第6話 告白失敗?
デパートの一件から、一週間が経過した。
更に発展があるかと思いきや、何故か特に何の進展もなく時間だけが過ぎていた。
何が起こったの? と思うだろう。
一番それを聞きたいのは俺である。
週明け、俺はちょっとウキウキ気分で学園に登校した。だが、冴島は生徒会の仕事が忙しくなり全く会う事が出来なくなっていた。
しかもその週全て生徒会の仕事であった為、姿をちらっと目撃するだけであった。
強引に話し掛けられる勇気は俺にはなかったのだ。
生徒会の仕事の邪魔もしたくなかっただけと、自分に言い聞かせ今まで通りの日常を過ごしたという訳だ。
詩帆の方も所属部活に専念すると言って、クラスで会うくらいで話は全然していない。
「はぁ~」
「ため息をつきたいのは、わっちの方だよ。何で強引にでも会いに行かないんだよ? この前いい雰囲気だったのに、それが全然活かせてないじゃんか」
「分かってるよ。だけども、忙しそうにしている冴島に迷惑を掛けるのは違うだろ」
「たかちゃんね、分かってるの? 後五日だよ? 一週間も無駄にして、そんな悠長な事言ってられないでしょ? 命がかかってるんだよ? それとも、もういい思いしたから諦めたの?」
部屋の椅子の背もたれにもたれ掛かり、右手の甲を天井に伸ばす。
右手の甲に刻まれた寿命の『5』を見つめる。
「諦めてなんてないよ。言われなくても分かってるよ、田中」
「だったら」
と、田中が何かを言いたげにした所で、俺はそれを遮る様に口を開く。
「だから俺は覚悟を決めた。明日冴島に告白する」
「う、うん」
「何だよその反応。人が告白する決意を口にしたって言うのに、どうしてぎこちない返事なんだよ」
「いやだって、一週間も何もなかったんだよ。ちょっといい雰囲気だった事で気が大きくなって、告白するって事でしょ?」
「うっ……いいだろそれでも。もしかしたら、また数日間冴島も忙しいかもしれないし。そしたら、熱も冷めるしタイミングも失うかもしれないだろ? それになんかイケそうな気がするんだよ。根拠のない自信ってやつ」
「まぁ、たかちゃんがそう決めたならそれでいいんじゃない? わっちも最初の時より無謀な行動でもないと思うし。何にしろ、告白が成功しなきゃどっちにしろ終了なんだし~」
田中は少し他人事の様に話し、部屋をフワフワと浮いて回りだす。
それを横目に俺は窓の外へと視線を向けた。
改めると、このままだと後五日で死ぬのか……告白が絶対成功する訳じゃないし、しなくても失敗しても終わりか。
俺が生き続ける為には冴島への告白を成功させるしかない。
たった数週間だけど、冴島との仲は深くなったし印象も悪くないと思う。
向こうはどう思ってるか分からない。けど、最初の頃のただ当たって砕けろ状態ではないのは確かだ。
後五日もあると思って行動すると、俺はたぶん直前でテンパって告白出来なくなる。だから、まだ自分に余裕があるうちに告白すると決めたんだ。
その時俺の手は震えていたが、強引にもう片手で震える手を包む様に握り締めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。告白という名の今後の生死が決まる日がやって来た。
俺はいつも通りに学園へと登校する。
教室に荷物を置き、早速冴島を探す為教室を出る。もちろん理由は、放課後に告白する場所に呼び出す為である。
最悪、再び生徒会の仕事で忙しいとなると告白自体を延期しざるおえなくなるという不安があった。だが、その不安はすぐに解消された。
運よく一人きりの冴島を見つける事が出来たのだ。
早速後ろから声を掛けようとしたが、どうしてか一言目が出てこなかった。
どうにか振り絞って声を出そうとする。しかし、口元や手が震えてしまい声を出す事が余計に出来なくなる。
くそっ、結局怖くなってるんじゃねぇかよ、俺。昨日覚悟決めたんだろ? 冴島に告白するって!
