第78話 寝落ちこわっ

 翌日、俺は登校しながら携帯を気にしながら歩き続けた。

 理由は昨日の夜、詩帆に改めて説明のメッセージを送ったからである。

 だが、それに対して何の反応も未だに来ていないのだ。

 あんな光景を逆の立場で見たら、連絡が来てもすぐには返さないかと考え小さくため息をついた。


「でも、何もしないよりはマシ……だよな」


 その後も何度か小さいため息をつきながら俺は学園に登校した。

 教室の自席に着くと、羽石が声を掛けてきた。

 体調不良で休んでいたことを心配され、そのまま雑談へと話が移った。

 暫くして牛尾田も加わり久しぶりに三人でくだらない話で盛り上がった。


 朝の予鈴が鳴ると立っていた生徒は自席に戻り始める。

 その中、俺は詩帆がまだ登校して来てないことにそこで気付く。

 俺は机の下に隠しながら携帯を取り出し詩帆とのメッセージ画面を見る。


「(返信はない、か。休みなのか?)」


 そんな事を考えていると担当教員が教室に入って来て、朝のホームルームが始まった。

 ホームルームが始まって直ぐに、俺の疑問は解消される。

 詩帆は俺と入れ替わるように体調不良になったと告げられた。

 それを聞き昨日の出来事が少なからず影響しているのではと、自意識過剰ながらに考えてしまう。だが、確かめようがないため朝からモヤモヤした気持ちが大きくなるのだった。


 朝のホームルームが終了すると、担当教員に声を掛けられた。

 内容は進路調査についてであった。


「昨日海原からプリントは受け取ったか?」

「え、あ、はい。もらいましたけど」

「そうか。内容についてはどこまで聞いた?」

「いや、詩帆からは特に」

「そうか。もうその時には体調が悪かったのか。悪いことをしたな」

「あの先生、詩帆は今日は体調不良なんですよね?」

「そうだが。どうしてだ?」

「いや、あんまり体調不良になるイメージがなかったので」


 昨日体調不良そうに見えなかったことは、特に口にしなかった。

 担当教員は詩帆が休んでしまった原因の一つが自分にもあると考え、本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「進路調査プリントについては、後で職員室で話すから来てくれ」

「分かりました」


 そして担当教員が立ち去って行くが、俺は気になる事がもう一つあり声を掛けた。


「先生、調査プリントって誰か他にも持っていくようにお願いとかしましたか?」

「? いや、してなが。どうしてだ」

「いえ、ちょっと気になっただけです」


 担当教員は首を少し傾げるが特に追及せずに、教室を後にした。

 俺は自席に戻り机の中から詩帆に貰った進路調査プリントと、豊橋に貰った進路調査プリントを取り出し見比べた。

 どちらのプリントも全く同じ物であった。


 さっきの先生の話を聞く限り、詩帆が持って来た方が正しい。豊橋は嘘をついて持って来たって事だよな。でも、じゃあ何で全く同じプリントを持ってたんだ?

 もしかしたら、先生が別に持たしたのかも思ったがそれもない。

 まさか、自分自身の進路調査プリントを渡して来たのか?


