第15話
神殿の最も高いところにある鐘突き台の窓枠に座り、クラヴィスはしんと静まり返った中庭とその先にある王宮を眺めていた。月明かりに照らされた中庭は、昼間の華やかさとは裏腹に、何処か憂いを帯びて見える。
ずっと、何処かで一人の人として愛されたいと願っていたのに、自分に対して真っ直ぐな愛情を向ける今の家族の存在が、ずしりと重くのしかかる枷のように思えてしまう。
覚醒が遅かったセルリアンの時は、悪魔と、忌み子とののしられることはなかった。とりわけて温かい家でもなかったが、クロイツとしての誇りを持つ同志のような絆を感じてはいた。
覚醒後、日に日に膨れ上がる魔力に身体は急速に時を進め始め、そこに見た両親の顔は、明らかな恐怖を浮かべていた。ついに共に暮らす事が出来なくなり、姿を隠す為に死んだことにしたが、伝え聞いた家族の様子は、子を失くした家族の姿そのものだった。
「思った以上に、キツイ……」
愛されてしまったら、別れが辛くなってしまう。この先、何度もそれを繰り返すのかと考えたら、孤独であった方がもしかしたら幸せだったのかも知れない。
愛されたいのに、孤独で居たいなんて、我ながらなんと身勝手な願いだろうか。
「フランに人生を楽しむ……と言ったものの、どうするかなぁ」
長生きしそうにないというのは、どの時でも思っていた。
最初の戦いから、何度か繰り返した魔物との対戦を通して、取り込んでしまった魔力は増える一方だ。これでは本当に終わりが見えない。
だが、最も深刻だと思うのは、長年使い続けていた封印石では、魔力を抑える限界に近いところまで来ているということだ。どうあがいても身体という器が人である限り、魂が持つの力の大きさに長くはもたないのだ。
自分の行く末を憂いたクラヴィスが、ほぉっとため息を一つ吐くと、それが強い風となって鐘突き台を吹き抜けた。
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