第12話 幕間 兄の矜持

 クラヴィスには年の離れた兄がいる。彼、プロクスは、名実ともにクリスタ家の後継者である。

 クラヴィスが覚醒した時には、既にアカデミーに入っていた為、両親と弟の間にあった事は知らずにいた。だが、アカデミーにおらずとも、詳しくは話されることはなかっただろう。彼は秘密を守る事が、壊滅的に不得意であったから。

 普段、人好きのする笑顔を絶やさない彼だが、言葉以上にその顔には心が映されるのだ。

 そして、今、この時もそれは変わらない。


「クラヴィス、お前はもっと肉を食え。そして、その線の細さを何とかしろ。その身体では、剣を振るうのに難儀だぞ」


 ファーストの過程を終え、セカンドに上る前にと、メディウムへ戻っていたプロクスは、サラーサと共に迎えに出たクラヴィスを見るなり、抱き上げてそう言った。


「ですが、兄上、僕が今から肉ばかり食べるのはどうかと思います。筋肉よりも先に脂肪がついてしまう。それでは咄嗟の動きをする時に邪魔になるでしょう? 」


『は? 俺の可愛いクラヴィスは何処へ行った。何時ものように にいさま! と天使の微笑を向けてくれる俺の可愛い弟は何処へ……』


「兄上、心の声を顔に全て浮かべるのはお止めください。顔がうるさい男は、女性に嫌われますよ」


 ギギギと音のしそうなほど固まってしまった兄の腕から飛び降りたクラヴィスは、ほぉっとため息を吐きながら屋敷へと戻っていった。その後ろ姿を信じられないものを見るような顔で眺めるプロクスに、サラーサはくすりと笑う。


「あらあら、まぁまぁ……」


 ぽんぽんと息子の肩を叩いたサラーサは、石となってしまったプロクスを抱きしめた。

 ふわりと包まれた温もりに、漸く我を取り戻したプロクスは、ここへ来てやっと母へと帰省の挨拶をしたのだ。


「ただいま戻りました、母上。しかし、あの……俺の可愛いクラヴィスに一体何があったというのです」


「三年もあったのですよ。あの子も成長したという事です。今度はあなたの成長ぶりを教えてくださいな」


「はい、母上……よろこんで」








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