第3話 一度きりの告白で決まる生と死
「……ウワー、オソワレルー」
「おい自称天使田中! 話をややこしくするな!」
「ゆうちゃん、体調悪いって言ってたからお見舞いに来たのに……どこで拾って来たの?」
「おい待て待て! 話を聞けってうみ!」
「オヨヨヨ……モウ、セキニントッテモラワナイト」
「ゆうちゃん、まさか……」
「田中ー! 止めろって言ってんだろうが! それにうみも、携帯取り出して警察に電話しようとするの止めろ!」
その後、俺はうみを何とか説得する。
自称天使こと田中には、少し強めのチョップを頭部に振り下ろし叱った。
そして俺は信じてもらえないかもと思いつつも、うみに田中の説明と今の俺の状況について全て打ち明けた。
「なるほど。ゆうちゃんがそんな事になってたなんて」
「えっ……信じてくれるのか、うみ?」
「嘘じゃないんでしょ? それに天使の田中さんも目の前にいるし」
「さっきも思ったけど、わっちの事見えるんだね?」
「どう言う事だ?」
俺が田中に問いかけると、田中は基本的に天使という未知の存在。さらに与えられたタイムリミットも当の本人にしか見えないと明かす。
しかし例外的にだが、タイムリミットを与えられた人間に親しい人だとたまに見える事例もあったと口にした。
そう言われると、うみは昔からの幼馴染でもあり例外に該当しているかもと理解した。
「でも、よく直ぐに受け入れられるなうみ。俺は最初幻覚かと思ったくらいだぞ」
「私、こう見えてもアニメ好きだし、こういう展開は慣れてるの」
何故そこで自慢げに胸を張るんだ? てか、アニメ好きだったのか。
知らなかった。
「ん、その顔まさか、忘れてたでしょ。前にもアニメ好きだよって話の流れでなって言ったじゃん」
「あれ、そうだっけ? 悪い、忘れてた」
「もーう! ひどいよ、ゆうちゃん」
俺にとって詩帆とのこんなやり取りのは、いつもの事。
だが、それを見ていた田中が率直な疑問を口にした。
「え、付き合ってるんですか?」
「ちげぇよ。うみとは幼馴染で付き合いが長くて、こういう兄妹みたいなやり取りは日常なんだよ」
「ふ~ん。なるほど」
頷きながら田中は詩帆の顔へとチラッと視線を向ける。
その時の詩帆は、少し悲しい表情をしていた。
田中は、それを見逃さず直ぐに察するのだった。
「そ、それで話を戻すけど。ゆうちゃんは彼女作らないと後二十四日で死んじゃうんだよね? 誰に命を懸けた一度限りの告白するの?」
「それは……」
「え? さっき冴島って人しかいないかって思ってたじゃん」
「おい、田中! また心読んだろ?」
「……だよね~ゆうちゃんは、冴島さんにずっと片想いしてるもんね。自分の命を懸けるなら好きな相手だよね~」
「うみまで……確かに俺は、冴島の事が好きだよ。でもよ、残り二十四日で全然関係も作れてない俺が告白しても、断られて終わり。断られるのが分かってて告白なんてしたくねえよ。しかもその告白には生死が掛かってるってなれば余計にだ」
「ゆうちゃん」
「俺だって死にたくねぇよ……最悪な考えかもしれないけど、俺なんかの事が好きって言う子が分かれば、その子に告白するよ。生きる為にさ」
結局は何だかんだ言って、自分が可愛いんだ。
好きな人にしか告白しないとか言っておきながら、無理だと分かったらその意志さえ捻じ曲げる。
自分が好きだと言ってくれる子なら、誰でもいいとか言っちまうんだからな。
告白の結果に自身の生死が関わってくれば、仕方ない事じゃないか。
己の意思や信念を負けず貫いて死ぬか、この場しのぎで生きる為に変えられるものは変えて生きるかの選択だ。
俺は迷わず生きる方を選択する。
だって、死んだら元も子もない。生きていてこそやれる事、やりたい事が出来るんだから。
もし告白に成功したら、その子と何となく付き合って、何となく別れて終わるんだろうな。
「でも俺は、綺麗事かもしれないけど時間をかけてでも、その子の事を本気で好きになる。向うの好意を知って告白したんなら、俺は絶対に中途半端な事はしない。それが責任ってやつだと思うからさ」
「たかちゃんって、意外と熱い男子? いや面倒臭い系男子? 何となくその場しのぎで生きてるなって感じがしてたけど、違ったんだね」
