第14話 輪舞の二階席【Exp 4】

 青空のもと、技術者の集団がいた。ある者は観測機器のチューニングを行い、ある者はディスプレイに表示されている数字を追いかけ、ある者は遥か彼方の戦場を眺めていた。よく見れば、彼らの着ているつなぎの色が違うことがわかる。竜后チームは青が基調、竜姫チームが黒が基調で差し色に赤が入っていた。

 ここまで来るまでは文字通り競争だった。機体開発はもちろん、どちらのトラックが先にたどり着くか、この簡易観測所の設営まで。終わってしまえば、あとは観測と計測をしながら見届けるだけだ。

 さらによく見ればチームは厳密にわかれておらず、青のつなぎの集団に黒のつなぎの人間が混じって、モニターを見ている。あるいはその逆もあった。他のチームの機材の不調を一緒に直す姿もあった。


「どっちが勝つかな」


 青いつなぎを着た男が空を見上て呟く。横に黒いつなぎを着た男が並んで、


「どっちが勝っても面白い」

「そっちは勝って欲しいと思ってたが意外だな」


 人 VS FSで考えたら、竜姫アルギズに勝って欲しいはずだ。


「勝って欲しいとは思う。そのために様々な手を尽くした」


 彼の疑問を感じ取ったのか、黒いつなぎの男が答える。


「不正もか?」

「まさか、正々堂々に決まっているだろう」


 黒いつなぎ男は眼鏡のずれを直しながら、


「小賢しい手はなしだ、こういうのは」

「それは、いい考えだ。しかし、俺たちはなんて物を作ってしまったんだろうな」

「そりゃあ、そうしないとやばい状況だから、でしょう」


 黒のつなぎを着た青年が会話に加わる。


「ああ、異界化現象か」

「こっちじゃ起きてないですけど、地球じゃちょくちょく起きてるって言うでしょう?」


 青年は確認するように続ける。異界化現象とは特別な儀式を経て、集団の意識を一つに束ねて行使する魔術だ。この世界とは異なる物理法則の小さな世界を生み出せる。放置すれば範囲が拡大する。この世界を飲み込むほど巨大化するのか、どこかで自然消滅するかは議論されている。が、物理法則が変われば、適応できない生物は死に物体は崩壊するような事象は放置できない。


「だから、最大戦力を最速で届ける力が必要だってのが趣旨でしょう。間違ってます?」


 問いに黒いつなぎの男はいいや、と首を振り、青いつなぎの男は間違ってない、とうなずいた。


「あのが最適任で力を貸してくれた、でいいじゃないですか」

「もしかしたら、世界を破壊する猛毒になるかもしれないのに?」


 青いつなぎの男がいった。実際、竜后はFSの能力を活かした機体だ。ポテンシャルを引き出すといってもいい。有用性も危険性も知り尽くした上であえて聞いた。


「毒をもって毒を制すっていうじゃないですか」


 青年は笑顔のまま続ける。


「それにこっちが敵だと疑ったら、本当に敵になっちゃいますよ」

「そうだな。では、賭けでもするか」

「どちらが勝つかか?」

「いや。いい方向に転ぶかどうかさ」

「話にならない。いい方向に転ぶに全賭けだ」


 青いつなぎの男の言葉に全員は笑った。

 賭けはいい方向に転び、別の世界が地上に突如発生する異界化現象の解決に彼女たちが地球の空を飛びまわることになるのは別の話。

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