100話:次からはデザートの用意を忘れないでね

「糞ガキにしては丈夫な身体だな。その細腕の一本くらいは折れるかと思ったが、悪運の強い奴だ」


 ――爆発による拘束爆弾ロックボムの無力化。

 その実験から生還したボクは、部屋のソファーに座りつつ機械技師:ゼノスをギロリッと睨む。


「やってくれたね。おかげで死ぬ程痛い思いをしたんだけど」


「別にいいじゃねーか、目的は果たせただろ? そもそも無茶を押し通そうってんだから、全く痛みを伴わないってのが無理な話なんだよ。感謝されこそすれど恨まれる筋合いは無い」


「恨まれる筋合いしかないから言ってるんだけど……(まぁでも、いいや)」


 拘束爆弾ロックボムも無力化には成功したのだ。

 話の進め方には大いに疑問が残るものの、更に先へ進む為には必要な犠牲・痛みだと思う他ない。


「それで、テメェはこの先どうするつもりだ? 目的は廃棄都市ジャンクシティから出ることだろ?」


 少し前に眠らせた男性(奴隷)の機械化された脚。

 1人では立つことも出来ないその機械部品ギアパーツの脚を工具で弄りつつ、ゼノスが顔も向けずにこちらへ訊ねる。

 興味があるのか無いのかは不明だけれど、訊ねられたボクにとっては重要な話か。


「当然ここから出るつもりだけど、まだザックリとしか廃棄都市ジャンクシティの構造がわかってないんだよね。脱出ルートの描かれた地図とか持ってない?」


「さぁな。仮に持ってたとしてもテメェに見せる訳ねーだろ」


「それじゃあ、力づくで聞き出せば教えてくれる?」


「もしそんな事をすれば、緊急通報で大量の奴隷をここに呼び出すだろうな」


「そっか、それは残念」

 冗談半分/本気半分だったけれど、これは冗談で済ませるしかないらしい。

「仕方ない。奴隷達を束ねてた完全機械人間ヒューマロイドを脅してみるか」


「おい待て、あまり目立つ真似はするな。テメェに無茶をされると俺が困る」


「ゼノスが? 何で?」


「テメェが脱出に成功したら、今以上に監視の目が厳しくなるのは目に見えている。そうなると“俺の脱出計画”もパーだ」


「そんなの知らないよ。それが嫌ならゼノスも一緒に脱出すればいいじゃん」


「俺には俺の都合があるんだよ。まだここを出るべきタイミングじゃない」


「そう言われても、ボクはなる早でここを出たいんだ。ゼノスの都合には合わせられない」


 『五芒星ビッグファイブ』の攻撃からボクを庇った先輩(自称):イヴァンの安否。

 それから一緒に『Ocean World (海洋世界)』へ渡航していた『秘密結社:朝霧あさぎり』の女性陣:パルフェ、ロロ、テテフの3人も心配だ。

 彼等が今何処で何をしているのか一切不明の状況下で、悠長に他人のスケジュールに合わせられる余裕は無い。


 だから無理やりにでも脱出する。

 という強い意思をゼノスに見せると、彼はガシガシと苛立ち気に頭を掻き、それから指を3本立てた。


「――廃棄都市ジャンクシティから出る手段は基本的に3つだ。メインゲート、幹部専用通路、資材運搬用の昇降機エレベーターがある」


「おっ、急に教えてくれる気になったの?」


「テメェの脱出で跡を濁されると俺が困るんだよ。本気で脱出したかったら俺の言うことを聞け。いいな?」


「オーケー。まともな作戦だったら聞く耳を貸してあげるよ。それを守るかどうかはボクの気分次第だけど」


「テメェは本当に……チッ」


 舌打ち後、忌々し気にボクを睨むも、それで何が変わるでもない。

 何かを諦めたゼノスは「ふぅ~」と呼吸を入れ、先の話を続ける。


「さっき言った3つの手段の内、メインゲートはまず使えない。管理室コントロールルームまでのセキュリティが厳重だし、もう何年も開いたところを見たことが無いからな。そして幹部専用通路も難しい。通るには許可証パスが必要で、そもそも滅多なことでは外に出る許可が下りないと聞く。許可が出なけりゃ許可証パスを奪っても意味が無い」


