第13話 創者が語るには【D-C-2】

 歌手と付き合うと歌にされる、と誰かから聞いたのをカシスを思い出した。ショートショートに自分がモデルと思わしき登場人物がでてきたから。


「ねえ」

「なぁに?」

「この話にでてきた登場人物、私がモデルなのかしら?」

「……」


 普段とは違う間が生まれた。瞬子は考え事をするときに深呼吸したり、目を伏せたり、声には出さないが何かしらの反応をする。今回は身体がこわばっているのか動きがない。


「……うん」

「そう」


 いつかはモデルにされる直感と覚悟はあったので、別に怒りなどはない。ただ、本当はどうなのか、を確認したかっただけだ。


「あのね、カシスちゃん」

「何かしら」

「この役にはまるのはカシスちゃんしかいないと思ったから」

「そう、それはありがたい話だわ」


 冒険ものでチームのサブリーダー的な立ち位置の人物だ。落ち着きがあり、言葉を上手に使い、不明点があるなら説明し、不満があるなら吸い出して、チームとしてまとめていく、そういう動きをしていた。ギルドマスターの経験を話したことが元になっているだろう、とカシスは考えた。


「ちゃんと観察して、助言ができる。それを意識しないでさらっとできる人っていったらカシスちゃんしか思いつかなくて。容姿もちょっとミステリアスで憂いもある感じにしたらもう……」


 珍しく熱意のあるトークは10分ほど続いた。理解度が高まるどころか、先の展開まで聞けてしまった。将来の展開を楽しみにしつつ、


「随分と活躍しそうね」

「モデルに負けないぐらい活躍させたい」

「ありがたい話だけれど、どうして?」

「……ほかのFSを題材にした作品があまりにもひどいから」


 声のトーンを落として、瞬子はぽつりといった。素材として都合よく使われているのはカシスも知っている。むしろ、どういう扱いか気になって映画館に足を運ぶことすらある。


「確かに扱いはよくないけれど、別に私は気にしてないわ」

「私は気にしてる」

「私の代わりに怒ってくれているの?」

「それはある、と思う。でも、もっと、理由はモデルにしたら、とても魅力的だったから、つい筆が進んじゃって」


 声が小さいの恥ずかしさをこらえるためだろうか。カシスはどう返せばいいのか、しばらく悩んでから、


「参考になったら幸いだわ」

「今度は、先に許可求めるね」

「別にこれぐらいなら気にしないけど」

「レーティングとかに引っかかりそうな話書くときとかあるかもしれないから」


 カシスは紅茶をむせそうになるのをこらえる。

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