99話:目には目を歯には歯を、爆弾には爆弾を

 “拘束爆弾ロックボムを特別に無力化してやる”。


 ボクの耳が正常に機能していれば、機械技師:ゼノスは確かにそう告げた。

 しかしながら、こちらから尋ねておいてアレだけど、彼の言葉を鵜呑みにすることは難しい。


「本当にそんなこと出来るの? 爆発させないと取れないって聞いてるけど」


「あぁ、拘束爆弾ロックボムは取り付けた瞬間に爆発の待機状態になる。エリアから出るか無理に壊そうとすれば爆発する仕組みで、内部のセンサーを外から壊す手段も無い」


「それを無力化って……どうするの?」


「簡単だ、爆発させればいい。それで爆弾は無力化される」


「そんなことしたらボクが死ぬんだけど。ゼノスって馬鹿なの?」


 落胆の反動から出た挑発的な言葉に、すぐには言葉を返さないゼノス。

 代わりに何故かコーヒーをもう一杯作り、それを飲むのかと思いきや、ベッドに横たわる男性に渡す。


「飲め、痛み止めの薬だ」


「え? あ、ありがとう」

 戸惑いながら受け取り、それを飲む前に奴隷の男性は訊ねる。

「先生、さっきの話は本当か? 拘束爆弾ロックボムを無効化出来るって……」


「気にするな、ただのジョークだ。もし本当に拘束爆弾ロックボムを無効化出来るなら、自分で試してとっくに廃棄都市ジャンクシティを抜け出してる」


「そ、そうか……そうだよな。しかし先生、痛み止めが必要な程の修理なのか? いつもは痛み止めなんて飲んでないのに」


「今回は神経近くまでやられてるからな。直す途中で悶絶して、痛みのあまり気絶しても大丈夫ってんなら飲まなくてもいいが」


「ッ――」


 ゴクリ

 脅しが効いたのか、男性が一気に中身を飲み干す。

 その僅か数秒後には虚ろな目となり、そのままベッドの上で眠りについた彼を見届けた後、スパナを片手にゼノスは呆れ顔をボクに向ける。


「――で、何処の誰が馬鹿だって? 言葉の扱いには気を付けろよ青二才」


「えぇ~? 青二才はそっちでしょ。出来ないことを見栄張って出来るとか言っちゃって、ありもしない希望を抱かせたら駄目だよ」


「おいおい、誰が出来ないと言った? “俺は無効化してやる”と言った筈だが?」


「え? でもそれはジョーク……っていうのは嘘ってこと?」

 あの奴隷に知られたくないから誤魔化したと、そういう話か?

「でも、どうやって拘束爆弾ロックボムを無効化するの? 爆発させるってのは冗談だよね?」


「いや、本気だ。“DIR樹脂”を使う」


「……はい?」


 全く知らない単語が出て来た。

 自然と眉をひそめたボクの左腕を取り、ゼノスは拘束爆弾ロックボムの少し出っ張った部分に触れる。


拘束爆弾ロックボムの起爆装置は、輪っかにあるこの出っ張りの中だ。コイツを丸ごとDIR樹脂で固めて、衝撃を逃がす為の穴以外は可能な限り強化装甲で囲む。その状態で刺激を与えて爆発させれば、人体はほぼ無傷のまま、爆弾を爆発させて取り外すことが出来る。――わかったか?」


「え~っと……つまり、どういうこと? Dなんちゃら樹脂って何?」


「DIR樹脂だ。コイツの結晶構造が面白くてな、受けた衝撃が強い程に硬くなる性質を持っている。こいつの内側で爆弾を爆発させれば……あぁいや、別に細かいことは知らなくていい。とにかく、爆弾を取り外すのが不可能なら、極力安全に爆発させて無力化するって話だ。爆発はするがテメェは死なない。だから何も問題は無い」


「なるほど、最初からそう言ってくれればいいのに。専門家ってわざと難しい言葉を使って、自分を凄そうに見せるの得意だよね」


「……テメェの生意気だけは、無力化するのが難しそうだな。いっそのこと鍵付きの口に改造してやろうか?」


「不便そうだから遠慮しておくよ。鍵を失くすとご飯食べられなくて大変だし」


 見た目はちょっと面白そうだけど、得られるメリットはその程度。

 全身を機械化するなら一行の余地があるかも知れないけれど、今のところその予定は皆無で、どう考えてもデメリットの方が大きいだろう――などとどうでもいい考察はさて置き。


