95話:ボスの家

 施錠ガシャン

 ――“ボスの家”とやらに入ってしばらく、幅の広い玄関扉に鍵がかかった。

 加えて上部から頑丈そうな鉄格子が降りて来て、「絶対にここから逃がさない」という強い意思を感じる空間へ変貌。


 ここまでボクを連れて来た完全機械人間ヒューマロイドは鉄格子が降りる前に帰った為、この場に居るのはボクとボスの二人だけ。

 ボクの足に繋がった鎖をハムみたいな手で持つ彼は、先の完全機械人間ヒューマロイド以上に人間かどうかを疑うフォルムだ。


(こいつが廃棄都市ジャンクシティのボス……肥満とかいうレベルを超えてるな)


 身長は2メートル半ばで、横幅も同じくらいあるだろうか。

 着れる服が無いのか上半身は裸で、下半身は長い布地を巻いているだけ。

 それもダルンダルンに垂れたお腹の脂肪で大半が隠れており、パッと見では全裸と勘違いしてしまいそうな程に露出度が激しい。


 自分の脚で立っていることが奇跡に思える程の体系だが、それでも出迎えの為に玄関まで出て来たのは事実で、一応それなりには動けるらしい。

 曲がるとは思えない背中をグイっと曲げて、目と鼻の先まで顔を近づけてきたボスがニッコリと笑う。


「見れば見るほど可愛い顔だ。いいぞぉ~、凄くいい」


「はぁ、そうですか(近いな顔が)」


「ウォッホホ、釣れない態度もいいぞぉ~。このままキスしちゃおうか――ん? ちょっと臭うな。埃とオイルの匂いだ」


「そりゃまぁ、こんな場所だからね。出来ればシャワー浴びたいんだけど」


「勿論だとも。“お楽しみ”の前にはシャワーを浴びないと。さぁ、こっちにおいで坊や」


 グイっと鎖を引き、ボクを誘導する廃棄都市ジャンクシティのボス。

 床に根を張っていそうな大木の如き脚を動かし、幅の広い廊下を進んで奥の部屋へ入る。

 一体どんな筋肉があればこの体系を動かせるのか少し興味が出て来たけれど、まぁそれを知ったところで別に得る物もないか。


(にしても、期待を裏切らない広い部屋だな。大きなベッドとガラス張りの浴室、それに数々の……拷問器具と)


