第25話 姉たちの襲来
とある空港の到着ロビーと書かれた出口場所にて。
スーツケースを転がし、サングラスをした一人の女性が足を止めた。
「う~んっ、久しぶりの母国。弟は元気にしているかしら?」
「おーい、
そう大きな声で手を振るのは、金髪でショートカットの美女であった。
黒髪かつ長髪をハーフアップし、耳上で毛束をまとめ赤いリボンで抑えている美女がその方へと視線を向ける。
「え?
サングラスを外し、手を振る者を見ているとその者が近付いて来る。
「おかえり、望美姉。それと久しぶり~」
「ただいまだけど、美希何でここに居るの? それとちょっとお酒臭いよ」
「あ~昨日も飲んじゃって。えへへへ」
「二十歳になったからって、飲み過ぎじゃない? ほどほどにしなさいよ」
「分かってる、分かってる」
美希と呼ばれた美女は、望美と呼ばれる美女が持っていたスーツケースを手に取りタクシー乗り場へと向かい始めた。
「じゃ、早く帰ろう望美姉。うちで弟が首を長くして待ってるよ。たぶん」
「貴方もしや、全然家に帰ってないわね」
「うっ……バレた?」
「はぁ~研究や遊びもいいけど、家に弟一人にしてるとはね。お母さんに言っておくから」
「わーそれだけは勘弁! チクらないでよ、望美姉」
そんなやり取りをしながら、二人はタクシー乗り場へと向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――小鳥遊家にて。
午前九時を回った頃、俺はリビングにて麗奈と電話をしていた。
「あ~そういう事だったんだね。麗奈も大変だったでしょ」
麗奈からこれまで連絡がつかなかった理由を教えてもらう。まさか、家族で山名へのキャップに行っていたとは予想外であった。更には、携帯の電源まで切れるとは不運な展開である。
俺の方も何かあったかと聞かれ、水族館に行ったことを話した。
だが、その瞬間詩帆とのキスの事を再び思い出してしまい口が止まる。
麗奈に不思議がられたが、何でもないと嘘をついた。
昨日の事故を麗奈に言えるはずもなく、俺はこのまま隠し通すと決める。
誰が彼女に対して、幼馴染と事故ではあるがキスをしたと言える奴がいるか。
言えたとしたらそいつは、よっぽどの馬鹿かあほであるに違いない。
電話をしながら俺は時計を見る。
「あ、ごめん。そろそろ今日は……うん、本当にごめん。ちょっと家の事情で」
俺は麗奈に厄介な姉が帰って来る事を軽く伝え、電話を切る。
本当であればあのまま麗奈と電話を続けていたかったが、そうもいないのである。
小鳥遊家は三姉弟であり、俺の上に二人の姉がいる。二人共、二十歳を超えており大学生である。俺に比べ姉らは優秀であり、顔立ちもよく美人姉妹と高校の時からちょっとした有名人である。
長女の名は
性格はしっかり者であるが、恋愛話に目がない。恋愛話の時には何故か眼鏡をかける変な癖がある。自宅に居た時は少し抜けている一面があり、俺としては心配な点である。
そんな一面を持ちながら、多言語を話せ文学方面で優秀な成績を残してる。
次女の名は
性格はだらしなく、家に居る時は下着だけとかもあるのだが、外に出るときっちりする。最近は大学の研究室に閉じ籠もったり、友人と酒を朝まで飲むなどしている。たまに酔って電話をかけて来るが、俺は絡まれるのがめんどいので直ぐ切る。
だが、学業では理系方面で優秀な成績や研究発表をしているのである。
「とりあえず、昨日来たメールを見る限り望美姉が帰って来るのだろうけど……たぶん、美希姉にもメール送ってるだろうし下手したら一緒に帰って来るぞ」
俺は最悪な想像をしながら、落ち着いていられずリビングを掃除機がけする。
姉二人が帰って来ると、俺の仕事が増えるのである。掃除、洗濯、ご飯と基本的には俺がやる事になるのだ。というか、二人にやらせる方が仕事が増えるのだ。
望美姉は料理下手であり、抜けている面もあるため掃除などさせると変に汚す所が出て来る。美希姉はだらしないので、そういうのを基本やらない。やっても適当なので、結局俺がやる事になるのである。
そういう事が待っているので、俺は厄介で面倒な姉と口にした。
だが決して嫌いとか見下している訳ではない、優秀で俺より凄い事をしている姉たちを俺は尊敬している。
「さてと、姉さんたちは今回はいつまで泊まって行くのかね」
「うっ~~はあ……おはよう、たかちゃん」
「はっ! お前の存在忘れかけていた!」
