第81話 田中リミット
美希は今俺はいる世界を改めて説明し始めた。
俺が今いるのは田中も言っていたとおり、仮想世界である。だが普通の仮想世界ではなく、俺自身の過去の体験を元に造り出した特別な世界らしい。
正確には全てを造ったのではなく、ほんの少し手を加えたというのが正しいのだと。
この仮想世界自体は、元々天使らの元にあった技術でありそれを盗み出し使用していると明かされた。天使らが何故こんな技術を持っているのかは謎だ。
そもそも天使の存在自体が謎が多く、現実世界でもほぼ解明されていないらしい。
そんな天使らの元から技術を盗み出したのは田中なのだとか。
それ以上田中に関しては詳しく話してくれなかったが、こちら側の協力者という認識でいいらしい。また、豊橋も同じ協力者ということらしい。
この世界が仮想世界だと理解しているのは、この場の三人だけである。
他の人らはそんな事を考えてすらいないらしい。
美希曰く、他の人らは確かにプログラムと分かるが思考や行動などは一切指示はされていない。本当にこの世界に生を受け、生きている人間にしか見えないと明かした。
この場は仮想世界というより、平行世界という考えに近いと美希は考えていた。
たしかに、これまで何度か世界をやり直したが一切仮想世界だとか考えた事はない。天使という異様な存在はいつつも、普通に人に接し対応もしており決められて動いてた印象は一切なかった。
なので美希の考えたように平行世界と考えるのは間違ってはないと思った。
しかし、この世界の根本がプログラムであることは真実であるため美希も少し困惑していた。プログラムの世界でありつつ、その片鱗が一切ない完璧なまでのもう一つの世界に。
話を戻そう。
そもそも、そんな世界に俺はどうやって存在しているのか疑問が出た。
もちろんその回答も美希が答えてくれた。
この世界の元にはもちろん俺というプログラムもあった。それに対し、現実の俺という意識のみをこの世界の俺に飛ばしているらしい。
考え方はフルダイブ型VRゲームとほぼ同じなのだとか。
美希はたぶん分かりやすく原理を説明してくれた。
だが、現時点で俺が知る限りそんな技術はまだ完成してないため、未来で完成した技術を使ってるのだと理解した。
それと同時に目の前の美希が本当に未来の美希なのだと改めて実感した。
意識だけ飛ばされているが、記憶に関しては制限されている。
身体に意識を合わせるためにその年齢までの記憶しか持っていないらしい。
実際は明日何が本当は起こるか知っているが、その記憶すら知らない状態にさせらているのだ。
何故、そんな事をしてまで俺自身がこの世界に入り込んだのかという理由。
それは、現実世界で失った詩帆を助けるためであった。
それを聞いたときはあり得ないと考えた。
この世界ならば、たしかに詩帆を救える。繰り返すことでいずれ。
もしや現実世界でも田中が世界をやり直せる力があるならばと口にしたが、現実世界ではそんな力はないと断言された。
そりゃそうだ。現実世界でその力があれば、こんな仮想世界を造る必要はない。
ならどうやって詩帆を助けるのか。
一度死んだ人間は二度と戻らない。それは絶対だ。
すると美希は、片道切符の過去へ戻る力を使うと明かした。
「そんな力があるのか!?」
『……ある。だが、まだお前には話せない。それを使っておまえ自身が過去に戻り、詩帆ちゃんを救う。それがこの計画のゴールだ』
「もしかして、この世界で詩帆を救えるルートを探すために俺はここに入ったのか?」
『そこは察しがいいのね、祐樹。そうよ、一度きりの過去への力を使ったところで詩帆ちゃんを救えるとは限らない。ましてや天使も変わらずいてリミットも存在する世界で。だけど、そこでこの仮想世界の技術を知り、盗み出して、こうして改良し限りある中であんたが詩帆ちゃんを救うルートを見つけ本当の過去世界に向かう。これがあんたが計画した道筋』