「でもさ、何でゼノスはこんな方法を知ってるの? ボクが聞いてすぐに提案が出せたってことは、以前から考えていた、もしくは既に実行した方法ってことだよね」


「ハッ、生意気な割に感は鋭いじゃねーか」


 グイっと自分のコーヒーを飲み干し、小さなシンクでコップを水洗い。

 それを水切りラックに乗せて、彼はおもむろに作業着の襟元を広げる。


「この薄汚れた廃棄都市ジャンクシティで、テメェは残りの人生を暮らしたいと思うか?」


「え? その首輪……」


 驚いた。

 ゼノスの首にも拘束爆弾ロックボムが取り付けられていたのだ。

 今まで作業着で隠れていたけれど、彼も拘束爆弾ロックボムに囚われている身らしい。


「ゼノスも奴隷なの?」


「正確には違うが、似たようなもんだ。完全機械人間ヒューマロイドに扱き使われて壊れた奴隷達を修理して、まだ作業場に戻す仕事を命じられている。ちなみに俺の拘束爆弾ロックボム偽物フェイクで、既に起爆装置はさっきの方法で無力化している」


「えっ、じゃあ何でまだここに居るの? 拘束爆弾ロックボムに縛られる必要は無いのに」


 拘束するモノが無いのであれば、ボクならすぐに逃げ出している。

 どう逃げたらいいのかはわからないけれど、拘束爆弾ロックボムを無効化出来る彼が逃走ルートを把握していないとは思えない。

 何が彼を引き留めるのか……その問いを受け、彼は煙草に火をつけ、吸い込み、煙を吐く。


「俺にはまだ、ここでやるべき事があるのさ」


「やるべき事って、奴隷達の修理?」


「それもあるが、本当にやりたいのはもっと別の事だ」


 先ほど眠りについた男性を見て、それからゼノスは曇った窓ガラスに視線を送る。

 その視線が見据える先は、一体何が映っているのだろうか?


「別の事って、具体的には?」


「そうだな……『目には目を、歯には歯を、爆弾には爆弾を』ってな」



 ■



 最後に意味深な発言を残したゼノスだったが、それ以上の具体的な事は教えてくれなかった。

 それでボクは追及を諦め、拘束爆弾ロックボムを無効化する為の前準備に取り掛かる。


 まずは粘土みたいな素材で隙間なく拘束爆弾ロックボムを覆い、粘土みたいな素材が固まるのを待つ。

 10分程で素材が固まると、皮膚と拘束爆弾ロックボム拘束爆弾ロックボムと粘土みたいな素材の間に僅かながら隙間が出来た。

 そうしたら粘土みたいな素材に小さな穴を開けて、その穴からDIR樹脂とやらを流し込む。

 先の隙間が樹脂で一杯になったら細長いコルクで穴を塞いで、鉄製の扉で仕切られた小部屋にボクが入れば準備は万端らしい。


「このコルク、光ってるけど何?」


「中に針が仕込んである。俺がスイッチを押せば、コルクの針が起爆装置をぶっ指してドカンッって寸法だ」


 扉越しに訊ねると、かなり聞き取り辛い声が返って来た。


「なるほど……ちょっと緊張するけど、本当に大丈夫なんだよね?」


「問題無い、自分の身体で実験済みだ。ちなみに安全に爆発させるつっても、爆発の衝撃を全て吸収しきれる訳じゃないからな。骨の一本や二本は覚悟しておけ」


「え? それはちょっと聞いてな――」



 爆発ドドドドンッ!!



 小部屋の中で4つの拘束爆弾ロックボムが同時に爆発。

 反響した音で耳がキーンとするけれど、それよりも問題なのは手・足・首の痛み。

 物凄い衝撃で痛みを覚えると同時に、喉を潰されてまともに息が出来なくなる。


「痛ッ~~!!(何コレッ!? 洒落にならないって……ッ!!)」


 痛みによる呼吸困難。

 堪らず膝から崩れ落ち、涎を垂らしながら「ゲホッ、ゴホッ」とむせる。

 すると、ギギィ~と音を立てて小部屋の扉が開いた。


「おぉ、どうやら上手くいったみたいだな。“初めて人で試してみた”が、コレなら俺自身に使っても大丈夫だろう」


「ッ!?」


「礼を言うぜ、おかげで良い実験データが取れた。俺の拘束爆弾ロックボムを無力化する時は、もっと痛みが出ない様にするとしよう」


「ッ~~!!(ボクを実験に使ったのか……ッ!!)」


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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