そう俺が自分自身と葛藤していると、冴島がふと振り返った。そこで俺と目が合うと先に声を掛けられる。
「小鳥遊君。おはよう」
「あ、ああ冴島……おはよう」
「どうしたの? 何か顔色悪いけど、大丈夫?」
「えっ……だ、大丈夫。ちょっと低血圧なだけだ」
「そう、ならいいけど。あ~それと先週はごめんね。生徒会で忙しくて全然話せなくてさ。何度か見かけて、声を掛けてくれそうな雰囲気は分かってたんだけどさ」
気付いてくれていたのか。
俺は気付かれていた事に少し嬉しくなる。だが、すぐに首を軽く横に振った。
そして浮かれた自分を落ち着かせてから返事をする。
「気にしなくていいよ」
「そう。でも、今週はその分生徒会の仕事もなくなったから、また話せるよ。実は、ちょっと小鳥遊君と話せなくてつまらなかったんだよね」
「え」
「あっ、今のは聞かなかった事にして」
冴島は少し恥ずかしそうにそう呟く。そしてそっと視線を外し少し赤らめた頬を隠す。
その姿を見て俺は勢いで言葉が出ていた。そのせいか、少し声が上ずってしまう。
「冴島、今日の放課後時間あるか?」
「っ……ごめん。今日の放課後はちょっと呼ばれてて」
「そ、そうか。いや、いいんだ。大した事じゃないし、全然問題ないから気にしなくていい。うん、全然大丈夫」
大したことだろうが! 何言ってんだ俺!
つうか、勢いで言っちまったけど断られたー! はずいはずいはずいはずい!
「ごめんね小鳥遊君」
すると遠くから冴島を呼ぶ友達の姿があった。
「ほら、呼ばれてるよ」
俺は恥ずかしさから、冴島から視線を外し少し俯いた。そのまま、呼んでいた友達の方を優先するように誘導する。
冴島はその友達に返事をし、俺に申し訳なさそうな態度をとってくれる。
しかし俺は冴島の顔さえ見れず「本当に気にしなくていいから」とちょっと笑いながらの返事しか出来なかった。
耳が真っ赤になっているのが分かる。いち早くこの場から離れたかった。
冴島が再び声を掛けて来る友達の方を振り向いた。
それと同時に、俺は急ぎ足でその場を立ち去った。
「あれ小鳥遊、君?」
冴島が再び俺へと視線を向けた時、既に俺は冴島の視界から消えていた。
正確には、近くの階段へと逃げ込んだのだ。
そこでしゃがみ込み、両手で熱い顔を覆い悶えていた。
そこへ田中が現れ声を掛けて来る。
「何してるんだよ、たかちゃん」
「た、田中~」
「ちょ! 何か気持ち悪いよ。別に告白した訳じゃあるまいし、誘い出そうとしてダメだっただけじゃん」
「そうだけよ~。何か気持ち的に勢いで口にしたら、そのまま叩かれた感じって言うか。何て言うか……」
「はいはい。今日はダメだっただけなんだし、また明日告白すればいいじゃん。まだ四日あるんだし」
それだけ言うと、田中はふらっとまたどこかへと行ってしまう。
俺は暫くそこで気持ちを落ち着かせてから、教室へと戻り始めた。
確かに今日ダメだっただけで、明日誘えばいいだけだ。告白の前にいい失敗が出来たと思えばいいんだ、うん。
そう、自分に言い聞かせている途中で、ふと冴島の言葉を思い出す。
そう言えば呼ばれてるとか言ってたな。
呼ばれてるって誰にだ? 先生? いやいや、朝から放課後に呼び出す先生いないだろ。って事はまさか、別の誰かからの告白か!?
そして、そんな事をモヤモヤと考えているとあっという間に放課後となった。
俺は真相が確かめたく直ぐに帰宅せずに冴島を探し始める。
すると、人が少ない校舎裏に向かう姿を目撃しバレない様に後を追う。そして、近くの校舎の壁に隠れ様子を伺う。
そこには冴島以外にもう一人男子生徒が待っていたのだ。
そう、朝の俺の勘は当たっていたのだ。
告白だよな。はぁ~なんつうタイミングだよ。
しかも相手は、冴島と同じ生徒会書記で同学年の
「冴島さん、今日は急に呼び出してごめん」
「うんん、大丈夫よ真中君。それで話って何?」
「あ、うん。その、今日冴島さんを呼び出し理由は、僕の気持ちを伝えたくて」
いい、行くのか!? もう告白するのか? てか、告白ってこんな感じでするのか!?
俺は壁に隠れながら人の告白を覗き見する。そして勝手にハラハラしていた。
「その、僕は貴方の事がす……好き、です! 付き合って下さい!」
言ったーー! 告白したーー! で。さ、冴島の答えは……
俺は冴島の返答に固唾を呑んだ。
ここでもし、冴島がいいよっと言ったら俺が告白しても意味がなくなる。かつ、俺の死がほぼ確定するのではとそれが頭の中を駆け巡った。
それと同時に冴島が口を開く。
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