第14話

 神殿から出てきたウラノスとサラーサを見つけたのは、リテラートだった。


「居ない……」


 ぽつりと呟かれたそれが、誰を指すのかは他の三人ともがすぐに理解した。

 じっと二人を見つめるリテラートの視線を追ったカーティオが立ち上がると、彼の隣にいたレーニスが駆け出した。


「おい、レーニス」


 リテラートの制止も聞かずに二人に駆け寄ったレーニスに、すぐに気付いたウラノスが膝を付き、サラーサもその後ろで視線を落とした。


「あ、あのっ……」


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。お初にお目にかかります。メディウムで近衛隊長をお任されておりますウラノス・クリスタ、後ろで控えるのは妻のサラーサでございます」


「妹の無作法をお許しください、クリスタ公爵。共に参られたご子息の事を伺ってもいいだろうか」


 クリスタの二人は、そのまま王宮へ戻ることなく、王の子供たちに東屋へ招かれた。

 第一王子のリテラートは、リヴェラのサンクティオ訪問の折に言葉を交わしている。ウラノスの中の、父王に似た誠実さを持っているという印象は、今のこの時も変わらない。

 カーティオの様子を見ている限り、王の子らに政治的な意図はなさそうなのは、ウラノスも理解した。王族としての振る舞いを忘れ、誰よりも先に自分たちの前に現れた事から、恐らくは小さな姫の意向なのだろう。


「息子が何か失礼をいたしましたでしょうか」


「あの子……いえ、クラヴィス様がとても悲しそうなお顔をされていたのが気になって……。私でお力になれることがあれば、と……その」


「レーニス姫、他国と言え、私どもは王の臣下でございます。息子に対する敬称は不要。ですが……そのように我が子を気にかけて頂けたことは、嬉しく思います。ありがとうございます」


「何故、伯父上をお訪ねになったのかは、お聞かせいただけるのだろうか」


「リテラート殿下、それについては極私的な事ゆえ、ご容赦いただきたい」


 真っ直ぐにリテラートの視線を受け止めたウラノスは、後ろにいたサラーサへ視線を移した。するとサラーサが頷き、前に進み出た彼女は、レーニスの前で腰を落として視線を合わせた。


「レーニス姫、よろしければ私とお話をしていただけますか? この国の精霊たちの事を私にお教えくださいませ」


「はい」


「嬉しい! こんなに可愛らしい姫様とお話しできるなんて夢のようです」


「サラーサ……」


「あら、怖い。さ、姫様、女同士仲良くいたしましょう」


 サラーサがレーニスを連れて東屋を離れると、ほぉっと息を吐いたウラノスがその表情を少しだけ緩めた。


「きっと、同年代の殿下たちにお力添えをいただければいいのでしょう。しかし、私たち自身も多くは知らされていないのです。お伝え出来る事と言えば、クラヴィスには神聖名が与えられており、それはメディウムではなく、サンクティオでの管理下にあるということ」


 ウラノスの憂いを帯びた声は、重く響く。そして、その視線はリテラートから、カーティスとフォルテに向けられた。


「お二人があれを気にかけて下さっていることは、存じております。ただ、私が言えることは、親として、息子の幸せを願っている……としか」


「叔父様……」


 フォルテの言葉に首を横に振ったウラノスは、くすりと悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。


「臣下に向かっての言葉、我が君には、黙っておきましょう」


「なっ……」


「その代り、どうか……クラヴィスをお願いいたします」


「はい、叔父様」


 深く、深く頭を下げたウラノスの手を、カーティスとフォルテが取った。

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