第5話 休日デートで修羅場

 冴島と一緒に下校した翌日も、その翌日も冴島と雑談をし仲を深めた。

 更にはお昼まで誘われて一緒に食べたりもしてしまった。

 しかしながら、一緒に下校というのはその一回だけであった。


 冴島は生徒会副会長の立場もあり、生徒会での仕事もある為下校するのが皆より遅いのである。

 たがこの一週間少しで、冴島との関係は劇的に変化し告白への希望も少しは見えて来ていた。

 しかし、土日は特に進展する事も出来ない為、俺は部屋でダラダラと過ごしていた。すると田中が急に俺の腹へとのしかかって来た。


「何ダラダラしてるんだよ、たかちゃん。これじゃ昨日と同じだろ。それに後十二日だぞ。いいのか、そんなんで」

「急に乗っかってくるんじゃねぇよ。てかいいだろ、ダラダラしてても。どうせ冴島とは会えないし、連絡先も知らないし」

「はぁ? たかちゃん連絡先聞いてないの?」

「いや、訊いたよ。だけどちょうど携帯が一カ月前に壊れたまま、まだ治せてないって言うから」


 俺は腹の上に乗ったままの田中をどけて、ベットから起き上がる。


「暇なら、わっちたちに少しでも恩返ししろ。誰が作戦立ててやったと思ってるんだ? どっか遊びに連れてけー!」

「確かにその作戦のお陰っちゃお陰だけど。遊びって、田中いつもフラフラとどっか行ってんだろ?」

「わっちだけじゃない! たちといっただろ」

「?」

「そこで首を傾げるな。うみちゃんに決まってるだろうが! 一緒に作戦考えてもらって、何も恩返ししないとか最低の男だぞ、たかちゃん!」


 うっ……確かにそうだ。

 詩帆には色々と手伝ってもらったし、巻き込んでる様な形になって迷惑もかけてるし、何か恩返ししないとダメだな。

 つっても何がいいんだ? プレゼント? お菓子とかか?


