第80話 この世界の真実

「……」

「……」

「……あ~えっと、何か飲む?」


 そう切り出したのは、田中であった。

 俺は小さくため息をつき、椅子から立ち上がり飲み物を準備しにキッチンに向かう。

 今の状況はリビングにて俺と豊橋、そして田中という状況である。

 俺と豊橋は向かいに座り、田中は豊橋の隣に居てもらっている状況だ。


 玄関先での突然の大声での謝罪。

 あんなのは誰でも驚く。現に、田中も驚いてた。

 俺は驚きつつも玄関先でそんな事をされ、通行人などからの視線が集まっている事に気付き急いで二人を家の中へと入れたのだ。

 そしてとりあえずリビングに座ってもらう事にしたのである。


「(色々ありすぎて、何から聞けば分からなくなる)」


 ため息をつきながら俺は豊橋に視線を向ける。

 豊橋は俺と視線が合うと申し訳なさそうにし視線を外した。


「(とりあえず豊橋は後回しだ。田中と一緒に居るということは、何かしらの関係者と考えていいか。なら、変に話を隠す必要もないだろ。今は田中とだな)」


 そのまま豊橋から隣の田中へと俺は視線を移した。

 田中は俺の視線に気付き先に口を開く。


「オーケー、まずはわっちからだね」

「心を読んだのか?」

「いやいや、今のはそんな事しなくても何となく視線で分かるさ」

「そうか。じゃ、早速だが何で世界が戻ってるんだ? 俺は告白も何もしてないぞ。ただ寝て起きたらこうだ。何が起きてるんだ?」

「そうだよね。やっぱり、そこから来るよね」

「隠し事はなしにするんだろ。全部教えろよ、田中」


 田中は大きく一度深呼吸をする。

 そして、三センチほどの正方形の箱を取り出し机に置いた。

 直後その箱から真上の宙にプロジェクターの様に白い映像が映し出された。


「とりあえず、これ見えるよねたかちゃん?」

「ああ。真っ白い画面つうか、映像だろ」

「うん。で、今から映すのがこの世界の真実なんだ」


 その田中が口にした後、白い映像がカラフルな風船に埋め尽くされ映像が流れ始めた。更にはポップな音楽も何故か流れ始める。

 映像はアニメ映像でかわいい女子が大半を占めるが、男子もちょくちょく出てくる。皆制服を着て、学園を中心に色んなイベントが起きる一コマを切り取り、連続で見せてきた。そして一分ちょっとでそんな映像が流れ終わると、最後にゲームの様なタイトルが大きく出て終わった。


「……え? 何これ」

「あれ、たかちゃんゲームやったことない? これは男性向けゲームでいわゆるギャルゲーってやつだよ。可愛い子たちと仲良くなって恋人になってイチャイチャできる。色んなイベントを乗り越えきず――」

「いや知ってるよ。その説明じゃなくて、何で世界の真実とか言ってそういうゲームの最初で流れるような映像を出したんだよ! 意味が分かんねんの! 流すもの間違ってんじゃねえのか?」

「うんん、間違ってないよ。これが真実。たかちゃんこういうゲームはやった事あるんだよね?」

「はぁ~……隠し事はなしなんじゃねえのかよ」


 俺は呆れて田中から視線を外し深くため息をつく。

 それと同時に宙に映し出された映像が完全に消える。


「たかちゃん、わっちの質問に答えて。やった事あるんだよね?」

「……」

「たかちゃん」

「……はぁ~。ああ、あるよ。それが何なんだよ」

「ありがとう。この手の恋愛ゲームには攻略対象がいるでしょ。で、主人公がその子と付き合うまで色んなイベントをこなして告白し、付き合う。疑似恋愛を体感出来る。で、たかちゃんはそんな疑似恋愛世界の主人公ってわけ」

「あ~はいはい。主人公ね~」


 田中の話を俺は聞き流す様に返事をした。


「信じがたいかもしれないけど、これが一番分かりやすくこの世界の真実を表しているんだよ」

「じゃあなにか、俺が主人公となって詩帆を落とすゲーム。失敗したら途中からやり直しできる現実ではない疑似恋愛世界ってか?」

「そう。ここは疑似恋愛世界という仮想空間、ある目的のためにたかちゃんらが創り出した特別な世界。一部を除けば、ほぼ現実世界と変わらないんだ」

「ちょっと待て、俺が作ったってどういう事だよ? 俺はそんな物作った覚えはないぞ!」

「もちろん今のたかちゃんじゃない。未来のたかちゃんさ。過去の出来事を忠実に再現し、この世界は創られてる。だから、この世界で起きた事象は現実にたかちゃんが経験しているものさ。まあ、前回はイレギュラーが発生したけど」


