第29話

「とにかく、僕は自分の言った事を覆すつもりはない。あぁ、そうだ」


 ニヤリと笑ったカーティオの姿に、付きまとっていた貴族たちがビクリと身体を震わせて一歩下がった。


「そんなくだらない進言をするような口は、いっそ、塞いでしまった方がこの国の為になるか……。ねぇ、君たちもそう思わない? 」


 両手に魔力の塊を集めたカーティオは、駆け寄ってきたフォルテとクラヴィスに冷たい声音のまま問いかけた。

 ピタリと一度その場で足を止めた二人は、ゆっくりとカーティオと貴族たちの間に進むと、両手を広げて貴族たちを庇った。


「どうして、庇うの? その人たちはフォルテを侮辱したんだよ? 」


「仕方ないよ。兄様より魔力が劣るのは本当のことだもん」


「フォルテ……」


「さぁ、行って。これ以上、兄様を怒らせたら、僕でも止められない。その時は庇いきれないよ」


「し、失礼しました! 」


 足をもたつかせながらも、その場を必死で離れていく貴族たちの姿が見えなくなると、くすりとフォルテが笑う。


「あ~ぁ、かわいそう。あれじゃ、要職には着けないね」


 しっかりと今の面子の顔と名前を覚えたフォルテは、今後の人事を考え直さなければいけないなと思う。


「とりあえず、恩を売っておいたから表立って反発はして来ないだろうけど」


「そうだといいけどね」


 ため息と共に心底呆れたように呟いたフォルテに、クラヴィスは同意しつつ恐ろしいなと思う。

 強かで策略家な王族たちはたくさん見てきたが、まだアカデミーに上る前の王子たちがここまでの手腕であったのは初めてだった。この国はしばらく安泰だろうと、自分もその場所にいた経験からも思う。


「それにしても兄様、なんであんな真似したの。あれ、わざと自分を悪く見せようとしてたでしょ! もう! 僕は兄様が悪く言われるの嫌なんだからね! 」


「んと、大掃除のため? 」


「なんで疑問形なの……。まぁ、どっちに転ぶかは見ものだと思うけど」


 今度はクラヴィスがため息を吐く羽目になった。

 要するに、この王子二人は自分たちの身を囮にして忠義を欠く貴族を炙り出そうというのだ。


「あの、僕は一人しかいないんだけど……」


「大丈夫、僕は一人でも身を守れるから、クラヴィスはフォルテに付いててあげて。何だったら、ずっとここに住んでもいいからね」


「それがいい。クラヴィスは僕の部屋の隣ね」


 カーティオとフォルテが両手にまとわりつき、すっかりクラヴィスの取り合いの様相となったその時、クラヴィスはすっと瞳を眇めて背後の気配を探った。

 両脇の二人もその様子に気付いて、顔には笑顔を浮かべたまま耳を澄ませる。


「いえ、ちゃんと、一度は持ち帰ります。お父様に相談しないと……。殿下たちは陛下にお話しください」


 するりと二人から腕を抜いたクラヴィスは、一歩下がって二人に頭を下げると踵を返した。

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