第4話 意外な接点
これは大丈夫なのだろうか? 犯罪とかじゃないよな。
俺は詩帆と別れ、校門近くで隠れる様に冴島を待ち伏せしていた。
もちろんこれも作戦の一つである。
本日最後の作戦『帰り道で偶然を装い声を掛ける』を現在実行中だ。
作戦名そのままで、冴島が一人になった所に偶然を装い声を掛けキッカケを作ると言うものだ。朝の作戦の帰宅版ともいえ、もちろん発案者は田中だ。
俺がソワソワしていると、そこへ冴島がやって来る。だが、いつもの様に男子たちが数名付きまとっていた。
うひゃ~すげぇ人気。まぁこれももう日常風景だけど。
そして冴島と付きまとう数名の男子が共に校門から出て行った所を確認して、俺はその後をこっそりを追い始める。
当の発案者本人はいないが、俺は何とかバレる事無く尾行し続けた。すると付きまとっていた男子たちが冴島に何かを言われると、徐々に散り始めて行く。
そして遂に冴島一人きりの状況が到来する。
俺はまさかこんな状況が来るとは思っておらず、少し驚いていた。
今がチャンスなのだが、いる場所が一本道の為上手く偶然を装う事が出来なかった。その為、もうしばらく後を付けることにした。
その間冴島の事を見ていると、何やら手帳らしき物を取り出しぶつぶつとしゃべりながら歩いて行く。
何してるんだ、勉強か? にしても、周りも見ないで危ない感じだな。
俺はそんな事を思いながら後を付けていると、住宅街の道に入る。
十字路がいくつか続く所も冴島は周りを見ずに手帳らしき物を見ながら歩き続ける。
すると遠くの方から、中学生たちが自転車に乗りながら騒いで冴島へと近づいて来る。
だが、何故か冴島はその事に気付いていないのか気にせず前も見ずに歩き続けていた。
おい、まさか気付いてないのか?
この辺は角に家があるから急に自転車とか車が来たりする所なのによ。
俺は髪を軽くかきむしる。
「あ~もう! どう思われてもいい、目の前で事故に遭われる方がもっと最悪だ」
俺はまたしても先に体が動き、冴島が事故に遭わない様に近付いて声を掛けようとする。冴島は、十字路に入った所でも正面から騒ぎながら自転車に乗った中学生たちがやって来るのに気付いていなかった。
直後、俺は冴島の名前を呼びながら右手を掴み、端へと寄せた。
そこでようやく冴島は足を止め、引っ張られた右手を見て驚く。
「何やってんだよ。周りを見ないと、危ないだろ」
その目の前を自転車に乗った中学生たちが騒ぎながら通り過ぎて行く。
冴島はそこで初めて事故になりそうだった事に気付き、俺の方へと視線を向けて来た。
「……貴方は」
「あ~そうだよな、誰だが分からないよな。俺は同じ学年の小鳥遊祐樹。ぐ、偶然この辺を歩いていたら、冴島を見つけてさ」
「そう。でも助かったわ。私集中しちゃうと周りが見えない事があって、もし小鳥遊君がここを通っていなかったら私事故にあってたかもしれないものね」
すると冴島は俺に向かって優しく笑いかけてくれた。
その笑顔に俺は、完全に見惚れてしまう。
初めてだった。初めて好きな人に自分を認識してもらい、笑いかけてもらえる事がこんなにも胸弾むのだと知ったのは。
高校生になって何言ってんだと思うかもしれないが、俺はもうそれで胸がいっぱいで幸せな気分だった。
顔が緩みぼーっとした顔をしていると、冴島が心配し始めた。
「どうしたの小鳥遊君? 何かぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫?」
「え? あ、あ~大丈夫、大丈夫! ちょっと初めて冴島と話せて嬉しくって」
「私と話せて嬉しい?」
「はっ! あ~いや、今のは何て言うか、思ってた事と言うか、言うつもりはなかったて言うかだな、その」
俺がついつい口にしてしまった事でテンパっていると、そんな姿を見て再び冴島が笑う。
