第33話 深層心理
俺は麗奈の言葉に固まってしまい、 心臓がキュッと締め付けられる感覚に陥る。
あまりにも実体験と近しい質問であった為である。
偶然のはずだ。彼女が知っているという事はあり得ない。詩帆が麗奈に対して俺の秘密をバラしていたら元も子もないが、詩帆に限ってそれはないだろう。
だとしたら、本当に偶然そういう質問が存在し、麗奈がそれを選んだって事になる。
麗奈は俺からの返答を待っていた。だが、俺は咄嗟に答えが出ないまま黙り続けてしまう。普通に自分が思う方を口にすればいいだけなのだが、何故か煮え切れない。
「どうしたの祐樹君?」
「その……それ、答えないとダメか?」
「どうして?」
「何と言うか、パッと直感的に答えが出ないんだ。ほら、こういう心理テストって悩まず思うがまま答えるものって聞いた事があってさ。悩んだ答えなんてあんまり意味ないかなって思って」
よくも咄嗟にスラスラと話せたもんだと自分へ感心した。
何処かで聞いたか、見たかは忘れたが言い放った言葉に麗奈は少し首を傾げた。
しかし、俺の言葉を突っぱねる事はなかった。
「確かにそんな様な事も誰か言ってた気がするな。でも、私としてはテストうんぬんなしに、この質問の答えは聞きたいかな。普通に祐樹君がどっちを選ぶか気になるし」
「えっ」
「それに、さっきの質問の答えなんでかないんだよね」
麗奈は少し困った表情で笑いつつ、俺へと携帯の画面を見せて来た。
確かにそこには先程の質問が書かれていたが、答えの箇所が見つからなかった。
上から下まで確認したが、その答えだけ何処にも書かれていなかったのだ。
「答えって書いてあるだけで、何にも書いてないなんて変だよね」
「そうだね」
「で、祐樹君はどっち? 片想い相手? それとも身近な異性?」
「いや、そ、それは」
これは答えるまで引き下がらないのだろうなと俺は察した。
しかし、悩んでも答えがすぐに出ないものは出ないのだ。
ありのままを伝えたとしても、じっくり悩んで答えを出してと言われるじゃないかと想像してしまう。
俺がそのまま曖昧な態度を取っていると、突然麗奈の携帯に電話が掛かって来る。
麗奈は俺にごめんと謝ってからベンチから少し離れた所で電話に出る。
俺は誰からか知らないが、先程の状況から逃げれた事に安堵と感謝をした。
暫くして麗奈が電話を終え戻って来た。
「ごめんね祐樹君」
「気にしないで」
「お母さんから電話が来ちゃって、今日帰るの何時ぐらいになりそうって聞かれちゃって」
「何か急用があったりするんじゃないの? 大丈夫?」
「そういう緊急とかじゃないから大丈夫。ただ、おじいちゃんたちが来てるみたいでさ、足りない食材買えるなら買って来てって頼まれたの」
「そうなんだ。賑やかそうでいいね。そういう事情なら、今日は早く帰ってあげたら?」
「ありがとう祐樹君。本当はもう少し話していたかったけど、またこんな風に帰ってくれる?」
「もちろん」
麗奈は俺の言葉に笑顔で返してくれた。
その場で俺たちは別れ互いの家へと帰路につく。
帰宅途中に麗奈からメッセージが来て開くと、可愛いメッセージスタンプが送られて来ていた。俺は一人ニヤニヤしながらそれに対してメッセージスタンプを返信した。
「ただいま」
「おかえり」
玄関で靴を脱いでいるとリビングから望美が顔を出した。
俺はそのままリビングへと向かった。
「あれ、美希姉は?」
「美希は大学に行ったよ。緊急の呼び出しとかで。今日は向こうに泊まるって連絡も来た」
「そっか。朝の件で少し話そうと思ったんだけど、いないなら仕方ないか」
「明日には帰って来るから、その時にでもすれば大丈夫よ。でも、美希の事だからもしかしたら忘れちゃってるって事もあるからな」
「そうあって欲しいような、欲しくないような」
俺の苦笑いに望美は笑顔を向ける。
その後望美と夕飯を食べ、諸々と終わらせ俺は自室へと戻った。
するとそこにはくつろいだ姿勢で俺の本棚の漫画を読んでいる田中の姿があった。
「いきなりいるとビックリするな」
「ごめんよ、たかちゃん。でもどうしても気になっちゃってさ、この漫画の続き」
そう言って田中は読んでいていた漫画を俺の方へと見せて来た。
それはラブコメ作品の漫画であり、ちょいエロもある男子には確実に人気がある作品あった。
田中は終始楽しみながらその漫画を読んでいた。
俺はそんな田中を放置しベットに座り、携帯を触り始める。
麗奈からのメッセージの返信が来ており直ぐに開く。
夕飯後から麗奈とのメッセージやり取りが続き始め、今に至っている。
「たかちゃん、やけにニヤついてますね~れなちゃんと進展があったのかな?」
「ばっ! 人の顔を見てるんじゃねえよ」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないの~で、で、どんな進展があったの? 今やり取りしてる相手もれなちゃんかな~?」
「じわじわとこっちに来るな」
「勿体ぶらずに教えてよ~」
「やめろって、おい」
その後へばりついてくる面倒な田中を引きはがす作業をしたりと、久しぶりに田中との一悶着をした。
互いに変に頑固さがあり、汗が出るくらいにジタバタしてしまう。
「たかちゃん頑固過ぎ、疲れた」
「それはこっちのセリフだ。バカ」
「もういいや。順調にれなちゃんと進展しるみたいだから何より」
「最初からそれで終わらせてくれ。せっかく風呂に入ったのに台無しだ」
「まあまあ、いいじゃないそれくらいさ」
田中はそう言った後、机の上に出していた漫画を物色し始める。
そしてその中から数巻選び出し、俺の方へと視線を向けた。
「この漫画借りて行くね。明日には返すから」
「別にそれくらい言わずに持ってていいぞ。読んでねえし、そのタイムリープする漫画」
「いや~面白くてさ。じゃ、そういう訳で」
そのまま田中は漫画を持ち浮き上がる。そして、そのまま屋根裏へと消えて行った。
俺は田中に振り回され、変に時間を浪費したなとため息をつく。
その後、麗奈とのやり取りを暫く続けたのちシャワーを浴びようと部屋を出た。
するとそこで、ちょうど二階に上がって来た望美と出くわす。
「祐樹。なに、またお風呂入るの?」
「え、あうん。何か部屋が暑くて汗かいちゃって」
「そうなると私の部屋も暑くなってるかもな。蒸し暑いの嫌いなのにな~」
「望美姉の部屋は大丈夫じゃない? 俺の部屋だけだと思うし。あれならエアコン付けたりすればいいよ」
「そうね。じゃ、私はこのまま寝ちゃうから。後よろしくね」
「うん。おやすみ望美姉」
「おやすみ」
望美と別れた後、俺はシャワーを浴び部屋に戻る。
部屋では、明日の準備をしてからその日は就寝した。
そしてその日の夜、俺はまたリアルな夢を見て夜中に起きるのだった。
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