第2話 全ては正義のため

 その後シリウスたち自称未来の勇者たちから、カイルと四天王たちは一から詳しく話を聞いてようやく状況を受け入れ、整理し始める。


 百五十年後の未来でも魔王と勇者の戦いは続いているのだが、一時期は停戦状態となり話し合いにて協力し平和へと進んでいたのだが、突然魔王が今のアルゴの様に一方的に人間が悪だと決めつけ襲い始め、再び全世界を巻き込む戦争へと発展していた。

 そして勇者の力を授かったシリウスたちが魔王を討伐した事で、戦争は止まるかと思われたが既にそれでは収拾がつかない状況となっていたのだ。

 憎しみが新しい憎しみを生み、世界は滅亡へと向かい始めるがシリウスたちは何とかしようと行動をしている際に、とある過去の資料を見つける。

 資料を調査し続けた結果、世界を滅亡へと導き始めた元凶を見つけ出した。

 それは『不必要なまでの正義の心』であった。


 『不必要なまでの正義の心』とは、怨念の様なものであり存在しているものではない。ある日突然人や魔族の内に芽生え、目的を達成する為に何かに取り付かれた様に行動を起こし、更には周囲の存在にも影響を与え攻撃的な思考へと変化させる。

 またそれは、人や魔族に寄生し続け最初の寄生主が倒れたとしても何処かで別の寄生主が存在し続けていれば、それは存在し続け新たな寄生主が生まれるという終わりのないものであった。

 だがそんな中でシリウスたちは『不必要なまでの正義の心』が一番初めに発生した存在が、勇者アルゴだと突き止めたのだ。

 『不必要なまでの正義の心』さえ存在しなければ未来は変わると考え、シリウスたちは未来から過去に勇者アルゴと戦っている魔王軍と協力し勇者アルゴの抹殺にやって来たのであった。


