第24話 不在の真相

「やっと帰って来れた……」


 麗奈はため息をつきながら、着替えなどの入った大きなバックを床に置く。

 そのままベットに顔から倒れた。時刻は夜の十一時を回っていた。


「お疲れ、麗奈」

「鈴木。携帯出して充電しといて……マジ無理」


 うつ伏せのまま、バックに付いていたストラップである鈴木に命令する。

 鈴木はアニメの男キャラフィギュアに姿を変え、麗奈の携帯をバックから取り出し充電機へと差し込む。


「にしても、まさか一泊二日の弾丸キャンプに連れて行かれるとはな。両親の思い付きにも困ったものだ」

「本当よ。でも、キャンプの計画はナシにしたって前に言っていたのに突然実行ってのもおかしな話よ。仕事が入ったとか言っていたはずなのに」


 麗奈は五月一日に自宅に帰宅してから、今日まで山中のキャンプへと行っていたのだった。しかもそれは、両親の突然の行動により付き合わされる形であった。

 断る暇もないまま、荷物も何故か準備されており夜中には出発。

 翌日には既に山の中へと入っており、電波すらもない場所であった。

 更には携帯も十分に充電できず出発していた為、途中で電源が切れていたのだ。

 外部との連絡手段を断たれ、二日間大自然を体感して来たのだった。

 その結果、身体は全身筋肉痛。虫も多く、寝袋が合わず十分な睡眠も出来ず寝不足気味で帰宅していた。


「あ~このまま寝たい。でも、シャワーだけは浴びたい。けど、身体が辛い……」

「麗奈。携帯電源が入ったぞ。祐樹から数件連絡と電話がき」


 そこまで言いかけた鈴木を麗奈は軽く押しのけ、携帯を手に取る。

 鈴木は押された勢いで倒れてしまう。

 麗奈は鈴木に一切目を向けず、送られて来たメッセージや不在着信の内容や日を見つめる。


「(まさか、この二日で向こうから連絡しかも電話まで来てたとは。どうする? ひとまず今まで連絡が返せなかった理由を送っておこう)」


 素早いタップで祐樹に対するメッセージを作成していく。

 少し誤字を踏まえつつ、焦って返した風を演出し送信する。

 一旦送信を終えた所で携帯から手を離し、鈴木へ視線を向ける。

 鈴木はその場で胡坐をかいていた。


「状況報告は終わったか?」

「ええ。で、今回の一件どう考えてもおかし過ぎるわよ。貴方何か知らないの?」

「心当たりはあるぞ。たぶん、麗奈と考えている内容と同じだ」

「それじゃ、先に貴方の意見を聞かせてもらうわ」


 麗奈はそう言いつつ、ベットに座り片足を組んだ。

 鈴木も立ち上がり、近くの机へと飛び上がるとペンへと姿を変えた。

 そして、文字や絵を描きながら自身の意見を述べ出す。


 鈴木の考えとしては、今回の一件は佐藤によって仕組まれたと考えていた。

 麗奈の両親に事前にキャンプ計画は聞かされていたが、キャンセルしたと初めに聞いていた。だが、突然それが復活し更には準備万端で強制的にキャンプへと連れて行かれる。

 両親ともやけにキャップに対し熱が高く、他の事などどうでもいいかの様な雰囲気であった。この状況を麗奈は直近で体験していた。

 それは、学園での騒動である。


 あの黒幕は天使である佐藤であった。詳細は未だ不明であるが、彼の固有能力が何らかの作用で働きあの騒動が起きていた。それを起こした人物たちの状況と、今回の両親の状況があまりにも類似しているのである。

 だが、あくまで推測であり確定ではなかった。


「仮に佐藤が関与しているとなると、この二日で彼の契約者である麗奈が何らかの動きをしたと考えるべきだ」

「なるほどね。確かにそう考えるのと、突然のキャンプや両親の様子にも辻褄が合うわね。私も確かに佐藤を疑っているわ。だけども、祐樹君の天使も共犯ではないかと疑っているわ」

「田中も?」

「ええ。仮に佐藤だけだとして、彼の固有能力がそれだと強すぎる気がするのよね。見届け係である天使に周りの人々をそんな簡単に操れる力を与えるかしら」


 麗奈は全て信じている訳ではないが、仮定の話しとし天使らの上に神という存在がいる仮定で話を続ける。

 試練を与える神は、その見守りかつサポートに天使を付ける。ある程度の力とし固有能力を授け、試練を与えられた人間を見守り時には力でサポートする。

 それが天使としての役割と考えていた。


 そこに当てはめると、現状の佐藤は力は強すぎるという考えである。

 神がそんな事をするようには思えなかったのだ。それでは試練の意味が全くなくなるし、もし見ている側としてもつまらないからだ。

 天使の固有能力にはある程度の条件や偏りがあると麗奈は考えていた。

 必ずデメリットや使用条件といった不自由さがあるはずだと。

 佐藤の力もそれがあるが、仮に田中の力と合わせる事でそれをなくせたら、より大きな力として使えるのではないかと推測したのである。


「天使同士で固有能力の共有がないと言っていたけど、個人で相手の力を調べて知る事は出来るでしょ。ここへ来る前などで。または、貴方も彼らと共謀している線も考えているわ」

「まだ疑われているか。何度も言うか、俺は麗奈の不利になる事はしていない。これは絶対だ。わざわざ契約者を不利にする奴なんてこっちにはいない。そんな事すれば、即処分だ」

「そうなのね。とりあえず、私は佐藤だけではないという考え」


 互いに意見を出し終えた所で、部屋の扉がノックされる。

 鈴木はペンとして机に転がる。それを見てから麗奈が返事をする。

 相手は母親であり、遅くまで付き合わせてしまった事を扉越しながら謝罪したのだ。この二日少し異常だったと自覚したのか、それも含めての謝罪であった。

 麗奈は扉の方へと向かい、開けて直接顔を見て言葉を交わした。


 その後、リビングへと向かい父親と軽く話、小さなわだかまりを解消するのだった。それから麗奈はシャワーを浴び、自室へと戻った。

 部屋では再び携帯を手に取り、祐樹からの返信を確認する。

 自身が送ったメッセージに対しての返信のみ来ているだけであった。


「(この二日で何かあったかは、明日聞くとしますか。まずは状況把握からね。勘だけど、何か嫌な予感がするのよね)」


 そう考えつつ、この二日間の疲れを癒すため今日は眠りにつくのだった。



 ――同時刻。豊橋家にて。

 豊橋カロルは自室にて、携帯で誰かと通話をしていた。

 机には日付ごとに詳細に書かれてた日記と思われる物を広げ、ページをめくったり見つめながら話を続けていた。


「はい。はい。そっちの確認は終わりました」


 口調から自分よりも年上の相手との会話であった。


「本日のデータはそちらに後ほど送っておきます。……はい、分かっています。私に出来ることがあれば、何でも言って下さいマイ・マスター」


 そこで電話は切れ、豊橋も携帯を机の上に置いた。

 一息つき、カップを手に取りコーヒーを一口飲む。

 そして、壁に吊るしたコルクボートへと視線を向ける。

 その先には、祐樹・麗奈・詩帆の写真が複数枚あり、関係性や考えなど様々な付箋や矢印が貼られていた。

 豊橋はその中で祐樹の写真に対して、そっと手を伸ばし微笑むのだった。

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