第23話

 フォルテは泣いてはダメだと歯を食いしばるが、上手く行かない。これでは、クラヴィスを困らせるだけだと分かっている。


「君が城に来なくなって、泣き虫な僕の涙は誰も拭いてくれなくなって……、もしかしたら僕がこんなだから、君が嫌になったのかもって思って……」


 一緒に育ったと言っても過言ではない彼が、急に城に来なくなったのは自分の所為だと、ずっと思っていた。王子と臣下になるのだからと、周りの大人たちには言い聞かせられてきた。その言葉にずっと耳を塞いできたから、罰が当たったのだと。


「……違う。フォルテ、君の所為なんかじゃない。僕が、弱かったから。お父様やお母様のことを信じられなくて、君やカーティオのことも信じられなかったから、だから……」


 ごめん、とクラヴィスはフォルテを抱きしめた。

 自分を責める言葉も、フォルテやカーティオに対する謝罪の言葉も沢山あるはずだ。けれど、今は言葉を尽くすよりも、ずっと避けてきた、ずっと隣に在ったはずの温もりを確かめたかった。


「本当に悪いと思ってるのなら、帰ったら、前みたいにちゃんと僕たちに会いに来て」


「うん」


「僕たちは君の所に簡単には行けないんだから、君が来てくれないと会えないんだ」


「うん、分かった」


「僕より背が高くなったのは、なんか腹立つ」


「うん? えぇ……」


「じゃぁ、フォルテも頑張って一杯食べて、一杯運動しないとね」


 そう言ってカーティオは、フォルテごとクラヴィスを抱きしめた。


「あと、クラヴィスはいつレーニス姫に会ったのかを白状するように」


「えぇ??? 」


「精霊たちがおしゃべりだって、忘れたわけじゃないよね」


 にっこりと微笑んだカーティス。彼の笑顔の違いを分かる人間は、限られている。だが、残念なことにクラヴィスには、この顔が逃がさないって時の笑顔だと分かってしまった。


「クラヴィス、それは、二人だけの秘密なので、言っちゃだめです! 」


 あわてて立ち上がったレーニスは、自分に集まった視線にはっとして両手で口を押えた。

 席に着くときにクラヴィスは名乗っていたので、レーニスが彼の名前を知っていることにはなっている、しかし……。


「レーニス、どういうことだ? お前と彼は初対面のはずでは? 」


「ふ~ん、クラヴィス、もちろん、ちゃんと、お兄ちゃんたちに教えてくれるよね」


「あの……ごめんなさい」


 王女様、それは色々認めてしまっています、とは言えないクラヴィスは、小さくため息を吐く。どちらにせよ、怪訝な表情のリテラートと、極上の笑顔を張り付けたカーティスの追求からは逃れられないだろう。


「分かりました。お話しますから、とりあえずお座りください」


 結局、皆が席を立ってしまっていたので、まずは落ち着こうと提案する。

 ちらりと横目で伺えば、サラーサとリウィアはにこにことこちらを見ていたが、他の三人は何も聞こえないといった体で静かにお茶を口に運んでいた。

 何はともあれ、ここまで両親をはじめとする大人たちが口を出さずにいてくれたことは、有難かった。


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