「と言う、理解でいいのかシリウス?」

「えぇ、問題ありません。魔王カイル」

「あーカイルでいい」

「では、カイル様とお呼びいたします」


 カイルは椅子へと深く腰掛けて、小さくため息をつく。

 部屋にはカイルと四天王たちとシリウスというメンバーで机を囲っていた。


「(信じない訳ではないが、直ぐに受け入れるもんじゃない……だが、致命傷だった四天王たちを完全治癒したのを目撃していると、この世の存在ではないとは分かる)」


 またカイルはあのアルゴを退けた一撃で、相当な実力者なのではと感じていた。

 勇者アルゴはシリウスの一撃を受けた後、その場に姿はなく撤退したのではというのがこちらとシリウスたちでの見解の一致となった。

 するとそこでシリウスに対して、勇者の一人でもあるカノープスが部屋にやって来てシリウスに小さく耳打ちをした。


「カイル様申し訳ありません。魔王城の大広間を少し貸していただけますでしょうか?」

「何に使うんだ?」

「我らに協力して貰える軍隊の準備が出来たため、未来からこちらに呼び込みます」

「はぁ?」


 その後カイルたちは、シリウスたちの後に付いて行き大広間に辿り着く。

 すると、大広間で待っていた他の勇者たちがシリウスと横一列になり両手を前に突きだし始める。直後目の前の空間が歪み、大きな穴が開いた。

 それはシリウスたちが出て来た穴と酷似していた。

 するとその穴から次々と重装備した兵士たちが出て来る。

 全兵士の胸元にはシリウスたちの装備にも入っていた五つ星のマークが刻まれていた。

 五つ星のマークは未来にてシリウスたち勇者が率いる軍のマークだと教えられた。

 そして大広間の大半が埋まるほどの兵士たちが出て来た所で、空間の穴が閉じられシリウスがカイルたちに向かって説明し始めた。


「彼らは私たちに共感してくれた者たちで構成した軍隊です。指揮は私たちが行っており、勇者見習いと呼んでいます」

「勇者見習いね……かなりの人数がいるが、どれだけいるんだ?」

「現在は八十八名です。彼、彼女らは私たちに劣らずとも皆強く平和な世界を取り戻したいという心を持っています。必ずカイル様たちの力になると考えています」

「……そうか。ひとまず今日は情報が多すぎてもうパンクしてる状態だから、細かい事は明日でいいか? それと部屋だが直ぐに準備は出来ないから、今日はここを使ってくれ」

「はい、それで全然問題ありません。こちらこそ、突然のご無礼をお許しください」


 そうシリウスが頭を下げると、他の勇者と勇者見習いもカイルに向かって頭を下げた。

 何か気持ち悪いくらいに統制されてると感じつつ、カイルは直ぐに頭を上げるように伝える。

 そしてシリウスたちとはそこで別れ、カイルは四天王たちとだけで別室へと移動し改めて話を始めた。


「で、実際お前たちはあいつらをどう思う?」

「俺は信じるぜ。死から救ってもらってる身であるし、勇者を倒せるなら心強い味方だろ」

「俺も同意見だぜ!」

「そうですね、私も不本意ですがアルクトゥールスと同意見です。勇者アルゴの強さは想像以上で相手にすらなりませんでした。再戦するにもこのまま私たちだけの力だけでは、同じ結果が待っている気がしています」


 確かにアルファルドの言う通り、勇者アルゴは想像以上に強敵であった。

 以前一度戦った時とは大違いの強さを誇っており、カイルも現状のこちらの戦力では敗北の未来しか見えずにいた。


「レグルスはどう思う?」

「私はまだ完全に彼らを信じ切れていません。カイル様に敵対心がないのは分かりますが、もし勇者側に寝返ったらと考えたら最強の援軍から、最悪の侵略者に変わるのですから」

「(確かに、その線は俺も考えていた)」

「慎重に彼らを見極めるべきだと提案いたします。既に勇者見習いという兵士まで呼ばれてしまっている以上、警戒は怠らない方がよいかと」

「そうだな。現状呼び戻せた執事たちに見張らせてはいるから、完全野放し状態ではない。最強の援軍から最悪の侵略者という考えは俺も近い事は考えていた」


 カイルの言葉に四天王たちも固唾を呑む。


「だが、状況が状況だ。再びアルゴに攻め入れられたらこちらの敗戦は濃厚。そのため、俺は彼らとは信頼関係を築きつつ、真偽を見極めたいと思うがどうだろうか?」


 カイルの意見に対して四天王たちは大きな反論はなく賛同する。

 その後、カイルたちは今後の方針の詳細や現戦力確認、城の破損箇所などもし再び勇者アルゴが攻めて来た時の為に、状況を整理し次の日から各自行動をとり始めた。

 そして三週間が過ぎた。


 この間に勇者アルゴが再び攻めて来る事はなく、大きな戦いも起こらず静かで平和的な日々が続いていた。

 アルゴの消息は掴めておらず、いつまた攻めて来るか分からことから魔王城周辺の守りを強化する為にシリウスたちの勇者見習いの力を借りることしたのだった。

 あれからシリウスたちとはコミュニケーションをとりつつ信頼関係を築き、互いの戦力状況を情報交換などし対勇者アルゴに向けて作戦を練り続けている。


「では、私たちも明日から周辺の防御結界付近を見回りに行きます」

「あぁ分かった。一応アルクトゥールス隊も同行するそうだから、何かあればアルクトゥールスを頼ってくれ」

「分かりました。では、今日はこれにて失礼いたしますカイル様」


 シリウスと同行して来ていたカノープスはカイルに頭を下げて、部屋を後にした。

 それを見届け、部屋に自分だけになったところで書類作業をしつつレグルスへ念話を飛ばした。


『レグルス、聞こえているか?』

『はい。カイル様が念話をされて来たということは、今お一人なのですね』

『ああ。それで、以前秘密裏に頼んでいた『不必要なまでの正義の心』について調査は今どのくらい進んだかと思ってな』


 カイルはシリウスたちに秘密にレグルスにみ密かに『不必要なまでの正義の心』についての調査を進めてもらっていた。

 現状『不必要なまでの正義の心』は情報がほとんどなく、シリウスたちからの話だけだったため現代において何か手掛かりはないかと探ってもらっていたのだ。


『『不必要なまでの正義の心』についての伝承などは今の所、特にはありませんでした。ですが、以前勇者と共に戦いに参戦した者で、何かに汚染されている様な反応を感知したという報告を見つけ出しました』

『汚染? それが『不必要なまでの正義の心』って事か?』

『いえ、そうとは言い切れませんが何かしらの手掛かりになるのではと思います。その者も戦いの時の事はほとんど覚えておらず、何かに執着していた感覚だけが残っていたそうです』