「否定はしない。俺は、面倒臭い男さ」
そう口にした直後、言っていて恥ずかしくなり俺はそっぽを向いた。そんな俺を、田中はニヤニヤしながら見つめて来ていた。
田中に「そんな顔で見て来るな」と言うが、田中はニヤニヤ顔は辞めず浮遊しながら離れて行くのだった。
直後、詩帆が少し前のめりになり急に大きな声を出す。
「な、なら! ……いや、やっぱり何でもない……急に大きな声出してごめんね」
前のめりな姿勢を直ぐにやめ、詩帆は小さく笑いながらそっぽを向いてしまう。
俺は詩帆の行動に首を傾げていると、離れて行った田中が目の前に戻って来た。
「関係性がないって言うなら、関係を作ればいいだけでしょ? まだ二十四日もあるんだから、さっさとその冴島ちゃんと友達になりなよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、本当に上手く行くのかよ?」
「難しいんじゃ、ないかな」
「もう二十三日しかないんだから、手段を選んでる暇はないっしょ。ほら、さっさと行きなよたかちゃん」
そう言って、田中が俺の背中を勢いよく押す。反動で、俺は隠れていた電柱から押し出されてしまう。すぐに田中の方へ視線を向けると、宙に浮きながら物凄い自信の満ちた顔でサムズアップポーズをとっていた。
一方で詩帆は田中と共に電柱に隠れた状態で、心配そうな顔で俺を見ていた。
「マジでやるのかよ」
俺は小声でボヤキ、小さくため息をついた。
そのまま通学路である道の角で、毎朝ここを通るはずの冴島を待った。
そう、今俺は朝の通学路で冴島を待ち伏せしているのである。
これは田中立案の『曲がり角で偶然ぶつかっちゃてごっめ~ん。大丈夫? って冴島じゃん。俺だよ俺。小鳥遊だよ』大作戦である。
昨日あの後、友達関係になる為には冴島にまずは存在を知ってもらうべき。ならば、まずは友達関係にならなければという事で立案された作戦である。
詩帆も協力してくれ、一応他にも作戦を考えてくれた。だが、田中の物凄い猛プッシュにより、ほぼ強制的にこの作戦の実行が決まってしまった。
俺自身もさすがに何もしないままではダメだと考えていた。
自分を好きな子を探すよりも好きな相手に対して、ひとまず行動する事にしたのだ。
「頑張れたかちゃん!」
「……」
「心配かい、うみちゃん?」
「えっ、あ、ううん。ちょっと考え事してただけ。頑張るんだよーゆうちゃん!」
「二人してやめてくれ。余計に緊張するからよ。ふ~」
二人からの言葉を受けつつも、緊張してる自分を落ち着ける為ゆっくり深呼吸をした。
すると遠くから冴島がこちらに向かって歩いて来るのが視界に入る。
来た。あ~やばい、まだ緊張してるのによ。
隠れて冴島が通りかかるのを待っていると、偶然視界の先に道の奥でランドセルを背負った男の子たちが何かを探し困っている姿を目撃してしまう。
直ぐに俺はそこから目を逸らし、冴島に集中しようとした。
が、どうしても困っている男の子たちの方にも視線が向いてしまう。
「……あ~~くそ」
俺は待ち伏せした場所から離れ、冴島が通る道を小走りで超える。そのまま困っている男の子たちの元へ向かい声を掛けた。
隠れながら見守っていた田中と詩帆は、急に俺が持ち場を離れた事に驚く。何をしているのかと二人して覗き込む。
状況を見た田中は、すぐさま俺の方へと近付いて来た。
「何をしてるんだよ、たかちゃん。冴島ちゃん、もう来ちゃうぞ」
「悪い田中。こいつらの探し物見つけたら戻るから。大切な物らしんだ」
「お兄ちゃん、ここの下にあるかも」
「よし待ってろ、今行く。すまん田中」
背を向け離れて行く俺に、田中は大きなため息をつく。そして呆れた顔で詩帆の元へと戻る。
「ゆうちゃん、何だって?」
「心を読むと、小学生男子たちが同級生女子が大切にしてた髪飾りを無くしたんだと。男子たちは無くした事に、罪悪感を感じてそれを探してるっぽい。で、その姿を見ちゃってほっとけなくて手伝うんだってさ。何考えてるんだが、たかちゃんは。今は他人より、自分の事でしょ。自分の命がかかってるんだよ?」
