第31話 放課後デート

 放課後、俺は正門近くでソワソワしながら麗奈を待っていた。

 正門を通って帰って行く生徒とたまに目が合うが、俺は直ぐに目を逸らす。

 携帯を取り出し何か麗奈から連絡が来ているか確認をする。しかし、特に連絡は来ていなかった。

 待ち時間でこんなにも緊張するのは初めてであった。

 緊張もある一方で、楽しみもあり教室から少し早足で正門に辿り着いていたのだ。


 俺は携帯の時刻を確認すると、放課後になってからまだ十分程しか経っていなかった。遅れるのはマズいという一心で、無意識に急ぎ足で正門に来ていたのだ。

 自分から一緒に帰ろうと誘っといて遅れるのはなしだという気持ちで動いていた。


 中庭で麗奈から今日の生徒会がなくなった事を聞いてから、俺は自然と一緒に帰らないかと誘っていたのだ。麗奈曰く、誘った直後にまたテンパって変な感じであったらしい。

 そりゃ誰だってテンパるだろ。勢いで言った言葉で、断れる可能性だってあるんだ。まあ、断られなかったんだけどさ。

 俺は一人心の中で自問自答をしていると、そこへ少し駆け足で麗奈がやって来る。


「ごめん祐樹君。待ったよね?」

「え、あいや、俺が早く来過ぎただけなんだ。急かしてた訳じゃないんだよ」


 麗奈は少し息を切らしながら膝に手を置きながら息を整えた。

 その際、麗奈が前屈みになった事で首元が少し開く。

 俺は直ぐに気づいたが、咄嗟に視線を外した。その後麗奈は息を整え終えると身体を起こした。


「ん? 祐樹君どこ向いてるの?」

「いや、何か虫飛んでて。もう居なくなったから大丈夫、大丈夫」

「そう。じゃ、帰ろっか」


 そうして俺は麗奈と久しぶりに一緒に放課後を過ごす。

 暫くは他の生徒の目もあったが、俺はすぐに麗奈との会話に夢中になり周りなど気にならなくなった。

 帰り道は麗奈とは途中まで同じなので、そこまで一緒に帰るルートである。

 俺はこういう時恋人同士というのは、手を繋ぐものなのだろうと考えていた。

 だが、そう簡単に実行出来るものではなかった。


 確かに相手は自分の彼女。そっと手を繋げば、相手も嫌がる事はないだろう。

 だがしかし、そのそっとが俺には出来ないのだ。ヘタレだのなんだの言ってくれて構わない。こればかりはやる側にならないと分からないものなのだ。

 やろうと考えれば考える程、タイミングなどを考えてしまって出来ないドツボにはまっていくのだ。


 その後俺は麗奈との会話を楽しむ一方で、手を繋ぐべきか否かを永遠と考え結果何も出来ずにいた。

 帰路も学園から半分を過ぎた頃。赤信号で足を止めた時だった。


「ねえ、祐樹君は買い食いとかよくする?」

「買い食い? コンビニとかでお菓子とかアイスとかそういうの?」

「そうそう、それそれ」

「羽石、牛尾田とかと帰る時にたまにする程度かな。一人の時は全くだな」

「そうなんだ」


 その直後、話の影響なのか俺のお腹の虫が鳴いた。

 俺は次第に恥ずかしくなり顔が赤くなり、麗奈は小さく笑っていた。

 何の言い訳も出来ず、俺は顔を背け続けた。


「タイミング良すぎだね。そんな恥ずかしがらなくてもいいよ祐樹君」

「いや、これは恥ずかし過ぎるでしょ。ぐぅ~何ていうタイミングで鳴るんだよ」

「こればかりは自分じゃどうにでも出来ない事だよ」


 そして信号が青になり、俺たちは歩き出す。暫くするとコンビニが見えて来た。

 俺はまたお腹が鳴るのは避けたいという思いから、何かお腹に入れたいと考える。

 いつもなら水筒の残りがあり、それを飲めばいいのだが。今日に限っては、既に学園で飲み干していた為残りがないのだ。

 俺がコンビニの方を見続けていたのを察してか、麗奈は意地悪な質問をして来た。


「何処見てるの祐樹君?」

「え、いや」

「祐樹君が何処か寄りたい所があるなら、私は付いて行くよ。私に遠慮しないで」


 可愛い笑顔に癒されると、気が抜けたのか再びお腹の虫が鳴く。

 それを聞き麗奈は再び笑い、俺は情けない気持ちになる。

 その後麗奈に申し訳なくコンビニに寄って欲しいとお願いをする。麗奈は快諾してくれ、共に近くのコンビニへと入った。


 俺はコンビニで飲み物を購入するが、麗奈はレジ横にあったホットスナックを購入していた。出来立てなのかいい匂いがして来て、つい俺もそれに誘われ麗奈と同じ物を購入してしまう。