「買い物にでも誘って、訊けばいいだろう」

「なるほど。って、また勝手に心を読むんじゃねぇよ」

「ほら、そうと決まったら仕度して、うみちゃんの所に行くぞ。今日は部活休みらしいしな」

「何で知ってるんだよ、そんな事」

「天使だからね」

「関係ねぇだろ」


 その後、携帯で連絡し田中と共に詩帆の家へと向かった。

 買い物に誘うと詩帆は嬉しそうな顔をして直ぐに仕度して出て来た。そして、近くのデパートへと向かったのだ。

 デパートでは詩帆の好きな物を見て回ったり、ゲームセンターで遊んだり、話題のスイーツを食べたりと休日を満喫した。


「なぁ、ちょっと休まないかうみ?」

「え~ゆうちゃん、体力なさすぎじゃない? 帰宅部だからそんなんになるんだよ」


 俺は近くにベンチを見つけ、すぐさまそこへと腰を掛けた。


「ふ~疲れた~」

「あ~! もう勝手に休まないでよ。今日はお礼で付き合ってくれるんでしょ?」

「そ、そうだけどよ……あっほら、田中もいるしさ。俺は少しだけここで休んでるから、二人でちょっと行って来いよ」

「休日の父親か、たかちゃん」

「俺はここで休んで次に備えるから、なぁ」


 すると詩帆と田中は顔を見合わせた後、ため息をついた。

 二人はそのままアクセサリーショップへと向かって行く。俺はベンチに座りながら軽く手を振った後、深くベンチに腰掛けて真上を向いた。

 やべ~思ってたより俺体力な。楽しんだけど、少し休憩しないと体力がもたん。

 真上を見たまま、体力のなさから筋トレ始めようかと考えていると声を掛けれる。


「あれ? もしかして、小鳥遊君?」

「え?」


 突然名前を呼ばれ、声が聞こえた方に顔を向ける。

 するとそこに居たのは、私服姿の冴島であった。


「冴島!?」

「やっぱり小鳥遊君だ。偶然だね」

「何で冴島がここに?」

「私? 私はほら、前に話した壊れた携帯を買い直しに来たの。それが終わったから、ちょっとフラフラしてたら小鳥遊君ぽい人見かけて、今声を掛けたって感じかな」


 まさかの遭遇に俺はベンチから立ち上がっていた。

 慌てた様子を見て冴島は小さく笑う。


「隣いい?」

「ど、どうぞ」


 俺は姿勢を正して座り直した。その隣に冴島が座る。

 初めて見る私服姿のワンピースに俺は見惚れていた。


「それで小鳥遊君は、どうしてこんな所で休んでたの? 一人って訳じゃないよね? ご両親とかと来たの?」

「いや、両親じゃなくてここ最近世話になった奴と一緒にね。そのお礼みたいな事で、一緒にデパートに遊びに来た感じ」

「へぇ~そうなんだ」


 するとそこへタイミング良いのか悪いのか、詩帆と田中が戻って来る。


「お~い、ゆうちゃんに似合いそうなのあったから買って――冴島……さん?」

「海原さん。なるほど、小鳥遊君が一緒に来た相手って言うのは海原さんだったのね」


 そう言うと直ぐに冴島は立ち上がり、詩帆に向かって行く。

 そこで改めて挨拶をすると詩帆も挨拶を少しぎこちなく返した。

 二人は互いに名前は知っていたが、話した事がない仲であった。


「……どうして、冴島さんがここに居るんですか?」

「偶然ですよ。そんな睨まないで下さいよ、海原さん」

「っ、睨んでなんかいません!」

「おいおい、うみ。どうしたんだよ」


 詩帆の強い言葉が聞こえ、俺は思わず立ち上がる。詩帆は俺が近付くと顔をそらし「ごめんなさい」と冴島に告げた。

 幸い冴島も気にしておらず、冴島も詩帆の気に障る様な事を言ってしまったと謝った。

 ぎこちない雰囲気に俺はどうすればいいのか、戸惑ってしまう。

 すると田中が視線を送って来た。


「(何となく状況は察したけど、雰囲気が良くないね~)」

「(田中?)」

「(はい、田中で~す。これは以心伝心という心で会話できるやつだけど、細かい事は今は気にせず。それより、この状況だよたかちゃん)」

「(色々とあるが、とりあえずは今だよな。詩帆の様子からここは一旦、詩帆と一緒に離れる方がいいよな)」

「(そうだね。何か変な事になる前に、適当な理由を言ってうみちゃんと離れるのがよさげだよ)」


 田中のアドバイスも受け、俺は詩帆に声を掛けようとした。

 が、先に口を開いたのは冴島だった。


「ねぇ。もしよかったらだけど、私も一緒に遊びたいんだけどいいかな?」


 まさかの冴島からの発言に、俺は目を見開いた。同時に詩帆は、一瞬だけ体がぴくっと動く。

 田中はこうなるのが分かっていたのか、驚きはしてなかった。


「どうかな、小鳥遊君?」


 俺に来たかー……このタイミングで俺か……あ~辛い。

 冴島と会えたのは嬉しいし、これは告白へとつなげるチャンスでもあるとは思う。

 だけども、今日は詩帆と一応田中へのお礼と言う事で来てるし。

 それにさっきの詩帆の感じから、冴島が苦手そうに思えるんだよな。

 俺は悩んだ結果、答えを口に出した。


「え~とその、今日はう」

「いいんじゃない」

「うみ?」

「私は別にいいって言ったの。冴島さんが一緒に回りたいって言うなら、回っても」


 割り込む様に詩帆が冴島の問いかけに答えた。詩帆は答えた後、俺から視線を外しそっぽを向いてしまう。

 冴島は笑顔で「ありがとう、海原さん」と返す。

 その直後、詩帆はボソッと何か呟くが俺には聞き取れなかった。


「それで小鳥遊君は、どうかな?」

「え?」


 冴島はそう言いながら、俺に近付いて来て少しかがんで上目遣いに訊ねて来る。

 俺はその仕草にドキッとしてしまい、たじたじな答えになってしまう。


「お、俺は、うみがいいって言うならいいと思う、ぞ」

「(うみが、ね。それは悪い言い方だよ、たかちゃん)」


 そのまま見つめられ続けた俺は、恥ずかしくなり冴島から目を逸らす。

 冴島は体を起こし「ありがとう」と笑顔で答える。

 その後詩帆、冴島、そして田中という組み合わせで異様な雰囲気のまま、デパートを巡り始まる。

 初めは沈黙が占めていたが、冴島が話を振り始め俺が答えたりし雰囲気が少し良くなる。詩帆もちょくちょく会話に参加するも、遠慮気味ではあった。

 田中はというと一切話し掛けてはこず、ただただずっと後方から付いて来るだけだった。その後も三人で散策が続く。


「うふふふ。そんな面白い事があったんだね、小鳥遊君は」

「そうかな? 俺としては普通なんだけど」

「え~私からしたら面白いよ」

「そうか。じゃ、冴島はどうなんだ? 何か面白い体験とかあったか?」

「私? 私はね~」


 と、俺と冴島が会話している所を少し離れて詩帆が少し口をとんがらせていた。


「(楽しそうに話しちゃってさ……確かに、私がいいって言ったけど、そんなにデレデレする事ないじゃん)」


 田中は三人それぞれを見て、小さなため息をつくのだった。

 そうして大きな問題もなく、デパート巡りは終わった。

 俺は疑似的なデート気分を味わえてフワフワした気持ちで、田中と詩帆の二人と共に帰路につくのだった。

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