「うふふふ、小鳥遊君って面白いね」
「そ、そうか? 俺としては恥ずかしいだけなんだが」
「そうだ。助けてくれた小鳥遊君には、何かお礼をしないとね」
「お礼なんていいって。そんな大した事」
「そう言わない。人の好意はありがたく受け取るものだよ、小鳥遊君」
冴島が注意する時のちょっとした怒り顔にも、俺はぐっと来てしまい少し口元が緩む。
すると冴島は腕を組み、片手を口元に当てながら考え始める。
「そうだな~……あっ、この近くに私がよく行く喫茶店があるから、そこで何か奢ってあげるよ」
「え!?」
思いもしない提案に、俺は驚きの声が漏れてしまう。
そして俺は腕を引かれ始めるが、さすがにそこまでの心の準備が出来ていなかったので、一度足を止めようとする。
が、冴島はそのまま俺を引っ張った。
「ほら、何してるの? 行くよ小鳥遊君」
「いや、喫茶店とかじゃなくても、奢られるなら、自販機とかでも」
「いいから、いいから。命の恩人に自販機だけのお礼って訳にはいかないでしょ」
その後、俺は冴島に腕を完全に掴まれて、逃げるすべなくそのまま喫茶店に連れて行かれるのだった。
そして喫茶店で冴島と二人っきりで幸せな時間を過ごした。
その時間はあっという間に過ぎ、冴島と別れて俺は帰宅した。
帰宅すると、何故か俺の部屋でくつろいでいる田中が視界に入る。
俺はさっきまでの出来事を誰かに話したくなり、終始笑顔で冴島との出来事を田中へと伝えた。
「って事があったんだよ~いや~まさか意外と強引な一面もあったんだな、冴島って」
「それはよかった。でも、話してる時のたかちゃんの顔、気持ち悪いよ。ずっとデレデレした顔で」
「え~そんな事ないって~えへへへ」
「それだよ、それ。でもまぁ、お近づきなれたみたいだし、向こうの印象も結構良い感じそうだね」
「うんうん。意外と話も盛り上がってさ、冴島って中学は別の所だったみたいだけど、小学校はこの地域の所行ってたらしくて昔話に花が咲いてさ~」
「仲良くなれたのは分かったから。次は異性として意識させる段階だよ、たかちゃん」
その言葉に俺は、何の為に冴島とキッカケを作ったのかを思い出し真面目な顔をする。が、どうしても直ぐに顔がにやけてしまう。
田中はそんな俺に呆れたのか、小さくため息をついた。
「とりあえず、明日からは積極的に話し掛けるんだよ。そんで一緒に帰れる様になれれば、可能性は出て来るんじゃない?」
「え~一緒に帰るとか、早くない? えへへへ~でもあの冴島と一緒に下校か~。考えたただけで楽しそうだな~えへへへ」
「(ダメだコイツ。今日は完全に壊れてるな。でも進んでるみたいだし、何かイベントも起きそうだな)」
翌日。冴島との関係性が出来た事に浮かれず、告白を成功させるために気持ちを改めて田中と共に学園に登校した。
「たかちゃん、分かってるよね?」
「分かってるよ。昨日の事を活かして、俺から話し掛けて仲を深めて行けって事だろ。てか、お前昨日何処にいたんだよ?」
「そんなのどうでもいいの。それより、上手くキッカケを作れたんだから、しっかりと活かさないとさ。自分の命が掛かってるんだからね。残り二十二日だよ」
「人の寿命を改めて口にするなよ。お前本当に天使かよ? 今のままじゃ死神にしか見えないぞ」
「わっちのどこが死神なんだよ! どっからどう見ても天使でしょうが!」
田中は天使の羽と輪っかを何処からともなく取り出し、両方を装着し主張して来た。
いや、なんでそれつけ外しできるんだよ。宙に浮いて人から見えないって、もう幽霊とかだろ。
と、俺は心の中でツッコむんでいる間も田中はギャーギャーと騒いでいた。
傍から見たら一人にしか見えていないので、とりあえず無視して学園へと向かい到着する。
「おはよう、小鳥遊君」
「あはよ――え……冴島っ!?」
