第28話

 サンクティオ訪問を終え、王子二人が帰ってから、メディウム国内は騒がしくなった。とはいえ、騒がしいのは中枢のみで、民たちは至って平穏な暮らしを続けている。

 メディウムの王家は女神の血を護る家系として、神子と加護を持つ者を生み出してきた。君主を世襲としないこの国では、王位の継承権は政には直接関係がない。さらに言えば、制度としては平民も君主となりうるとされている。しかし、実際にはルーメンの創成以後、王家以外の人物がその地位に着いたことはないとされている。


「カーティオ殿下、どうか、どうかお考え直しを……」


「僕の考えは変わらないって言ってる。王にはフォルテの方が相応しいともね」


 歴代の王たちによって、国を運営するための中枢に貴族ではない者たちの力が、徐々に振るわれるようになって来てはいる。それでもまだ、貴族たちの影響力の方が大きいのが現状だ。

 貴族たちにとって、王は自分たちの立場を象徴するものでもあった。そこにより強い力を持つ者を置くことが、振るう権力の後ろ盾になると信じているのだろう。


「しかし……フォルテ様の魔力は」


「王位に膨大な魔力が必須だなんて知らなかったな。父上は母上よりも魔力では劣るとご本人から聞いているけど。それとも、フォルテが、僕の弟が王位に相応しくない理由があるとでも? 」


 メディウムの民にとって魔術は身近な技術であり、皆が大なり小なり魔力を持っている。ただ、大きな魔力を持つ者は貴族に集中しており、その最たるものが女神の血を受け継ぐ王家であり、過去において王家の嫁ぎ先となっていたクリスタとアエラスティであった。

 さらに、カーティオは先日、ウィザードのマスター称号を史上最年少で取得している。神子や加護を持つ者がすべてマスター称号を取得できるわけではない。むしろ、その域に達していることは稀であった。


「決して、そのようには」


「じゃぁ、僕が継承権を放棄することのどこに問題が? 」


「そ、それは……」


 そこまで、じっと回廊から繋がる中庭からその様子を見ていたフォルテとクラヴィスは、出ていく機会を伺っていた。

 カーティオに付きまとう貴族たちが居なくなったらと思っていたが、状況が変わってきたため、どうしようかと考え始めている。貴族たちの言葉に苛立ちを隠さなくなってきたカーティオの身体から、徐々に魔力が放出され始めているのだ。


「そろそろ何とかしないと、あのおじさんたち再起不能になっちゃうんじゃない? 」


「いや、流石にカーティオでもそこまでしないでしょ」


「え、だって、カーティオだよ? 」


「う……これ、止めないとお父様たちに怒られるやつ」


「叔父様、怒ると怖いんだよね」


「えっと、多分、陛下も相当……」


 フォルテとクラヴィスは、自分たちの父親が本気で怒る様を想像して身震いした。


「止めよう」


「よし、じゃぁ、フォルテ……満面の笑顔でカーティオに駆け寄って」


「あれは僕だけじゃダメだって、クラヴィスも行くよ」


 言い終わる前にクラヴィスの手を引いたフォルテは、カーティオに向かって駆けだした。



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