第8話
クリスタ家の三人が神殿を訪れている間、共に来た王子二人は、サンクティオ王の子らと庭にいた。
広大な庭園の中、陽射しを遮るための東屋にお茶とお菓子が所狭しと並べられている。メディウムの王宮にも見事な庭園があるが、気候が違うからか、二人にとっては珍しい花も咲いていた。今いる東屋の周囲には、色とりどりのローゼが植えられており、目に映る景色は、華やかという言葉が相応しかった。
午後の柔らかな陽射しが差し込む中、最初は嬉しそうに兄たちを眺め、並べられた菓子に手を伸ばしていたサンクティオのレーニス姫だったが、今は浮かない顔で頬杖をついている。その向かいに座るカーティオはその姿にくすりと笑った。ちなみに弟のフォルテは、サンクティオの第一王子であるリテラートと議論の最中だ。
レディを退屈させるなんてと思うカーティオだったが、どうやら気が合うらしい二人にそれを言うのもかわいそうな気がしてくる。普段、こんな風に遠慮なしに議論を繰り広げられる相手はお互いにいないのだから。
小さなため息を一つ吐き、優雅に席を立ったカーティオは、レーニスの隣に立つと、すっとその場に膝を付いて手を差し出した。
「レーニス姫、僕にこの庭園を案内してくださいませんか? 」
パチリと大きな瞳を瞬きさせたレーニスは、どうしたらいいのか分からず後ろに控えていた侍女に視線を投げた。その先でにこりと頷いた侍女の姿にほっとしたような彼女は、椅子から立ち上がり兄のリテラートを見る。しかし、彼は目の前のフォルテしか目に入っていないようだ。今度こそ分かりやすくため息を吐くと、差し出されたカーティオの手を取った。
「喜んで」
レーニスの小さな手に連れられたカーティオは、彼女から教えられる花の話に耳を傾けながら庭の奥へと進んでいた。
二人が東屋を離れた頃から、周囲には精霊たちの気配が多くある。遠巻きに伺うようなそれは、恐らく彼女を心配してのことだろう。
メディウムの精霊たちはおしゃべりなものが多いが、サンクティオの精霊たちは控え目なものが多いらしい。先程からカーティオが目を向ければ、サッとその身を隠してしまうのだ。
「レーニス姫、お疲れではありませんか? 少しこの辺りで休憩しましょう」
「はい、カーティオ様」
ふわりと笑ったレーニスは、そのままカーティオの手を引いて垣根の先の芝へと誘った。
すとんと座った彼女の隣へカーティオも腰を降ろす。すると、先程まで遠巻きにしていた精霊たちが次々と姿を表した。
隣のレーニスを見れば、その視線は精霊たちを捉えているようだ。
「レーニス姫は精霊たちがみえるのですか? 」
「はい。あの……カーティオ様は『タラシ』なんですか? 」
幼い彼女から出るような言葉ではないそれに、カーティオは思わず時を忘れた。
「えっと……一体誰がそんなことを」
「精霊たちが……お散歩をはじめた頃からずっとそういってくるのです」
カーティオがようやく紡いだ言葉に、応えたレーニスは憮然と精霊たちを睨み付けた。
なんとなく、クリスタ家のサンクティオ訪問に、父が自分たちを同行させた理由が解ってきた。
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