第10話
クリスタの三人を座らせ、テーブルにお茶とお菓子が並べられると、部屋の中には、四人だけとなった。
ウラノスが話をどう切り出すべきかと迷うよりも先に、フランが席を立ちクラヴィスへ膝を付いて手を差し出した。
驚いたのはウラノスとサラーサである。神官長とは言え、王族であるフランが神子でもない、まして他国の公爵令息に膝を付くなどあり得ない。思いも寄らない出来事に言葉を失う二人の間で、しかしクラヴィスは至って冷静にそれを見ていた。
「そのお姿では初めてお目にかかります」
席を立ち、フランの手を取ったクラヴィスは、膝を付いて彼と同じ目線となる。フランと呼べば、その瞳が悲し気に揺れた。
「此度の名はクラヴィス・シン・クリスタとなった。よろしく頼む」
深く頭を垂れたフランに頷いて、その手を取ったままクラヴィスが立ち上がると、フランもまた立ち上がり、元の席へ着いた。
「お二人には心労をお掛けして申し訳ございません。ただ、知らぬままでいる方が良いことがこの世にはある事を、どうぞ、ご理解ください」
フランの立場でクラヴィスの魂の正体を明かす訳にはいかない。だが、彼が膝を付く相手であることを見れば、おおよそ考え付くであろう。まして、クリスタ家という王族に近い位置にある者ならば、尚更である。
それでも、フランは明言を避けた。
「いえ、こちらこそ、お心遣いありがとうございます」
「それで、今後のことですが……」
クラヴィスの魔力の質を知り、受け入れたならば、彼とこの先の生活をしていくため、特に制約がある訳ではない。ただ、常に覚悟が必要なだけだ。
魔力を抑える封印石を持っているとはいえ、マスターと呼ばれる者たちの比ではないほどの力を持つその魂に、器となる身体は長くもたない。そこへ魔物との戦いが絡むとしたら、その時はさらに早まるだろう。
今回は幼いうちに覚醒したことで、自分自身である程度は制御ができることが良い方に向かえば、あるいは通常の人の寿命を全うできるかもしれない。僅かな、可能性だが……。
フランから話を聞いたウラノスとサラーサは、悲観することなく、より一層の決意を固めたようだった。その様子に安堵したのは、当のクラヴィスよりもフランである。
「何かありましたら、何時でもお訊ねください」
「フラン様、感謝いたします。どうか……よろしくお願いいたします」
何時もと変わらない様子の両親をフランと共に見送ったクラヴィスは、その場に留まった。
フランと呼ぶ声もその姿もとても幼く、セルリアンとは似ても似つかない。けれど、真っ直ぐに見つめるその眼差しは確かにその人であった。
「先の私は、最後にそなたと共に在れたことで幸福であった。礼を言おう」
「……はい」
「今の両親にも、フランにもすまないと思うが……今生は長くはない気がする」
「なぜ……と伺っても? 」
「予感としか言えないのだがな。女神たちが揃っている、それが吉凶のどちらなのか私にも分からんのだ」
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