 コンビニを出てそのまま購入した物を食べたくなるが、麗奈に止められる。


「ここで食べるより、近くに公園があったからそこで食べない?」


 その言葉に俺は頷き、俺たちは少し早足で近くの公園へと向かった。

 今考えれば、コンビニ前で買い食いしている姿を見られるのが嫌だったんじゃないのかと思った。

 公園に付くと、時間的に小学生などが遊具などで遊んでいた。

 しかもその公園は俺が麗奈に告白をした公園でもあった。


 俺があの日の事を思い出していると、麗奈も同じ事を口にしていた。

 まだあれから一週間も経っていないのだ。


「さすがに、もう桜は散っちゃったね」

「もう五月だしね。遅咲きにしては残っていた方だったんじゃないかな」


 そんな会話をしながら空いているベンチに座る。

 そしてコンビニで購入したホットスナックを互いに取り出し、桜の木を見つめながら食べ始める。量は多くなくお腹も空いていた為、俺はすぐに食べ終わってしまう。

 チラッと視線を麗奈に向けると、まだ美味しそうに食べている姿があった。

 直後、視線が合う。


「早いね祐樹君。お腹空いてたから当然か」


 笑う麗奈に俺は少し恥ずかしくなる。購入した飲み物を飲み恥ずかしさを隠す。

 麗奈は今までこういう風に買い食いなどした事ないイメージであった。

 だが、俺の問いかけに麗奈は首を振った。

 生徒会メンバーでたまにだが、買い食いした事があると告白する。

 最後には「内緒だからね」と口止めをされたが、あのメンバーでならそれがあってもおかしくはないなと納得した。


 その時麗奈は右手の人差し指を自身の口の前に出すポーズをとる。

 少し笑いながらで、そんな姿も可愛いと俺は思ってしまう。

 それと同時に俺は先程食べ終えたホットスナックの油が、唇にのった事でプルプルになっているのに目がいってしまう。

 柔らかそうで弾力もある理想的な唇に俺の目は釘付けになる。


 あんな唇とキスをしたら気持ち良さそう。

 俺はふとそう思う。その時、詩帆とのキスを思い出す。


「どうしたの祐樹君?」

「え……いや、何でも」


 麗奈の問いかけに俺は何事もなかった様に振る舞う。が、麗奈は逃してくれなかった。俺の方へと少し近寄り、顔を寄せて来た。


「本当に?」

「ちょ、近いって」

「何か私に隠し事してたりしない?」

「してないよ、隠し事なんて」

「本当? 怪しいんだよね~」


 これが女の勘というものなのかと俺は内心で思う。たぶん、俺の反応から何を察して聞いてきているのだろう。

 ここで正直に詩帆との一件を話そうとは思わない。というか、絶対に言えない。

 だけど、この雰囲気何か言わない限り逃がしてくれそうにはないな。

 俺は近い麗奈に鼓動が速くなりながらも、どうするべきか考える。しかし、こんな状況でまともな考えなど浮かぶはずもなかった。


 麗奈はただただ無言でじっと俺の方を見つめて来る。

 俺はチラッと麗奈を見るが直ぐに視線を逸らす。

 暫くそのままこう着状態が続くが、俺は無言の圧力に耐えきれず降参する。


「分かった、言うから。だから、その、離れてくれない? その緊張し過ぎて話せないから」

「っ……分かった」


 俺の反応を見て麗奈も少し頬を赤らめ元の位置へと戻る。


「で、何を隠していたの?」

「その……笑わない?」

「笑わない」

「幻滅しない?」

「しない」

「嫌いにならない?」

「あ~もう! 言わないなら、笑うし幻滅もするし嫌いになる」


 麗奈が耐えられず声を少し荒げる。

 俺は口をもごつかせていたのを止め、視線を逸らして答える。


「その、麗奈の唇を見ていい唇だなって思ってました! すいません!」

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