第21話

「僕たちもあんな感じになるのかな」


 大人たちの様子から視線を逸らし、ぼそりとフォルテが呟いた。


「そうだね。僕たちは兄弟でも同じ学年だし、サルトスの双子は僕と年齢も同じだ」


「ソニアの加護を持つ者は、私の一つ年上だと聞いた」


 リテラートの、つまりサンクティオで生まれる陽光の神子に着く側近は、ゲンティアナを取りまとめる長老一族からと決まっていた。同じようにサルトスの黄昏の神子には、オレアの神官一族からだ。女神の加護を持つ者が在れば確定として、そうでなければ長子がその立場となる。

 どちらも、ある程度、周囲の状況が分かるようになる頃には、神子の傍に仕えているのが慣例だった。


「それなのに、まだゲンティアナに? 珍しいよね、すぐにこちらに来ないのは」


 話を聞いて、浮かんだ疑問を口に出したフォルテに、リテラートは少し困ったような顔になった。彼自身も事細かに説明を受けている訳ではなかったからだ。


「加護持ちが見つかったのは昨年なんだ。それ以外は知らされていない」


「そっか、じゃぁ、次に僕たちが来た時に会えるかもね」


 重くなりかけた空気を払うように、カーティオがにっこりと笑みを浮かべる。そして、その笑顔を今度は隣に座っていたクラヴィスに向けた。


「ところでクラヴィス。レーニス姫が君に興味津々みたいだけど」


 王子たちの話に口を出さず、優雅にお茶を口にしていたクラヴィスは、その言葉にも動揺することなくカップを置くと、カーティオとは反対側に座っているレーニスへ柔らかな笑みを向けた。


「王女様、お好きな菓子がありましたら、お取りしますよ」


 それに驚いたのは、王子たち三人だ。

 カーティオとフォルテが語るクラヴィスは、周囲への関心を失い、笑顔を失くしてしまったはずだったのだ。事実、大人たちも来るからとはいえ、この席へ共に着くことも以前なら考えられなかったのだから。


「クラヴィスが笑ってる」


 信じられないとフォルテは、がたりと椅子を鳴らして立ち上がると、クラヴィスの隣に立った。


「殿下、お行儀が悪いですよ。それに、王女様も驚いています。席に着いて……」


「な、んで……なんで、そんな何でもないような顔するの! 」


「……フォルテ」


 そっとフォルテの手を取ったカーティスの手が振り払われる。

 クラヴィスは伏せていた視線を上げ、隣に立つフォルテを見上げた。そこにあったのは今にも泣き出しそうな顔だった。


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