3章

第29話 大型連休明け

 俺は玄関でローファーを履き、玄関の扉を手にしながら振り返る。


「行って来ます」

「いってらっしゃい、祐樹」


 望美は笑顔で答えるが、美希は壁に寄りかかりながら腕組みをしていた。

 昨日の一件をまだ許していないため、ムスッとした表情をしていた。


「美希姉、望美姉昨日はごめん。」

「いいのよ。そういう日は誰にでもあるのだから。ほら、美希も何か言ったら」

「……次やったらはっ倒す!」


 そうボソッと呟き美希はリビングへと入って行く。

 望美はそれを止めることはせず、俺の方へと視線を戻した。


「口調はあれだけど、たぶん大丈夫よ」

「それならいいんだけど」

「ほら、顔が暗いぞ祐樹。連休明けくらいシャキッとした表情で学校行く!」


 俺が少し思い詰めた表情を見て、望美は明るい声を出して俺の肩を軽く叩く。


「一人で悩み続けるのは限界があるって事だけは知っといて」

「……うん。ありがとう望美姉。じゃ、行って来る」


 玄関の扉を開け、俺は学校へと向かう。

 望美は玄関が閉まるとリビングへと向かうと、入口付近で美希が腕組みをし壁に寄りかかっていた。


「望美姉は、アイツに優し過ぎるよ」

「長女なんだから当然よ。私たちの弟なんだし、お母さんたちからも頼まれて来てるからさ」

「私が子供っぽ過ぎるだけか」

「そんな事ないよ。美希も祐樹のいいお姉ちゃんだよ。私は出来ないお姉ちゃんを」

「っだよ、それ……」


 その言葉を聞いた美希はそっぽを向き、腕組みを止めソファーへと向かう。

 望美は美希のその態度に軽く微笑んだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 学園は連休前にあった騒動がなかった様に、いつも通りであった。

 大型連休があったから忘れたのか、それとも落ち着いただけなのか真相は分からない。だが、あの日の様な日々が続かないと分かっただけで俺は安堵する。


 俺は学校が近付くにつれ、物陰に隠れながら登校していた。

 しかし、周囲から同じ生徒に追われる事や問い詰められる事がないと分かり普通の登校へと切り替えたのだ。


 今日は正門からではなく、西門から登校し今は下駄箱を目指している。

 西門からの登校には二つ理由がある。

 再び騒動が起きるのではと想定していたが、そうではなかった。

 もう一つは正門で今日も挨拶をしているであろう生徒会と遭遇を避ける為である。特に麗奈とだ。それは、もちろんこの前の騒動を懸念してである。

 自宅を出る前に事前に麗奈に相談し、今回はそういう行動を取ったのだ。


「(逆に普通過ぎてちょっと怖いけど、元通りで良かった)」


 西門近くには部活棟があり、朝練をしている者もいるが目が合っても特に何事もなく再び練習へと集中する。

 全く何事もない日常に戻ったかというとそういう訳ではない。遠目から数人に噂話されているんだろうなという視線は感じてはいた。だがそれだけで、直接的な害はない為無視して下駄箱へと向かった。


 ローファーを脱ぎ上履きに履き替え教室へと向かう。

 さすがに生徒が多い廊下などでは、すれ違う際に麗奈との関係で噂話される数が多くなる。たまに茶化して来る相手もいるが、適当に流して構わず教室に入る。

 教室では俺が入るなり少しだけざわつくが、何か問い詰められる事などもなく賑やかな教室へと戻る。

 俺は自席に座り、カバンからペンケースやノートなど取り出し机へとしまう。

 一息ついたところで朝練終わりの羽石に背中を叩かれる。


「いって。何するんだよ朝から」

「よ! あの日は悪かったな。あの後大丈夫だったか?」

「え、あ~ああ。問題ない。けど、次はもう行かないからな。今回みたいなことあるしよ」

「マジで悪かったて。でも、来たのがうみちゃんで良かったな~幼馴染との水族館デート楽しかったか?」

「やめろって、そういうの」


 俺がいつもより不機嫌な態度をとった事に羽石は直ぐに気付き、話題を変えた。

 その後羽石は俺に愚痴る様に、大型連休中の練習や試合について話し続けた。

 ただただ俺はそれを聞き続けていると、視界の遠く先に詩帆が入る。

 友人たちと楽しそうに話している姿を見て、俺は昨日の事を思い出す。


 今日はまだ詩帆とは話していない。というより、話す勇気が俺にはまだないのだ。

 直ぐに俺は詩帆から視線を外し羽石の方へと戻す。

 その後ホームルーム前のチャイムが鳴り響き、教員が教室へとやって来るのだった。


 午前の授業時間はいつもよりあっという間に過ぎて行った。

 それは俺が授業以外に考え事をしていたかもしれない。

 お昼休みを迎えた所で、携帯に電話がかかって来る。内ポケットから取り出し画面を見ると麗奈からであった。


「もしもし?」

『あ、もしもし。私だよ』

「うん、分かるけど」

『つまんない反応だな~彼女からの電話なのに、冷たいな私の彼氏は』

「ご、ごめん。急にどうしたのかなって思っちゃって」

『それが普通だよね。別に責めてるとかじゃないから、気にしないで。で、電話したのはねお昼一緒に食べよっていうお誘い』

「あ~なるほど。でも、そ」

『それならメッセージでも良かったんじゃ、とか言おうとしたでしょ』

「うっ……はい」

『乙女心が分かってませんね。とりあえず、食堂で待ってるから』


 そこで麗奈からの電話は切れる。

 俺は軽く頭を抱え反省した後、バックから弁当箱を取り出し立ち上がる。

 教室を出て食堂へと向かった。


 ――食堂にて。

 昼食時間のため、食堂はほぼ満席でありいつも通り賑わっていた。

 食券販売機に並ぶ列を俺は追い抜かし、食堂内で麗奈を探すも人が多く何処にいるかさえ全く分からなかった。

 携帯で再度連絡を取ろうかと思った直後だった。


「あれ、小鳥遊さん?」

「御木本さん」


 俺に声を掛けて来たのは、昼食を乗せたトレイを持った御木本であった。

 一人だったが、俺は近くに麗奈がいるのではと周囲を探す。


「もしかして、麗奈を探してる?」

「はい。お昼に誘われて、食堂に来る様に言われて来たんですがこの人の多さで」

「さすがにここから見つけるのは大変だよね。一緒に食堂来たから場所は分かるから、案内するよ」

「ありがとう」

「ああ、でもちょっと待ってね」


 御木本は直ぐに動かず、何故かその場で止まり後ろを振り返る。

 俺は誰か待っているのかと視線を後ろに向けた。

 すると後ろから複数の女子生徒に囲まれた男子生徒がやって来る。

 その生徒は周りの女子生徒に何かを言って退散させ、こちらにやって来た。


「兄さん、いつの間に捕まってたの」

「悪いって由依。あれ、君はもしかして……小鳥遊君?」

「ははい、そうです」

「そんな緊張しなくていいからね。って、そう言っても難しいだよねそういうのってさ」


 俺の前に現れたのは、三年生の証拠である緑のネクタイをし、前生徒会長でもあり御木本の兄でもある御木本玖羽弥くうやであった。

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