第26話 地獄の恋バナ
あれから二人の姉らを自宅にいれ、届いた荷物の量を見せつけ三人で片づけを始めた。
望美姉の荷物は、暫くこちらに滞在する為ということもあり数が多かった。しかし今後は連絡を必ずするように反省してもらう。
一方で美希姉の荷物に関しては衝動買いも多くあり、今後二度とないように反省してもらった。
結果的に全ての片づけが終わったのは、十八時前である。
夕飯の時刻を少し過ぎていたが既にヘトヘト状態であった。ここから料理は出来ないと俺は判断し、デリバリーを頼むことにした。
久しぶりの姉弟水入らずという事もあり、少し豪勢にお寿司に決まる。
到着までに二十分程掛かるため、入れ替わりにお風呂に入る。全員が入り終わる頃にはお寿司も到着する。
リビングの机に注文の品を並べ、遅めの夕食を始めた。
基本的に姉二人の話を中心にしながら食事が進む。真面目な話であったり、笑える話もあり、俺は久しぶりに誰かと食事が出来てとても楽しい時間を過ごした。
「いや~食った、食った。寿司なんて久しぶりだったよ」
「美希、そんなおじさんみたいな座り方しないの。あ、祐樹私も運ぶから少し分けて」
「いや望美姉も座ってていいよ。桶とかどんぶりをキッチンに持って行くだけだし」
「そうそう望美姉。祐樹がやるって言ってるんだから、やらせてあげればいいんだよ~」
「そうやって、祐樹に全部任せっきりは良くないでしょ」
そう口にした望美が俺の方へと近付いて来た時だった。
足を滑らし近くのソファーに倒れてしまう。突然の出来事に、俺だけでなく美希も振り返り心配する。
望美には怪我もなく、本人も足を滑らしただけと説明していた。
「(望美姉はこういう所があるから、怖いんだよね。もし、桶とか持たせていたらぶちまけて、中に残ってる醤油とかが絨毯に……考えるだけでも怖いからやめよう)」
俺が小さくため息をつくと、美希と目がふと合う。
美希も望美の少し抜けた一面はよく知っているので、俺と同じ様に小さくため息をしていたのだった。
言葉は交わさずとも、この瞬間だけは互いに何をすべきか理解し素早く行動する。
俺はもちろん桶など片付けである。望美に触らせない様に机から片付けてしまう役目である。一方で美希は望美が変に動かないように見張り、かつ話し合い相手になるという役割であった。
そのかいあってか、無事に片づけまで終わらせられる。
俺は食後のお茶を準備し、二人の湯飲みに入れ自分の分も用意する。
そしてテレビを見ながらゆったり就寝までの時間を過ごし始めた。
「そういえば祐樹。彼女出来たんだって?」
美希からの突然の言葉に、俺は口に含んだお茶を少し噴き出してしまう。
「うわっ。汚っ……噴き出すのやめてよ」
「何何、遂にその話を切り出すのね美希」
「望美姉。待ってましたかの様に、眼鏡を取り出して掛けるのやめなよ」
望美の特有の行動に、美希は小さくため息つきながらお茶を少し飲み横目でこちらを見る。また、少し前のめりの状態で望美は俺の方を見つめて来ていた。
「……な、何の事だかよく分からないな」
「はい、嘘~隠しても無駄だぞ弟よ」
「そうそう。隠してないで、お姉ちゃんたちにしゃべっちゃいなさい。なんなら、恋の悩みも言ってほしいな」
「(この姉たちは……どうする? このまましらを切るか? いや、美希姉の言い方からして、確たる情報がありそうだがそれもフェイクの可能性もある)」
昔から美希は俺をからかうのが好きであった。
嘘をついて隠していた事を俺の方から話させたり、小さいいたずらに引っ掛けて笑われたりしていた。
その経験がある為、変にここで俺の情報を開示したくはないのである。
もしそんな事をしたら、今日一日だけで終わらず暫くは弄られるのが見えているからだ。それだけは面倒だし、何としても避けなければ。
俺は頭をフル回転させどうにかやり過ごせないかと考えるも、それすら無意味だという情報を叩きつけられる。
「逃げようとしても無駄だぞ。こっちは、既に詩帆ちゃんから情報を聞いているんだからな」
「そうだーそうだー」
「えっ!? うみから」
「え、祐樹。詩帆ちゃんの事、うみって呼んでるの? 昔みたいに詩帆ちゃんって呼んでいないの?」
「呼ばないよ望美姉! 俺たちもう高校生だぞ。恋人ですらないのに、そんな呼び方出来るかよ。ましてや、うみは今じゃ学園のアイドル的存在なんだよ」
「へぇ~そんなだ。凄いじゃない詩帆ちゃん」
「望美姉、話ずれてるぞ。で祐樹。相手の名前は? どんな奴なんだ?」
美希の言葉に望美もハッとして、俺の方を凝視して来る。
そして美希は少しニヤニヤした状態で俺からの答えを待っていた。