 朝の羽石と牛尾田との雑談時に進路調査プリントは全員に配られていると聞いていた。とすると、そう考えられなくもない。

 でも何でわざわざ俺に届けに来た? 自分の振る舞いを謝りに来たかった。いや、それが本心と信じるのも……


 これまでに彼女は嘘をついている。過去の事故にあっているという件、そして今回の詩帆の代わりに来たという件。

 本当に謝りたいというのなら嘘はつかないはずだ。となると、どこかで詩帆と先生のやり取りを聞き、先回りしてうちに来たってことだよな。


 両手にプリントを持ちながら悩んでいると、一限目のチャイムが鳴り響いた。

 その後、授業を受けつつも何処かで俺は豊橋がうちに来た理由を考え続けていた。

 あっという間に午前中の授業も終わり、昼休みになった。

 昼は羽石と購買でパンを買い、文化棟の屋上で食べた。


「なあ小鳥遊、そんな隠れながら携帯見なくてもいいぞ。気になるなら堂々と見ろ」

「すまん」


 俺は休み時間が来るごとに携帯を確認していた。

 理由は詩帆から返信が来ているか気になっていたからだ。

 しかし、まだ返信はなかった。


「そんなに携帯気にして、誰からの連絡を待ってるんだよ?」

「別に誰でもいいだろ」

「おいおい、俺に教えてくれたっていいだろ? まあ、だいたい検討はつくが」

「えっ!?」


 すると遠くの方で俺の方を見て、こそこそ話する二人組の女子が目に入る。

 羽石も俺の視線に気付き、その方へと視線を向けると二人組は背を向けて屋上から立ち去って行った。


「何だ、お前の追っかけか羽石?」

「んなわけねぇだろう。どっちかというと、お前だろ小鳥遊」

「マジか。最近静かだと思ってたが、また何かあるのかよ」

「まあ、ちょっとした噂だよ」


 そこで羽石から今ある噂を聞いた。

 それは何ともくだらないこじつけであり、何故そんな噂が出たのかさえ不明と思えた。それと同時に余計にある謎が深まった。

 出回っていた噂とは、俺と豊橋が学園をズル休みし二人で泊りで遊びに出かけているというものだった。


 どうやら俺が休んでいたこの二日間、豊橋も学園を休んでいたらしいのだ。

 別クラスのため羽石から噂を聞くまで休みだと知らなかったのだ。

 また、昨日の一件もあり服装も制服だったため休んでいるとは思いもしなかったのである。


「まあ、どこかの暇人が変に盛り上げようと作ったもんだろうから、変に気にするなよ小鳥遊」

「ああ、教えてくれてありがとう。でも、そんなのがあるなら朝の時にでも言ってくれればよかったのによ」

「いや~教えて変に気になるんじゃないかと思ってな。周囲もすごいその噂で盛り上がってる訳でもなかったからよ」

「まあ、たしかに。ちょくちょく視線を感じはしたけど、前の時に比べれば嫌な感じではなかったな」

「とりあえず、気にするなって事だ」


 その後、羽石と雑談し昼休みは過ぎていった。

 午後の授業も何事もなく過ぎていき、下校時間を迎えた。

 帰宅してから俺はリビングのソファーにだらりと座った。


「はぁ~なんか疲れたわ。てか、豊橋今日も休みってどういう事だよ。あーーもう意味わからん」


 午後の休み時間に廊下を歩いているときに、噂好きであろう生徒らが階段付近でこそこそ話をしているのを聞いたのだ。

 あちらは俺には気付いていなかったが、豊橋が今日も休みであり変に噂にならないように二人で出てきてないんだとか、よく分からない話をしていた。


「たかが高校生が二日も休んで泊りで遊びに行けるかよ」


 愚痴を漏らしながら俺はソファーから立ち上がり、リビングの机に置いた携帯を取る。未だに詩帆からの返信はない。

 俺は携帯をそのまま操作し豊橋とのメッセージ画面を出す。

 ここで追及してもいいと思ったが、先に詩帆の誤解を解くのを優先すべきだと豊橋の画面を閉じた。


 翌日。

 この日も詩帆は学園を休んだ。担当教員からはまだ体調が戻らないからという説明があった。もちろん、俺への返信もなかった。

 そして次の日も詩帆は学園を休んだ。

 その日、俺は帰りに詩帆の自宅にお見舞いに行くことにした。

 返信がないからという理由もあるが、三日も休むほど体調を崩しているのが心配であったからだ。


 その日の授業が全て終わり、下校時間を迎える。俺はすぐに学園を後にし、お見舞いの品を購入し詩帆宅へと向かった。

 到着し、詩帆宅のインターフォンを鳴らすと母親が出た。


『あら、祐樹君』

「こんにちは。詩帆のお見舞いに来たのですが」

『そうだったのね、ありがとう。でもごめんね、詩帆まだ寝込んでて会わせられないの』

「そう、ですか。あの、よかったらお見舞いの品買ってきたのでもらってくれますか?」

『ありがとう祐樹君。門を入って玄関先に置いといてくれる。今祐樹君にあって、詩帆の風邪を移したら大変だし。看病してて私も知らずに菌を貰ってるかもだから』

「分かりました。それじゃ置いときますので」


 俺は詩帆宅の玄関先にお見舞い品を置き、自宅へと帰った。

 帰宅するとリビングに田中の姿があった。


「おかえり、たかちゃん」

「ただいま。今日は居るんだな。最近どこ行ってたんだ?」

「まあちょっとね~」

「そう」

「あれ? 気にならないの?」

「気になるが、聞いたところで教えてくれないのがオチだろ」

「何とも返しずらい言葉を」


 田中と話しながら俺はリビングで水を一杯飲み干す。

 そのまま荷物を持ってリビングを後にし、自室へと向かおうとするとそこで田中に呼び止められる。


「何だよ?」

「ちょっと真面目な話があるんだけど」

「……今じゃないとダメか?」

「できれば早めがいいな」


 俺は田中の神妙な面持ちに冗談とかそういうのではなく、本当に話したい事があるんだと理解する。


「分かった。でも、ちょっとだけベットで横になってからでもいいか? 走って少し疲れたからさ」

「ああ、全然それくらい構わないよ。リビングで待ってるからさ」


 そう言って田中はリビングへと戻っていた。

 俺は自室へと入り、カバンを置き制服から着替えてベットに横たわる。

 そのまま数分仮眠しようと俺は目を閉じるのだった。


 そして次に目を覚ましたのは、外から明るい日の光が照らされての事である。

 眩しさと温かさから目を覚ました俺は寝ぼけながら身体を起こす。

 暫く窓の外を見つめた後、近く置いたはずの携帯を探し手に取る。

 携帯の画面には朝の七時と表示されていたのだった。

 俺はその画面を見たまま数分固まり、徐々に状況を理解した。


「はっ! ガチ寝しちまったのか!」


 自室を飛び出て洗面所で顔を洗い、リビングに向かいテレビをつけ朝食の支度を始める。だが途中で、今日は土曜日だということに気付く。


「あ~焦った。そうじゃん、昨日金曜で今日は土曜じゃんかよ。寝落ちこわっ」


 苦笑いしながらソファーに座り、紅茶を飲みながらテレビを見て目を疑った。

 テレビでは平日朝のニュースが流れているのだ。

 再放送とかでもなく生放送である。

 しかも、なぜか日付が四月四日金曜日と表示されていたのだった。


「……え? どういう事?」

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