「なるほど。この世界で詩帆を救えれば、実際に過去に戻った時にも同じ行動をとれば救える確率は高い。詩帆のリミットも知れているし、何パターンも行動を知れていれるこちらが有利」
『そう。限りなく元の世界に近いその世界で正解パターンを見つけらればいい。だけど、分かっていると思うけど何度もやり直しでは出来ない』
美希自身が俺をこの世界に意識を飛ばす装置を作った。
この世界に意識を飛ばすだけでもかなり難しい技術らしい。更にはそこに何度かやり直せる力を上乗せしているから余計に難しく繊細になっていると明かした。
田中から与えられた左手のリミットが、残リトライ回数。
やり直しが起きる発生点は、俺自身の告白の結果。それと詩帆の死であった。
その答えで前回の世界からやり直しが発生した原因を理解した。
前回の世界では詩帆が死んでしまったから、世界のやり直しが発生したのである。
発生点は美希が何とか作り出していた。
しかしながら、世界のやり直し実行には成功したがどうしても元の位置ではなく、少し先に戻る事しか出来なかった。
だから俺が戻る場所は、必ず最初に目を覚ました翌日であるのだ。
それ以外の死は田中も言っていた通り、本当の死に繋がる。この世界はプログラムだが、一度死んだ者は二度と戻らない作りになっているらしい。
『いいか、だから絶対に他の死を体験するなよ祐樹。そしてもう詩帆ちゃんを死なせるな。やり直し後に過ぎた世界は、一週目で起きた事象で過ぎて行く。それも覚えておけ』
「分かったよ、美希姉」
『回数が二桁の内に見つけろ。それまでに見つけられないと厳しいぞ』
「うん、分かってる」
『ならいい。何かまだ話し漏れてる事もある気がするが……あ、そうそう。望美姉はこの計画のこと何て呼んでるか知ってるか?』
「いや、知るわけないじゃん。てか、急に話題が変わりすぎじゃ」
『堅苦しい話ばかりじゃ疲れるんだよ。ちょっとくらい雑談いいだろ』
その美希の発言に俺も一理あると納得した。
久しぶりに美希が何かを面白がって笑っている姿を見た。しかし、どこか寂しそうな表情にも見えた。
そんな事を思いつつも俺は、それにつられ頬が緩んだ。
『計画自体にそもそも名前はなんだけどな、望美姉は名前があった方がいいって言ってな。『田中リミット』て呼んでるんだよ』
「は? なんで田中」
俺は田中に視線を向けると、田中は少し恥ずかしそうな態度をとる。
『そもそも世界が戻る発生点を作ったのはいいが、最初からお前にそれを渡せてはいなかった。何かを中継してお前にそれを紐づける必要があったんだ』
「まさか、それが田中か!?」
『正解。田中もこちらからお前同様に意識を送っているに近い存在だ。ちなみに、そこにいるカロルちゃんも同様だ』
「カロル? って、豊橋か」
田中と豊橋も俺同様に現実世界に存在があるらしい。
だが俺と違うのは、この世界に元からいる存在ではないという事だ。つまり、二人はこの世界では異質なのだ。
「え、どういう事だよ美希姉。存在がないのにいる?」
『細かい事は田中から聞け。私が言えるのは、二人の素体を造ったって事だ。そこに意識を送り存在させている。まあ、この世界の解析が出来た私にかかれば二つくらい素体を造るなんて容易い』
「美希姉が凄いのは分かってる。二人から後は聞くよ」
『ああ、そうしてくれ。私はも――』
そこで突然美希との会話が途切れ、映像も消えてしまう。
いきなりの事に俺は目を瞬かせた。
それは俺だけではなく、田中や豊橋も同様であった。
「何だか異様だと思って覗きに来てみれば、凄い話を聞いたものだ」
そうリビングの窓側から声を掛けられ、俺たちは一斉にそっちに視線を向けた。
するとそこには、リビングの窓をすり抜け宙に浮く佐藤の姿があったのだ。
「さっきの話、もう少し具体的に聞かせて欲しいな田中。そして小鳥遊祐樹」
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