97話:生体反応センサー

 汚い血と涙を流しつつ。

 廃棄都市ジャンクシティのボスが、声と脂肪を震わせながら明かしてくれた。


 ボクを縛る拘束爆弾ロックボムの爆発エリアは、特定の機械端末で変更が可能。

 その機械端末はボスの寝室にあり、彼を脅して爆発エリアを「ボスの家」から「廃棄都市ジャンクシティ」に変更することは出来たものの、解除は不可。

 どれだけ拷問を重ねたところで「俺には無理だ、知らない」の一点張りで、解除方法は本当に知らなそうなので、それ以上の追及は諦めた。


「はてさて、どうしたものか。今後の身の振り方を考えないと……」


 破壊ガシャンッ。

 服を着て、機械端末を金槌で潰す。


 これでこの家を出た後に、ボスが後から爆発エリアの変更をすることは出来ない。

 とりあえすの安全性は確保出来たとみていいだろうが、今のところ廃棄都市ジャンクシティから出られる未来が見えないのも事実。

 拘束爆弾ロックボムの仕組みに詳しい人間がいれば話も変わって来るだろうが……横目チラリ


(今後どう動くにせよ、ボスが生きているのは邪魔でしかないな。やっぱり殺してから出て行くか)


 裸のまま、疲労困憊といった様子で床に倒れる廃棄都市ジャンクシティのボス。

 彼は既に用済みだし、後腐れが無い様にここで息の根を止めて――


「お、オレの身体には……“生体反応センサー”が、埋め込まれている。……ふぅ~、ふぅ~」


 息も絶え絶えなボスの言葉。

 言葉の価値はいまいち判断つかないが、このタイミングで告げたからには、それ相応の情報なのは間違いない。


「それが身体に埋め込まれていたら、何だって言うの?」


「生体反応、センサーは……監視対象が生きているか、どうかを……ふぅ~、ふぅ~、把握する為のモノだ。オレを殺せば……間接的に、お前が逃げたことが“あの人”に伝わる」


「あの人って、アンタに命令してる人だよね。そいつが誰なのか聞いても教えてくれなかったけど、最後に教えてくれる気になった?」


「ハハッ、そんな訳あるか。あの人を……敵に回すくらいなら、ここで死んだ方がマシだ」


「………………(オレを殺したらお前が痛い目を見るぞと、そういう警告か)」


 このボスは“あの人”とやらを異様に怖がっている。

 どういう関係性なのかは知らないが、何か弱点を握られているのか、単純にそれ程までに恐ろしい人物なのか。

 無論、今の話がただハッタリである可能性も無くはないが、それを無視してボスを殺し、今以上に面倒な事態に陥るのは避けたい。


(生かしておく価値も無いのに、まさか死なせる価値も無いとは……厄介な生ゴミだな。――仕方ない。今回は殺さず、気絶だけさせて家を出よう)


 少々甘い処分にはなるが致し方ない。

 殺さないのであれば、ここでボスの身体を鎖でグルグルに拘束し、鎖の隙間からはみ出た脂肪はぐい~んと引き伸ばして釘で床に打ち付け、開いたアイアンメイデンを布団代わりに上から被せようかと思ったものの。

 それら全て“片腕”では無理があったので断念。

 日常生活なら片腕でも問題はないが、流石にこういう場面では右腕が欲しくなってくる。


(ま、無いモノ強請りしても仕方ないんだけどね。黒ヘビもあと半日の我慢だ)


 そういう訳で、改めてボスに左手を向ける。


「ちょッ、待――」



 “爆炎地獄ばくえんじごく”!!



 ドンッ!!



 ■



 ~ ボスの家の前 ~


「ふぅ~。大した時間じゃなかったのに、久しぶりに外に出た気がするなぁ」


 ボスの顔に問答無用で爆炎を放ち、“気絶”させた後に家を出た。

 長くても1時間程度の滞在だった筈だが、精神的にぐったりした気持ちになっているのは、やはり彼のインパクトが強過ぎた為か。


 手加減はしたけれど左手は痛むし、もう二度と会いたくない相手なのは間違いないが、何はともあれしばらくは安泰。

 ボスの太い脚だけは何とか鎖で拘束したので、仮に半日経たずに目を覚ましても、誰か部下が来ない限りはそう簡単に動くことも出来ない筈だ。


「さてと、ボスの対処はコレでいいとして……でも本当の問題はここからなんだよね。拘束爆弾ロックボムに詳しい人を見つけないと」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ~ 2時間後 ~