正門付近で突然声を掛けて来たのは、冴島であった。
思わぬ展開に俺は驚きを隠しきれなかった。
「う、うん。そんなに驚く? そんな反応されると思わなかったから、ビックリしちゃったよ」
「ご、ごめん。いや、まさか声を掛けられると思ってなかったから」
「え~昨日あんなに盛り上がった仲なのに? ちょっと傷ついたな」
「そんなつもりじゃっ」
「ごめん、ごめん。ちょっとからかっただけ」
朝からまさかの光景に、通りかかる学園生徒の皆は少し驚いていた。
今まで冴島から男子に声を掛ける事はほぼなかったからだ。しかも冗談交じりに楽し気に話していた光景に更に驚いていたのだった。
冴島とは暫く談笑した後「朝生徒会の仕事があるから、またね」と言って小走りで先に下駄箱へと向かって行った。
別れた直後俺は、一部の男子たちから異様な視線を送られている事に気付く。変に問い詰められる前に、さそくさと逃げる様に教室へと向かった。
それ以降も、何故か冴島の方から俺を見つけると声を掛けて来た。
軽く雑談をする展開が続いたのだ。
それからというもの、冴島の方から声を掛けてくれるので俺からも声を掛けやすくなった。一気に関係が深まり知人から友達へと俺の中では徐々に変わって行った。
そして一週間後には、遂に一緒に帰る所まで関係が一気に進んだのだった。
「見て、冴島さん。今日は最近話が合うって言っていた、小鳥遊君と帰ってるよ」
「あ、ほんとだ。確か聞いた話だと、昔この辺の地域に冴島さんも住んでて、それで偶然話す機会があって意気投合したんだって」
「え~なにそれ。そういうのって幼馴染ってやつじゃない?」
「確かに。あ、でも、小鳥遊君って海原さんと幼馴染で有名だよね。さっきその辺でたむろってた男子たち、めっちゃ小鳥遊君の事羨ましがってたよ」
「そりゃそうでしょ~。だって学園アイドルの海原さんと高嶺の花の冴島さん両方に好かれてるってなれば、誰だってそうでしょ。あ~あ、何でうちにはそういう男子版がいないかな~」
「それね~」
と、女子生徒二人が校舎の窓から正門付近を見ながら話し、廊下を歩いて行く。
そこへ詩帆が階段から降りて来て、女子生徒らの話が聞こえ窓へと近付く。正門付近を見つめ、冴島と楽し気な姿を目にする。
「……へ~案外上手くいってるじゃん。ゆうちゃんはキッカケさえあれば、誰とでも仲良くなれるもんね」
そんな事を呟きながら、詩帆は少し悲しそうな表情で見つめていた。
「このままでいいの?」
「っ田中さん!? どうして。ゆうちゃんと一緒なんじゃ」
「今のたかちゃんに、わっちは必要ないでしょ。何だかんだ上手く進んでる様だし。それよりも、気になるのはうみちゃんだよ」
「私?」
「何であの時、たかちゃんに好きだよって言わなかったの? もし伝えてたら、そんな苦しい気持ちにならなかったでしょ?」
田中の言葉に詩帆は何も言い返せずに黙ってしまう。そのまま正門付近の方へと視線を向け窓に片手を当てる。
「何でだろうね……私にも分からないよ。言おうと思ってたけど、止めたんだよね」
「卑怯とか思った? それとも、たかちゃんに想いを伝えて拒否されるのが怖かったから?」
「……本当に心が読めるんだね、田中さん」
詩帆はそう口にした後、黙ったままただ正門付近の方を見つめ続ける。
そして片想い相手が、好きな相手と楽し気に下校して行くのを見送った。
「好きなんでしょ、たかちゃんのこと」
「私はただ、好きな人に死んで欲しくないだけ」
それだけ言い残すと、詩帆はその場から離れて行った。
田中は詩帆の後ろ姿を見た後、窓をすり抜け外に出た。
「(どうして気持ちを伝えないかな? 想ってるだけじゃ、何も変わらないのに)」
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