第11話
三人の神子と、三人の加護を受けし者。本来ならば加護を受けし者は四人であったが、先の大きな魔物との戦いで一つは空席となった。
現存の神子たちがすべて揃っているそれが、魔物や他国との大戦を意味するのか、空席が埋まる前触れか、今の時点では何の手懸りもない。もともと側近に立つ加護を受ける者たちが、男として生を受けることは多かったが、三人の神子までも男となると、大戦を警戒したくなるというものだ。
「それでも、民は女神の再来が揃っていることを喜んでおります」
「そうだな。何も起きる前から憂いていても仕方ない。どうやら、神子たちと私はアカデミーでは同じ学年らしいぞ」
愉快そうに顔を綻ばせるクラヴィスは、身体の年相応に見える。彼と同じ年になるフランの甥 リテラートとどこか重なるが、やはりその言動からか、魂の真実を知っているからか、フランの中の違和感は拭えないでいる。
「ここの第一王子はどんな奴だ? 」
「真っ直ぐないい子ですよ。少々、融通が利かない所もありますが……」
「なるほど、父親似か」
「揶揄うのもほどほどにしてやってください」
「まだ何も言ってないぞ」
「顔に書いてありましたよ」
こうしたやり取りをしていれば、セルリアンと話をしているような気になるなと、フランは少し肩の力を抜く。彼は覚醒が遅かったと言ったが、既に覚醒しているクラヴィスの性質も同じなことから、そもそも国祖王であったカエルム自体が、こうした人となりだったのであろう。
「後の事を考えれば、あまり近しくなるのは避けたいが、今の身分で、同じ学年となればそういう訳にもいくまいな」
「暁の神子は聡い方と聞いておりますが……」
「私の覚醒が早かったのも、彼の覚醒に引っ張られたからな」
「それでは……」
「いや、私が何たるかまでは、分かるまい。今のところは……。だが、人の生を司る瑠璃としての力が、何かしらを感じているかも知れん。まぁ、思慮深い彼なら、無理に踏み込んでくることはないだろう」
神子であるならば、フランの手によってクラヴィスが何たるかを知ることを止める必要はない。それは甥のリテラートにも言える事だ。ただ、一人の彼の真実を知る者として、今の時点で何処まで介入すべきかをフラン自身も決められない。
「何かあったらすぐに知らせる。だから……」
窓辺に立ったクラヴィスは、そこからの景色を眺めた後、その顔に満面の笑みを浮かべてフランを振り返った。
「しばらくはクラヴィスとしての人生を楽しんでも良いだろうか」
「御心のままに」
貴賓室の窓からは、王宮と神殿の間にある庭園が見渡せる。この時期、色とりどりのローザが咲き誇るそこは、王の子たちもよく遊びに使う場であった。
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