第16話
風が収まると、クラヴィスの隣に座る者があった。背丈はクラヴィスと変わらないが、金糸のような長い髪と月を嵌めた様な瞳の男の子だ。
「カエルム、今回は早かったな。もう、女神の檻に入るのか? 」
「いや、まだだ」
「なんだ、慰めてやろうと思って来たというのに」
「殊勝なことだな。だが、ニンファ、揶揄いに来たの間違いだろう? 」
クラヴィスの言葉にくすりと笑ったニンファ。彼は、ルーメンに存在する精霊たちの王でもある。
「それもある。が、お前、精霊たちを見えぬモノとして扱っておるらしいな。何かしら思う所もあろうと黙っておったが、この城の精霊たちまで騒ぎだしては、五月蠅くて我が敵わん。今すぐ態度を改めよ」
ビシッと音が付きそうな勢いで人差し指を鼻先に突き付けられたクラヴィスは、困ったように微笑んだ。
食って掛かられるかと思っていたニンファは、その顔に毒気を抜かれてしまった。指を降ろして小さなため息を一つ吐くと、次にはクラヴィスの頬をぎゅぅっとつねった。
「何、情けない顔をしておる。まったく、何年経っても、何度繰り返しても、世話の焼けるやつだな」
「それはすまんな」
「ふんっ、まぁ、よい。レーニスだけは手懐けておけよ。あれは精霊の愛し子だ」
「レーニス……この国の姫だったか。そうなると、普通は近づくのもままならないんだが……」
「安心しろ、レーニスの方からやってくるだろう。お友達になりたいと、精霊たちに話しているらしいからな」
「お友達……ねぇ」
それはそれで面倒なことにならないだろうかと思うクラヴィスだったが、それをニンファに伝えれば、もっと面白くしてやると手を出してくるに違いない。それだけは避けたい。この精霊王は、永い時を過ごす為に常に退屈を持て余している。生を繰り返すカエルムに近づいたのも、面白そうだという一点だった。
手懐ける、と言えば聞こえは悪いが、ちゃんと見ておけということだろうか。年も少し離れているから、アカデミーでは一緒にならないし、姫ならば護衛の騎士はつくだろう。クラヴィスが護らなくても、大丈夫ではないだろうか。
「何をアホ面を晒しておる。愛し子だといっただろう? 利用価値はあるということだ」
「要するに、お前が心配だから戦力になるやつを紹介してやる。ちゃんと取り込んでおけ……ってことか? なんだ、ニンファ、私の事がそんなに好きだったのか。素直に言えばいいものを」
まったく……とため息を吐いたニンファは、ふっと口元に笑みを浮かべた。
揶揄いに来たというのは本当だ。カエルムが暗い顔をしているのは、気にくわない。他愛のない話をして、少しでも調子を取り戻せばいいと、それだけのつもりだった。
「どこを、どう聞いたらそうなるのか知らんが……。まぁ、お前が居ない間はつまらんのは認めてやる。協力してやるから、せいぜい長くその身体を保って見せよ」
「ニンファ……ありがとう」
「ぅ……お前が素直だと気持ち悪いな」
「精霊王は素直が苦手……っと」
「おい、何を書き留めているんだ」
見せろ、だめだ、そんな人の幼子がするようなやり取りをしながら、ニンファはそれが楽しいのだと感じていた。
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