第17話
存在が生まれた時には、既にニンファは精霊の王だった。人間のように庇護される時間はなく、生まれながらに王として在り、精霊たちは自分に付き従った。
何時までとも分からない永い時を過ごすのだから、気の置けない相手が一人くらいいればいい。そんな時に見つけたのがカエルムの存在で、何度生まれ変わっても自分を覚えていることの希少、それ以上でもそれ以下でもない、最初はただの気まぐれだった。
魔物との壮絶な戦いの末、多くの人と魔物たちの躯の上に出来たルーメン。その大戦で、精霊たちは、力を求めた魔術師たちに力を貸した。
通常、精霊の力は、貸す力と過不足のない対等な対価との交換条件だ。大戦では、結果的に人側に加担した形になったが、自分たちの存在を消されないために行動したに過ぎないため、精霊たちは対価を求めることはしなかった。だから、自分たちへの魔物たちの脅威が去ると、精霊たちは人への力の受け渡しを切り、それ以上、ルーメンの創成に携わることはなかった。
その後、何年もの復興の時を超えて、その名の通り光の国として知られる女神の加護が降り注ぐ地となった。だが、葬り去られた魔王の素性と、国祖王の抱えた問題はその強い光の中に隠された。
『分からんな。人は死すれば、その身に科せられた罪を赦されるのではないのか? そのためにファートゥムが在るのだろう? 何故、貴様はそこまでして人間どもを護ろうとする』
『多分、ただ、自分がやったことを無駄だと思いたくないだけ……そう、自己満足だ。きっと』
『人とは……いや、貴様は、難儀なやつなのだな』
そんな話をしたのは、確かカエルムが最初の転生を果たした時だ。
人はその生を終えるとファートゥムの樹に還る。そして、ファートゥムを通れば、魂は浄化され、次の生を与えらえる。その理を見守るのがルーメンを作った三人の女神、その理を外れ、浄化されることなく時の狭間を彷徨うのが魔物たち。
そのどちらにもならないカエルムの魂は、女神たちの紡ぐ糸の上を、ただただ、巡り続ける。
「カエルム……何かあれば我を呼べ」
「高くつきそうだなぁ」
「なぁに、貴様が足掻く様を間近で見られるなら、それでいい」
「やっぱり私の事が好きなんだな」
「そうかもな」
この存在が、何処まで行くのか、どんな結末を迎えるのか。少し、興味が沸いた。終わりの見えない時を同じように過ごす、似て非なる存在に。
ただ、それだけだ。
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