 結論から述べると、流石に“アテ”が無さ過ぎた。

 拘束爆弾ロックボムの情報を求めて廃棄都市ジャンクシティを彷徨たものの、何処どこ彼処かしこも奴隷達は忙しそうに働いているし、鞭を持った完全機械人間ヒューマロイドがそれらを常に監視中。

 奴隷達はともかく完全機械人間ヒューマロイドに見つかると面倒だし、気軽に声を掛けることははばかられた。


 それでも隙を見て何人かの奴隷に声を掛けたが、拘束爆弾ロックボムに関する収穫は皆無。

 皆生気を失った瞳をしており、「ここから出るのは諦めろ」の一点張りで、最後は完全機械人間ヒューマロイドを呼ぼうとする奴隷も居た為、すぐに建物の陰に隠れて――今に至る。


「駄目だ、『作業エリア』での情報収集は無理そうだね……となると、『居住エリア』で話を聞くしかないか」


 2時間動き回って拘束爆弾ロックボムの情報は得られなかったが、流石にこれだけ廃棄都市ジャンクシティを回れば街の造りは見えて来た。


 『作業エリア』と『居住エリア』――基本的に、廃棄都市ジャンクシティのエリアはこの2つに大別できる。

 巨大な地下空間の中央に奴隷達が働く『作業エリア』があり、それを囲う様に奴隷達が暮らす『居住エリア』が広がっているのだ。


 なお、「居住」と言っても立派な家がある訳ではなく、貧困層が住む様なボロ小屋が無秩序に連なっているだけ。

 気を休める様な場所には到底見えないし、実際に気が休まるような時間もこの廃棄都市ジャンクシティには無いのだろう。


(奴隷達がここで何を作らされているのか気になるけど……まずは拘束爆弾ロックボムだね)


 仕事に出てほとんどもぬけの殻となった『住居エリア』だが、それでも全く人が居ない訳はない。

 体調を崩したり、機械部品ギアパーツが壊れて動けぬ奴隷達に話を聞いて回っていたら、“とある建物”に辿り着いた。


「何かここだけ、建物の雰囲気が違うな……」


 入り口には大きな歯車が飾られ、周辺には無数の機械部品ギアパーツが積み上げられている。

 一見すると不要になったゴミの山にも見えるが、ざっくりと似た部品毎に別けられている為、意図的に積み上げたことがうかがい知れる。

 曇った窓ガラスからは光が漏れており、中に人が居るのは確実か。


「ここも奴隷の家なのかな? ……とりあえず入ってみるか」


 挨拶も無しに扉を開くと、ボクを見返す顔が2つ。

 1つは40代くらいの作業着を着た男性で、白髪交じりで不精髭の顔にタバコを咥えて、スパナを片手に怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 そしてもう1つの顔は、男性の前にある“台の上に寝そべり”、ボクを見るなり「あっ」と声を上げた。


「キミ、さっき助けてくれた少年じゃないか。どうして先生の家に?」


「ん?(誰だっけ……あぁ、レールに挟まって轢かれそうになってた人か)」


 ボスの登場で完全に忘れていたが、そう言えばボスの家に行く前に轢かれそうになっていた奴隷を助けた。

 思い出してみるとこんな顔だった気がしなくもない、というレベルの記憶だけれど、あそこで別れた後に彼はここへ運ばれたらしい。


 家の中は沢山の機械部品ギアパーツが壁と床を埋め尽くしており、この家がどういう場所なのかを見る者全てに教えてくれる。


「ここで壊れた脚の修理をしてるの?」


「あぁ、“ゼノス先生”は廃棄都市ジャンクシティで一番の機械技師なんだ。機械部品ギアパーツのことで先生の右に出る者はいない」


「ふ~ん? このおじさん、そんなに優秀なんだ? あんまりそうは見えないけど――」



 スパナ投げブンッ!!



 唐突にスパナを投げられたので、サッと回避すると、破壊ガシャン!!

 窓ガラスが盛大に割れて、男性が怒鳴る。


「出て行け糞ガキッ!!」


 閉まる扉バタンッ

 機械技師の家に入って早々、スパナを投げられて追い出された――直後。

 アチコチに設置されたスピーカーから、廃棄都市ジャンクシティに怒声が響く。



『奴隷共ッ、仕事は一時中断だ!! 今すぐ“右腕が無い糞生意気なガキ”を捕まえろ!!』



 ―――――――――

*あとがき

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また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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