俺は静かにフェードアウトして行こうとするも、美希に捕まれ、望美に回り込まれ逃がしてくれはしなかった。
俺が黙っていると、美希が詩帆から聞いた話を口にし始めた。
どうやら、家の近くに着いた時に偶然詩帆と遭遇し俺の話になったらしい。
その時にポロリとした話を二人は聞き逃さず、俺に恋人が出来たと知ったのだ。だが、詩帆は名前などは言わなかったそうだ。
「つうか、あんな可愛い幼馴染がいながら他に恋人作るとか、お前って凄い面食い?」
「ちがっ……うみは昔から付き合いで、兄妹みたいな感じでそういう対象じゃないんだよ」
俺は自分にそういう風に言い聞かせる様に口にする。しかし、その瞬間に水族館での出来事が頭をよぎる。
すぐさま軽く首を横に振って強引に忘れさせる。
その動作に望美は首を傾げていたが、特に訊いて来る事はなかった。
「あ、そう。まあ何にしろ、あの詩帆ちゃんを置いての彼女。かつ、学園で有名人な詩帆ちゃんが知っている相手となると学園で同じ位の地位の人なんじゃないか?」
「(うっ、美希姉こういう時鋭すぎるんだよな……)」
「その推測から行くと、学園のマドンナ的な存在ね。統計パターンからすると片想いって所だったのかな。祐樹のこれまでの恋する相手は、同年代から少し年上タイプ。可愛いより綺麗目より、髪型も長髪の方が好み」
「流石、望美姉のファイリング。それで後輩に該当しそうなこの写真送ってもらうわ」
「ちょっと二人共、勝手に盛り上がって行かないでくれよ! てか、望美姉俺の傾向口にするの止めてよ! 美希姉もどこ経由か知らないけど、写真手に入れようとしないで!」
立ち上がり二人に訴えるも、二人が止まることなく聞く耳すら持たなかった。
その直後、美希宛てに該当者の写真が送られて来たのか二人が盛り上がる。
すぐさまその写真を俺に見せて来た。そこに映っていたのは、麗奈であった。
写真は隠し撮りとかそういうのでなく、学園が発行している学園だよりに乗っていた生徒会メンバー写真であった。
どうやら美希の知り合いには、同じ学園に通う生徒の兄や姉がおりその経由で入手したと思われる。二人の姉が通っていたのは、俺が今通っている高校である為、後輩とも繋がっていてもおかしくはない。
更に言えば、望美は学園で生徒会長を務め、美希は学園の裏番長的な存在であったらしい。その為情報網は広いのだ。
「その反応、ビンゴだな。ほぉ~まさかこんな綺麗な子を彼女にするとは、我が弟ならが関心する。どうやって落としたんだ?」
「綺麗な子ね~同学年なのね。これはライバル多かったでしょ? 付き合ってどのくらいなの? デートは何回したの?」
二人からの質問攻めに俺は「プライベートなので」と一貫した答えで乗り切る。
しかし、二人からの質問攻めは終わらなかった。
その後も同じやり取りを繰り返し続けた。
俺はこれ以上一切情報は渡さないという決心で、二人の姉と対決し続けた。
結果、今回は姉二人が先に折れたのだ。
断固とした俺の態度が珍しいと思ったのか、それとも今日はダメだと諦めたのか分からないが何とか俺は乗り切ったのである。
「こんなに頑なとはね。ちょっとくらいいいじゃんかよ~」
「美希、これ以上やったら祐樹は口も聞いてくれないかもよ」
望美は既に眼鏡を外し、美希を止める側に回っていた。
美希も完全に諦め、送られて来た麗奈の写真を見ながらお茶を飲み干すのだった。
ようやく解放された俺は、キッチンへと向かい気分転換に洗い物を始める。
「にしても、本当に綺麗な子だよな。え~と冴島麗奈って読むのか」
「そうね。こんな子が祐樹の彼女とはね。一度直接会ってみたいわ」
二人が麗奈の写真を眺めていると、望美がふと何かを思い出したのか腕を組み右手を顎に沿えた。
「(あれ? 何だかこの子の名前見覚えがある様な~ない様な~……)」
「どうしたんだよ望美姉」
「え、ああ。うんん、ちょっと考え事だけど勘違いだった」
その後二人はテレビを見ながら過ごす。
俺は洗い物も終わり、歯でも磨こうかと思った矢先だった。
突然携帯にメッセージが来る。
俺は姉二人のいるリビングから出て、廊下で携帯を取り出す。
画面には詩帆からのメッセージ通知が表示されていた。
「(うみから? 何だ急に)」
俺は恐る恐るメッセージを開いた。
そこには昨日の水族館の件などで話がしたいと書かれていた。
電話とかではなく、直接会って話がしたいと。
明日の十六時に丘の上の公園に来て欲しいという内容が最後に書かれ、メッセージはそこで終わっていた。
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