 真っ先に目に付くのは、拷問器具の代名詞とも言えるアイアンメイデン。

 続けて、棘のついた椅子(名前は知らない)/三角木馬/鞭やペンチや釘やら鉄鎚やらドリル等、使い方次第で如何様にも出来る器具の数々。

 それら拷問器具には“赤黒い染み”が付着しており、この空間で何が行われたのかを思い浮かべるのは想像に難くない。


 そんなボクの視線をどう捉えたか、ボスは再びニッコリと笑う。


「ウォッホホ、拷問器具アレが気になるか? 別に心配しなくて大丈夫だ。オレに逆らわなければ、坊やの身体は優しく扱ってあ・げ・る」


「はぁ、そうですか(つまり、言うこと聞かなければ拷問すると)」


 今まで何人が犠牲になったのかはわからないが、少なくとも一人や二人では済まないだろう。

 犠牲になった人達がその後にどうなったのかは知る由も無いが、この男はボクが最も嫌いなタイプの人間であることは間違いない。

 今すぐ殺したい衝動に駆られるも、情報を得る前に殺しては意味が無いし、シャワーを浴びたい気持ちは本当だ。


「シャワー浴びたいからさ、鎖外してくれる?」


「あぁいいとも。だが、服を脱いだら再び鎖を付けるぞ。シャワーは鎖は付けたまま浴びろ」


「え、別にそんなことしなくても逃げないのに」


「念には念を、だ。それともシャワーの先に、まず俺のをしゃぶるか? そしたら外してやってもいいぞ?」


「……面白い提案だけど、とりあえずシャワーを済ませるよ」


「ウォッホホ、好きにしろ。先にヤるか、後でヤるかの違いでしかないからな」


 自身の圧倒的優位――それを疑わないボスの態度を崩すのは、それこそシャワーの後でいい。


 まず鎖を外して貰って服を脱ぎ、再び脚を鎖で拘束される。

 そのまま浴室に入ってシャワーを浴びると、こんな最悪の状況下でも身体はサッパリとした快感を覚えた。


(ふぅ~、ここがボスの家じゃなかったら悪くないシャワーだったのなぁ。……そう言えば、『Trash World (ゴミ世界)』でも似たような男がいたっけ)


 アレは確か螺旋山らせんやまの警備兵だったか。

 外見は廃棄都市ジャンクシティのボスと似ても似つかないけれど、行為の相手をボクに求めて来た男がいた。

 その時は局部を斬り落とした後に殺したけれど、こんな連中ばっかりで正直辟易するし、世界の腐り具合には反吐が出る。


 かくして軽い憂鬱を覚えたボクのシャワーシーンを、ガラス越しのボスがこれ以上無い程のいやらしい目で見ているが、別に見られて減るモノでもない。

 そんなに見たいなら見せてやるけれど、奴がそんな顔をしていられるのも今の内だけだ。


「おじさん、バスタオルある?」


 シャワーを終えて浴室から出ると、ボスの下半身を隠していた布地が無くなっていることに気付いた。

 それでもダルンダルンの脂肪に隠れて局部は見えないが、その布地をボクに突き出した意味は理解したくもない。


「ほら、これで拭け」


「……嫌だって言ったら?」


「それならオレの身体で拭いてやる。さぁ坊や、この雄大な胸に飛び込んでこい」


「……それも嫌だって言ったら?」


「ウォッホホ、このオレに逆らう気か?」


 鋭い眼光ギロリッ!!

 威圧感を覚える視線でボクを睨み、直後に優しい笑みへと表情を変える。


「坊やが“変な考え”を持たない様に予め教えといてやるが、ついさっき、その拘束爆弾ロックボムのエリアをこの家に指定した」


「ッ!?」


「この家から無理やり逃げようとしたらどうなるか……頭の良い坊やならわかるよな?」


「……なるほど」


 どうやらこのボス、何かしらの方法で拘束爆弾ロックボムのエリア範囲を変えられるらしい。

 となれば、彼を拷問して方法を吐かせるのが最善手。


 不幸中の幸いで拷問器具には困らないし、予め用意してくれていたボスに今だけ感謝してやってもいい――と思ったが、“右肩から黒ヘビが出せない”。

 より正確を期せば「出せそうで出せない」というのが正しい表現か。


(参ったな、“オーバーヒート”を起こしてる。強欲のグリード相手に全力を出したから、しばらくは黒ヘビが使えそうにないか……)


 地獄の熱を黒ヘビに込めて、高温&巨大化させる技:“地獄黒大蛇ヘルクロス”。

 この手法のデメリットは、一度黒ヘビを高温にすると、しばらくの間は思い通りに動かせないオーバーヒート状態になることだ。


 感覚的な話になるけれど、ボクと黒ヘビの回路的なモノが途切れてしまうと言うか、一時的に繋がりが弱まってしまい黒ヘビを出すことが出来なくなる。

 あと半日くらいは黒ヘビが使えない前提で動いた方がいいだろう。


(それなら……ッ!!)


「ん?」


 ボスの脂肪を足場に、一瞬で彼の広い肩に登る。

 そしてボクの何倍も大きな頭に手を突き、顔の周りを一周する形で脚を回せば、鎖による“ボスの首絞め”が完成。

 更には肩から降りて鎖に体重を掛け、首の頸動脈を圧迫させる――筈が、全く効かない。


「ウォッホホ。いいぞぉ、その抵抗する感じ。そんな坊やを“わからせる”のがオレの趣味なんだ」


「くッ……(駄目だッ、首が太過ぎて締められない!!)」


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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