俺は寝ボケて入って来る田中を掴み、すぐさま洗面台へと連れて行き顔を洗わせる。その後リビングに戻って来て、姉たちの話をした。
「なるほど。要は、わっちに隠れてほしいと」
「そう。言う前に心を読むのは今回だけは見逃すが、そういう事だ」
「そうは言うけど、わっちはたかちゃんにしか見えないよ。隠れる必要もないんだけど」
「俺がお前が視界に入ると困るわけ。心を読んだなら、そこまで分かるだろ」
「え~わっち、そんな全て見える訳じゃないから~」
「変に可愛い子ぶるな、ちょっとイラって来るから」
田中は肩をすくめながら、納得した様に「分かったよ」と口にする。
そのまま浮遊し背を向けた。
俺は直ぐに信じられずジッと見つめていると、田中が振り返る。
「大丈夫。隠れてるからさ」
「頼むぞ田中」
「はいはい~」
と、その時家のインターフォンが鳴らされる。
俺は望美姉が帰って来た、もしくは美希姉でも帰って来たのかと思い玄関へと急ぐ。靴を履き、扉を開けようとするが田中を視線を感じ振り返る。
田中は玄関で浮遊したまま動こうとしていなかった。
「何してるんだよ、早く隠れてくれよ」
「ちょっとくらいお姉ちゃんたちの顔くらい見せてくれよ。見たらすぐ隠れるし」
「とか言って、隠れないで居続けるんじゃないのか?」
「大丈夫だって。本当にちょっと顔見るだけだから、ちょっとだけ」
どかなずに変に頼み込む田中を見つめていると、再びインターフォンが鳴らされる。俺は諦めて玄関を開ける。
するとそこに居たのはどちらの姉でもなく、宅配便のお兄さんであった。
思いもしてなかった人物に俺も田中も少し目が点になってしまう。
「すいません、お届け物なんですがどちらに置きましょうか? かなりの数がるのですけど」
「え?」
俺はその奥にも何人もの宅配便のお兄さんらが居て、驚いてしまう。
聞いた所差出人は望美姉であった。どうやら、海外からうち宛てに荷物やお見上げを郵送していたらしい。
俺はひとまずリビングに全て置いてもらった。
その後、荷物の山となったリビングを見てため息をつく。
「え、荷物の量多くない? どんだけ送ってるのさ、たかちゃんのお姉ちゃん」
「俺が聞きたいくらいだよ。荷物送って来るならメールで言っておいて欲しかった」
俺は壁に手をついて頭を抱えていると、再びインターフォンが鳴る。
肩を落としながら玄関を開けるとそこに居たのは、さっきとは別の宅配便のお兄さんらであった。
俺は遂に「えっ」と声が出てしまう。宅配便のお兄さんらは少し困惑していたが、俺は謝り荷物の差出人を確認する。
すると相手は、美希姉であった。どうやら、ネットで色々と購入した物がお急ぎ便で家へと届いたらしい。
俺はもうリビングが入らないので、廊下に置けるだけ置いてもらった。
数は先程ほどではないにしろ、かなりの数であった。
宅配便のお兄さんらが帰宅してから俺は玄関でしゃがみ込み頭を抱えた。
そこへ田中が近付いて来て、そっと肩に手を乗せて来た。
「うん、ドンマイ……弟って大変なんだな」
「お前に慰められなくないわ。はぁ~どうすんだ、足の踏み場なくなってるぞ」
すると再びインターフォンが鳴り、次こそは姉たちだろうとゆっくりと扉を開ける。が、そこに居たのはまた別の宅配便の人たちであった。
俺はもうため息しかでず、とりあえず空いている場所に荷物を置いてもらった。
その後も何度か宅配便が届き続けた。
「あ~またインターフォンが鳴ったよ。どうせ、次も宅配便なんだろ」
「たかちゃん、もう置く場所ないぞ」
「二階に持っててもらうよ。あ~はいはい、すぐ出るんで何度も鳴らさなくてもいいですよ」
気だるげな感じで俺は玄関を開けた。そこには、宅配便の人ではなく姉二人の姿があった。
「よ、愚弟。姉ちゃんが帰って来たぞ~」
「久しぶり祐樹。元気にしていた?」
俺は無言のまま、二人を顔を見てからすぐさま玄関を閉める。
そのまま鍵までも閉める。
「え? え、え!? どうして閉められたの? しかも鍵までなんて」
「おい祐樹! 何で閉めるんだよ! 望美姉が帰って来てるだぞ」
「まさか反抗期!?」
「いや望美姉、高校生で姉に対して反抗期はねえだろう」
「じゃあ、グレちゃったのかしら。不良になったのね」
「いやいや、それの方がよっぽどないでしょ」
二人の姉たちが扉の外でそんなやり取りをしているのを、俺は扉越しで聞き続ける。そして軽く頭を抱え、深くため息をついた。
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