 俺はそこで一瞬思考が止まりかけた。しかし、直ぐにある出来事が頭の中で甦った。


「おい、ちょっと待てよ……その話が本当なら」


 待て、それ以上は……


「最初の世界で体験した」


 言うな……言うな俺。それ以上は言うな! 口にするな!


「詩帆が死んだっていうのは」

「……うん、あれはたかちゃん自身が体験した紛れもない事実だよ」


 田中はそう答えた後、少し俯いた。

 俺は一気に全身から力が抜けた。


 詩帆の死はもう変えられない真実。こうしてやり直しているのに意味はない。

 じゃこの世界は何なんだよ。自己満足のためにこんな世界まで作り出して、詩帆を救った気持ちを味わえる自己満足疑似世界ってことか?


「ははは……はははは! 何やってるんだよ俺! こんなもの作ったところで、何も変わんねえだろうが! 仮想世界で詩帆を救って自己満足しても、現実じゃ余計に辛く悲しくなるだけじゃんかよ!」


 俺は真上を向いて叫んだ。


「たかちゃん、落ち着いて。まだ話の途中だから」

「落ち着けるか! こんな事しても何の意味もねえだろ。天使だか何だか分からない存在までゲーム要素のように付け足してよ」

「いや、わっちら天使はこの仮想空間だけの話じゃないよ。現実に存在している」

「は? 現実にいる? お前らが?」

「うん。リミットも存在して、たかちゃんは現実世界でもこの世界で最初に体験したようにリミットを解除しているんだ」

「現実でもこいつがあって、天使もいる」


 両手を前に出し俺はそれぞれの甲に刻まれた数字を見つめる。


「現実のうみちゃんにも、リミットはあるし天使佐藤も存在してる」

「佐藤……あいつも現実に」

「うん。でね、たかちゃんらがこの世界を造った理由は」

『そこから先は私が話すよ』


 突然女性の声が聞こえてきた。その声はどこかで聞いたことがあるような声をしていた。

 俺は突然の声に周囲を見回してしまうが、誰もそんな人はいなかった。

 田中も豊橋も少し驚いた表情をしていた。

 すると机の上に置かれ続けていた正方形の箱から映像が再び映し出されたのだ。

 そこには白衣姿で、セミロング程の長さの金髪の女性がいた。


『若くて元気だね、この時はまだ』

「ど、どうしてあなたが」

『この方が田中より話を信じやすいし、早いと思ってね。それに前回のイレギュラーの一件もあるし』

「たしかに、そうですね」


 田中が敬語で話している姿も珍しかったが、俺は映像に映る女性がどこか見覚えがある様な気がしてならなかった。

 どこか親近感が湧くもこんな大人な女性の知り合いは知らなかった。


『さてと、話を戻そうか祐樹』

「え、俺の名前知ってる?」

『おいおい、まさか私のことが分かってないとかじゃないよな?』

「いや、その~分かるような、分からないような……」


 白衣を着た女性は深いため息をついた。

 俺は苦笑いをし続けた。


『成長した顔すら分からないとは、正しく愚弟ね。この調子じゃ望美姉は泣くな』

「っ! もしかして、美希姉!?」

『そうだよ。全く、そんなに老けてもないのにどうして姉の顔が分からないかな。あ~あ、なんかやる気なくなって来たわ』

「ごめん! なんか見覚えがある気がしてたんだけど、まさか美希姉とは思わなくて」

『まあ、普通に生きてれば未来の姉と話す事なんてないし、祐樹の反応が正しいかもね。それじゃ話を戻そうか。祐樹、今全て理解しろとは言わない。でもそこは、自分の自己満足のための世界じゃないって事は分かって』


 美希の真剣な表情と言葉。俺はそれが嘘ではないと知っている。

 俺の姉二人は抜けていたりするが、凄い二人で頼りになる時は凄く頼りになる。

 だから、俺はその言葉聞き頷いた。


『よし、じゃあ話を始めようか』

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