すると冴島が、元々待ち伏せしていた場所の前を通り過ぎてしまう。
二人は電柱に隠れながらそれを見送る。
「あ~あ、行っちゃった」
「そうだね。でも、ゆうちゃんらしいよ。たぶん、昔の自分と重ねちゃったんじゃないかな」
「昔?」
「うん。私が転校して来た頃、ちょっといじめられてさ。その時にお母さんに買ってもらったブローチを無くされてね、一人泣きながら探してたの。そしたら、ゆうちゃんが黙って一緒に探してくれたんだよね。結局は見つからなかったんだけどね。でも、そういう優しさが昔からゆうちゃんはあるから、見過ごせなかったんだと思うな」
詩帆はそんな事を思い出しながら、どこか安心した表情浮かべる。そして、田中と共に一緒に探し物をしている姿を見つめるのだった。
その後俺は男の子たちの探し物を見つけ出し、詩帆と田中に合流して謝った。
それからは、学園に登校しそこでも他の作戦を練っていたので実行した。
が、実行するも冴島に接触する前に必ずといって他の人に邪魔されてしまう。結果的に何も上手く行かずに全て終わってしまった。
そして、あっという間に時間も経過し放課後となってしまう。
俺は詩帆のゴミ捨てを手伝って校舎外を歩いていた。
「はぁ~こんな上手く行かないもんなのか? 『手伝います』『挨拶』『待ち伏せその二』『お昼一緒に』『質問』『落とし物』後諸々の作戦全部だめ。どんだけ鉄壁なんだよ」
「鉄壁というか、冴島さんが人気者なんだよね。こう思うと、やっぱり朝のが最大のチャンスだったね」
「確かにそうかもな。田中は知らないうちにどっか行くし、うみはこれから部活だもんな」
「うん。それで、ゆうちゃんはどうするの? まだ冴島さんにアタッタするの?」
「まぁ一応、放課後の作戦も一つだけあるからやる予定だけど。今日の調子だとどうなるのやら」
そんな雑談をしながら俺たちはゴミ捨てを終え、教室へと向かい始める。
「あっごめん、目にゴミが」
「大丈夫か?」
「うん、先行ってて」
そう言われ俺は立ち止まった詩帆を置いて、少し歩いた所でふと上を見上げた時だった。
三階の校舎窓から誰かがビンの様な物を握って手を出しているのに気付く。
すると、手に持っていたビンを逆さまにし、中に入れていた大量の水が真下へと流れ出る。
俺はすぐさまその真下に詩帆がいると理解し、声を出す前に体が動く。
詩帆は目をこすっており、まだ頭上の事に気付いてはいなかった。
「詩帆!」
そう声を出し、詩帆の手を掴み自分の方へ抱き寄せた。
直後、先程まで詩帆が居た場所に水が降り注ぎ、地面が濡れるのだった。
直ぐさま俺は誰がやったのか見上げるが、ここからでは顔は見えず、手を出していた人物は手を引いてそこの場から立ち去って行く。
誰だったんだ? 事故? いや、あれは狙ってやった様な気もする。
三階はたしか……
俺は詩帆を抱き寄せたまま、三階の校舎窓を見つめ続ける。
そのまま考え事をしていると、詩帆が何事かと慌て出す。
「ゆ、ゆうちゃん……その、何で急に抱き寄せたの」
「あ、すまん」
そこでようやく俺は抱き寄せていた詩帆を離す。
すると、詩帆は少し顔を赤らめており隠す様にすぐに俯いた。
「顔が赤いが大丈夫か?」
「べべ、別に赤くない!」
詩帆は片手で顔を隠す。
そのまま俺は今起きた事を全て詩帆に話し、状況を理解してもらう。
「そう言う事だったんだ……ありがとう、ゆうちゃん。守ってくれて」
「怪我がなくて良かったが、こう言う事よくあるのか?」
「ない、とは言えないかな。さっきみたいな小さい事がたまにあるんだけど、怪我とかは一切ないんだ。それに友達も心配してくれてるし、私は大丈夫だよ。もう小学生の頃の私じゃないし」
「本当だな?」
「うん……嘘じゃないよ」
俺は一瞬だけ詩帆の答えに間があり、視線を背けた事に引っかかった。
だが、詩帆が大丈夫という事を信じる事にした。
その後何事もなかった様に一緒に教室へと向かい始める。
すると、そんな俺たちの事を三階の校舎窓から冴島が目にしていたのだった。
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