『そうか……分かった。引き続き調査を頼む』

『了解致しました』


 そこで念話を終了し、カイルは深く椅子に寄りかかった。

 状況は変わっている様でそんなに変わってなどはいないのではないかと、カイルは悩んでいた。

 シリウスたちにより一時的に戦力も防衛力も高くなったが、どうしても完全に信じ込むことが出来ずにいた。

 確認しようのない未来という不確定要素。そして本当にシリウスたちは未来から来たのかと考えてしまう。シリウスたちの所持している武器や衣服はたしかにこの時代では作れない代物だと分かる。

 会話もこちらを知ろうと寄り沿ってくれる態度もあることから、敵とは現時点では思えない。


 しかし、カイルはシリウスたちが本当に未来の勇者とするならの部分で引っかかっている所があった。

 それは、勇者アルゴへの思った以上の執着さや、未来でも魔族と戦争していたはずなのにすんなりと協力できる態度だ。

 『不必要なまでの正義の心』という存在以外に、未来の滅亡を回避する方法は本当になかったのか? 過去に来なくても未来の技術力ならばもっとそれを解明し、解決できなかったのか? 元凶を断つというのは分かるが、本当にアルゴが元凶なのか?

 何故アルゴにこだわっているのにも関わらず足取りがつかめないのか? こちらの状況が未来から判明しているのであれば、アルゴの行く先や潜伏先も未来から調べられたのではないか?


「(はぁ~ダメだダメだ。ここの所、一人になるとそんな事ばかり考えてしまう。何が正しくて何を信じるべきか分からなくなってる……魔王として、しっかりと見極めないといけない立場なのにな。成り行きで魔王というものになってしまったが、魔族の王が間違った判断を下す訳にはいかないしな)」


 カイルはそこで一旦考えることを止めた。休息も大切と切り替えて椅子から立ち上がりベットへと移動しようとした時だった。

 背後から異様な気配を感じ振り返るとフードを被った人物がいたが、相手はカイルが振り返ったのと同時に首元に何かを突き刺す。

 すぐさまカイルは振り払うが、視界が大きく歪みだし立っていられずその場で崩れ落ち床に手をついてしまう。


「くそっ……誰だ、お前は……」


 何処からともなく現れた刺客に、カイルはフードを被った人物を倒れた状態で見上げるが何も分からぬまま、完全に意識を失ってしまうのだった。

 フードを被った人物は意識を失ったカイルに近付くと、再びカイルに何かを打ちこむと自身の腕にも何かを打ち込むのだった。

 するとそこで部屋の扉が開くが、フードを被った人物は慌てる様子もなく部屋に入っていた人物へと視線を向ける。

 その視線の先に立っていたのは、レグルスであった。

 レグルスも目の前の状況に慌てず二人の元へと近付く。


「……終わったのですか?」


 その問いかけに、フードを被った人物は黙って一度頷く。


「本当に貴方を信じていんですよね?」

「……」

「黙ってないで、何か言ってはどうで――」


 その時だった、扉を突然叩く音が響きシリウスの声が聞こえて来た。


「カイル様一大事です! この城に勇者らしき人物が侵入したと報告が!」

「っ!?」


 直後フードを被った人物とレグルスは瞬時に互いに頷くとレグルスを蹴り飛ばし、近くの窓を突き破って逃げ出す。

 シリウスは部屋の物音を聞き、直ぐに扉を開け部屋の状況に驚く。


「カイル様! それにレグルスさんも。何があったのですか?」

「ぐぅ……分からない。私が来た時には既にカイル様は……」


 そこへ勇者見習いたちも駆けつけると、シリウスは窓から何者かが逃走したと判断し指示を出し追わせる。そしてすぐさま倒れて意識を失っているカイルの状態を確認し始める。


「命に別状はありません。が、何かされたのは確実だと思われます」

「カイル様……」

「今すぐにカノープスとアークツルスを呼んできますので、レグルスさんはカイル様の様子を見ててもらえますか?」

「分かった」


 そしてシリウスは急いで部屋から出て行った。

 レグルスはカイルの傍に寄り沿い軽く手を握る。


「(カイル様、恨むなら私を恨んでください。全ては正義のためなのです……)」

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