第5話
表向きはカーティオとフォルテの見聞を広めるための旅行という事になっているため、宿泊先は王都の宿ではなくサンクティオの王宮となった。
王子二人と共にサンクティオ王 トルニスと、王妃 ルウィアに挨拶を済ませたクリスタ家の三人は王宮の先にある神殿を訪れていた。
陽光の女神を祭る神殿は、ルーメンの中心にあり、その加護でサンクティオのみならずルーメン全土を護っているという。それもあり、暁の女神を祭るメディウムの神殿よりも、規模としてはサンクティオの神殿の方が大きい。
神殿の神聖力を支えるのは、人々の祈りだ。しかし、祈りの力を加護に変えるには神官たちの魔力が必要となる。そのため、どちらが欠けても、神殿を維持する事が出来なくなる。
民の心が離れてしまえば祈りの力は衰え、加護を維持することが出来なくなり、ルーメンは災害や魔物の影に怯えることになるだろう。それを防ぐためにも、神子や加護を受ける者たちの存在は必要で、必ず神子が存在するサルトスとは別に、神子と加護を受ける者がどの時にも一人ずつは存在していた。
それが今は三人ではなく、全ての神子と加護を受ける者の存在が確認されている。
メディウムの王子でもある暁の神子 カーティオと春の女神であるリリーの加護を受けるフォルテをはじめ、サルトスの王子であり黄昏の神子であるティエラとその側近で秋の女神ミルの加護を持つリデル。そして、サンクティオには陽光の神子のリテラートがおり、その傍には夏の女神ソニアの加護を持つソリオが控えていた。冬の女神は空席で、それを補う冬石と呼ばれる宝玉が加護を持つ者のかわりであった。
つまり、神子と加護を受ける者の全てが今の時代には揃っている状態であり、ルーメン創成以来の出来事とされている。
三人が通されたのは、神殿の中でも王族を迎える為に用意された貴賓室であった。ウラノスはリヴェラに付き添ってこの部屋に入った事があり、神殿の主よりも先に席に着くのを躊躇った。サラーサも夫の雰囲気に何かを察したらしく、彼の隣に立ち、クラヴィスの手を取る。すると、クラヴィスはその手をきゅっと握り引いて、サラーサとその向こう側のウラノスを見上げた。
「お父様、お母様、神官長様からお話を伺って、手に負えないとお思いになられたなら、どうぞ、クラヴィスの手をお放しください。息子だと……仰って下さった。私はそれだけで……」
「クラヴィス……私たちがそんなに薄情に見えたか? もし、そうであったら、お前が物心つく前にフラン様へ渡していたであろうな」
「私も、そうだと思いますよ」
開けられた扉から掛けられた穏やかな声は、サンクティオの神官長 フランその人だった。
「お客様を立たせたまま、申し訳ございませんでした。どうぞ、お座りください。すぐにお茶を用意させます」
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