆に、奈路の来ている中学校の学ランも、そこまで奇抜なものに映っていないようだった。


「おおっ」

 奈路が驚いたのは、時折、犬や猫のような耳を生やしている人だったり、あるいは目が赤くて耳が尖っている人や、トカゲのような鱗を持っている人、人の形をしていても、人種以前に種族が違うような人々がいた事だ。

 通りすがりにまじまじと見つめると、不思議そうに見つめ返される。どうやら猫や犬の耳が生えていたり、トカゲのような鱗を持っていたりすることは、この世界では珍しいことではないらしいと悟った。


 人々が利用する言語は、発音も文法も日本語とは違ったが、何故か一言聞いたり、見たりするだけですぐに理解することが出来た。特段の説明はなかったが、これも女神のサポートのお陰なのだろう。

「とりあえず、宿屋、宿屋か。すげえ。これも読めるな」

 大きな平屋建ての建物の前で足を止めて、中に入る。看板に書かれているのは見たことがない文字だったが、奈路はそれが「宿屋」を意味していることが、ひと目見るだけですぐに理解できた。


 まず最初にやろうと決めていたことをするために、宿屋に入り、近くに武器を扱っている店はないかを尋ねると、親切に教えてくれた。

 礼を言って、武器屋へ向かう。その道すがら、奈路は突然立ち止まると、すうと息を吸い込み、空に向かって日本語で叫んだ。


「おい女神!! 感謝しろよ!! お前の小説めちゃくちゃ面白くしてやるからな!!」

 水晶越しに奈路の様子を覗いていた女神は、突然叫ばれたので、肩をビクリと震わせた。


「めちゃくちゃ面白くするって、一体何をするつもりなのよ」

 隣にいる少年に尋ねる。

「さあ、全く予想がつきませんね」

 天使長はニヤリと笑いながら答えた。

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