第6話
トルニスの兄でもあるフランは、アカデミーの卒業と共に王位継承権を放棄し、若くして神官長となった。
魔術を得意としないサンクティオの民の中で、類まれな魔力の量と質、そしてそれを扱う才も持ち合わせていたフランは、後の王となる事よりも、弟を助け、国とルーメン全土を支えることを選んだ。
そんな彼の神官長として最初の仕事は、ルーメンの鍵ともなる人物との面会であった。それを終えて初めて正式に神官長と認められるのだ。
前神官長 ミハイルの立ち合いの下で行われるそれは、神殿内のどの部屋でもなく、さらに奥にある神官長のみが入ることを許された別宮で行われるという。
ミハイルの後ろを歩きながら、辺りを包む神気の濃さにフランはふぅっと息を吐いた。ひんやりとした空気の中、まるで全てを見透かすようなそれは、冷たい水の中に放り込まれたような痛みすら感じる。
「フラン様、神官長を降りた私がお供できるのはここまでです。彼の方がお待ちのはず……どうぞ、中へお進みください」
「ミハイル様、ありがとうございます。行ってまいります」
扉に手をかけると、力を込める事無くそれは開かれた。
「どうか……どうか、あの方をよろしくお願いします」
祈りにも似たミハイルの言葉に背中を押され、フランは別宮の中へと進んだ。
しんっと静まり返った部屋の中央には、一人の青年が立っていた。フランよりも幾らか年を重ねたと見えるその後ろ姿は、どこか父王を思わせる雰囲気を持っている。
「新たに神官長の任を仰せつかりましたフランと申します」
この背中を自分は知っている。そう思うフランだったが、確信を持てないまま、その青年へ呼びかけた。
「フラン……第一王子が何故? 何か王の不興を買うような真似でもしたのか? 」
くくっと笑った声は、そのまま気楽な口調でフランを振り返った。
「セルリアン……何故は私の台詞です」
セルリアンは、アカデミーではトルニスとフランの一つ上の学年にいた。三年で一学年となるため、一学年上と言っても年齢は五つ離れているとフランは聞いたことがある。最後に見たのは、彼らの卒業式だから五年ほど前だ。それにしても、記憶していた姿よりもずっと、今の彼の方が年齢を重ねているように見える。
「セルリアン・シン・クロイツ、それが俺の今生の名前だ」
「あなたが、そんな……」
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