「となると、ボクの脱出ルートは資材運搬用の昇降機エレベーターだね」


「いや、それは俺の脱出時に使う計画だ。一度バレたら厳重な警備体制を敷かれる。テメェには絶対使わせたくない」


「使わせたくないって、そうは言っても他に手段は無いんでしょ? 脱出手段の3つを全て言ったじゃん」


「その3つは、あくまでも“人間にとっての出入り口”だ。地上と繋がっている空間は他にもある」


「そうなの? 具体的には?」


 前のめりでボクが訊ねると、彼はスッと天井を指差した。



 ■



 ~ 数時間後 ~


 薄暗い廃棄都市ジャンクシティに鳴り響くサイレン。

 奴隷達の仕事が終わる合図であり、ボクの捜索が始まってから6時間以上が経過していた。

 この間、ゼノスの家を何人かの奴隷が訪ねて来たけれど、全て知らぬ存ぜぬを通してくれたおかげで未だボクの発見には至っていない。


(――よし、黒ヘビも出せる様になって来た。もう大丈夫だな)


 小部屋でコッソリと黒ヘビを試すと、右肩に久方ぶりの感覚を覚えた。

 扉一枚を隔ててゼノスがいるので大々的には出せないけれど、高温によるオーバーヒート状態からは完全に脱したとみていいだろう。


「それじゃあゼノス、そろそろ行くよ。不味いパスタもご馳走様。次からはデザートの用意を忘れないでね」


「ったく、何処までも口が悪いガキだな……ほら、用が無いならさっさと出て行け」


 小部屋から顔を出したボクに返って来たのは寂しい言葉。

 別れを惜しむ間柄でもないのでそれは別にいいけれど、そんな冷たいゼノスとは打って変わり。

 機械部品ギアパーツの両足が直った奴隷の男性は、ボクの左手をガシッと力強く握る。


「本当にありがとう。ボクがこうして生きているのはキミのおかげだ。何もお返し出来なくて申し訳ない……」


「気にしなくていいよ。そもそもボクが気にしてないし、捜索に来た人達を誤魔化してくれただけで十分だから」


「そ、そうかい? まぁ何はともあれ、廃棄都市ジャンクシティからの脱出が成功することを願ってるよ」


「それはどうも。じゃあボクは行くから。次は地上で逢えるといいね」


「あぁ、達者でな」


 手を振る男性に見送られ、玄関から外に――は目立つので、裏口から外へ。

 建物の裏は薄暗がりで埃っぽい路地となっており、静かな船出には好都合。

 さぁここからが本番だと気合を入れ直し、ゼノスのアドバイスに従って動き出そうとしたのも束の間、ガヤガヤと話し声が近づいて来た。


「くそッ、結局あのガキは見つからなかったな。一体何処に隠れてやがるのか……まさか、既に地上へ出てるってことはないよな?」

「馬鹿言え、地上と繋がる3つのルートは全て厳戒態勢を敷いてたんだ。ネズミ一匹見逃す筈が無い」

「確かに、所詮相手はただのガキだしな。まぁ腹が減ったら否が応でも人前に出て来るだろう。そしたらほら、このキャンディーで釣ってやる」

「おッ、いいねその作戦。それじゃあ俺はこの板チョコで釣ろうかな。丸二日分の稼ぎだが、地上に出れたら安いもんだろ?」

「だな。お菓子で釣れたら楽なんだけどなぁ、そう簡単に上手くいく訳が――ん?」


 視線が重なった。

 先程までガヤガヤ喋っていた奴隷二人と、ボクの視線がバッチリ合ったのだ。


(しまったッ、お菓子に釣られてついつい出て来ちゃった!!)


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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