94話:廃棄都市《ジャンクシティ》

 偉そうな完全機械人間ヒューマノイドに「仕事を教えてやル」と言われ。

 よどんだ空気の牢屋から出されるも、依然として周囲は薄暗いまま。

 全容が見えない空間の中、彼に続いてレール沿いの通路をジャラジャラと“鎖の音”を立てながら歩く。

 

 ――結局、牢屋を出る際には脚に鎖を付けられてしまった。

 床が鉄なのもあり、やけに音が響いてストレスが溜まるけれど、それよりも気になるのは周囲からの視線。


 何をやっているのかよくわからないけれど、ボクと同じく拘束爆弾ロックボムを首に嵌めた労働者が、すれ違う度に“可哀そうなモノを見る目”を向けて来る。


 完全機械人間ヒューマノイド曰く、彼等は「奴隷」とのことで、ボクからすれば、無理やり働かされている彼等の方が可哀想な境遇なのだけど、彼等の拘束爆弾ロックボムは首だけだ。

 手足にも爆弾を付けられたボクを憐れんでいる……のか?


(全く、本当に何なんだここは。強欲のグリードがボクをここに送り込んだ訳じゃないのか?)


 前を歩く完全機械人間ヒューマノイドは、ボクが強欲のグリードの名前を出した意味をわかっていなかった。

 少なくとも彼と強欲のグリードに直接的な関係は無さそうだが、とは言え判断する程の情報を得ているとは言い難い。


 一旦その件については保留にしておくも、やはり無視出来ないのはボクの自由を奪う4つの爆弾:拘束爆弾ロックボム

 両足と左手、そして首に解除出来ない爆弾(牢屋のサム曰く)が取り付けられているのは大問題だ。


(一度付けたら解除出来ないなんて、そんな拘束具がある訳無い。多分、サムが知らないだけで、この完全機械人間ヒューマノイドなら知ってるかもしれない。力づくで聞き出すか?)


 いや、状況が不明過ぎる中で暴れるのは如何なものか。

 強硬手段に出るのは、もう少し情報を手に入れてからでも遅くないだろう。


「ねぇ、このまま歩いてたら拘束爆弾ロックボムでドカンッ、って事は無いよね?」


「HAHA。それはそれで面白そうだがナ。この廃棄都市ジャンクシティから出ようとしなければ大丈夫ダ」


廃棄都市ジャンクシティ……この巨大な地下空間のこと?」


「あぁ、ここは“とある街の地下”にあル。言っておくが、逃げ出そうなんて夢は持つんじゃねーゾ。この廃棄都市ジャンクシティからは誰も逃げられないんだからナ」


「ふ~ん、そうなんだ?」と適当に相槌を打ったところで。



「おい、助けくれッ」



 不意に声を掛けられた。

 声の主は一人の男性で、ボク等が歩いていた通路横のレールに倒れている。

 両足共に機械化された足の様だが、何か大きな衝撃でも受けたのか機械部品ギアパーツが折れて動けなくなっているらしく、そんな男性に完全機械人間ヒューマノイドが声を掛ける。


「そこの奴隷、仕事はどうしタ? そこで何をしていル?」


「何って、見ての通り機械部品ギアパーツを奪われたんだ。機械部品ギアパーツ強盗に遭ったんだよ。高い部品ばかり取られて動けない、助けてくれ」


「そんなの俺が知るカ。自分で何とかしロ」


「自分でって、そんなの無理だッ。機械部品ギアパーツがレールの隙間に挟まって動けないんだよ!! 腕の力だけじゃどうしようも――」



 警報。



 通路に設置されたランプが赤色に光り、埃を被ったスピーカーから不安を煽る音が響く。

 何事かと周囲に注意を向けると、後方から暗闇を照らす様に二つの光が現れた。

 少し遅れて鉄の床が振動し、二つの光が徐々に大きくなる景色を見て、動けぬ男性の顔色はランプの色とは反対に青ざめる。


「マズいッ、運搬車両だ!! ここままじゃ轢かれるッ、助けてくれ!!」


「HAHA。俺が知るか、轢かれる方が悪イ。お前等奴隷の代わりなんていくらでもいるんダ」


「そんなッ……」


 絶望の表情を浮かべた男性。

 そんな彼を運搬車両のライトが照らし出すも、減速する気配は一切なく、そもそも今から減速したところで間に合わない。


(仕方ない、黒ヘビで助けるか――って、“黒ヘビが出せない”!?)


 理由なら「心当たり」あるが、今すぐどうこう出来る話でもない。

 ならば、動けぬ男性の壊れた機械部品ギアパーツの脚、それを『爆炎地獄ばくえんじごく』で吹き飛ばそうとナイフに手を伸ばすも、空を切る。


(ナイフが無い!?)


 どうやら没収されていたらしい。

 当然と言えば当然だが、気付いたのが遅過ぎた。


 このままでは、男性が運搬車に轢かれて死ぬ。

 名も知らぬ相手だけれど、このまま見殺しにする気にはなれない。


(左手首の拘束爆弾ロックボムが怖いけれど……やるしかない)


「おいッ、何してる!? お前まで轢かれるぞ!?」


 慌てる男性に近付き、心配するその声は無視。

 左の掌を彼の脚に当て、地獄の熱を左手に込める。



 “爆炎地獄ばくえんじごく”(素手版)!!



 ドンッ!!

 掌から爆炎が起き、その衝撃でボクと男性の身体が吹き飛ぶ。


 結果、レールに歪みが生じたのか「ギィーッ」と耳障りの悪い音をたてながら運搬車両が通過。

 ついさっきまで男性が倒れていた場所を過ぎ去り、そのまま何処までも続く薄暗がりの中へ姿を消していった。


「うッ(焼けるように痛い!!)」


 爆炎のせいで掌が真っ黒に焦げている。

 皮が剥がれる事態にはなっていないけれど、この痛みは当分引かないだろう。

 左手首の拘束爆弾ロックボムが誘爆されなかったのは救いで、何とか一命を取り留めた形となる――が。


 バチンッ。


「うっ!?」


 完全機械人間ヒューマノイドに鞭を振るわれ、動けぬ男性が悲鳴を上げる。


「馬鹿野郎!! お前のせいでコイツが死にかけたじゃねーカ!! 死ななきゃ何しても構わねーと言われてはいるが、マジで死んだらどうしてくれんだヨ!?」


「そ、そんなの俺に言われても……ぎゃッ!?」


 再びの鞭。

 あまりの理不尽さにこの完全機械人間ヒューマノイドを殴りたくなるも、黒ヘビは出せず、ナイフは無く、今は左手もヒリヒリと痛む。

 ここで情報源を失うのも痛手だと、そういう言い訳の余地を残して。


「ちょっと、やり過ぎだよ」


 とりあえず、完全機械人間ヒューマノイドの手から鞭を奪った。

 途端、彼は電子マスクで怒りの表情をボクに向ける。


「おい小僧、奴隷が調子に乗ってんじゃねーゾ。誰の鞭を奪ったと思ってるんダ?」


「さぁね、そもそもアンタの名前知らないし。って言うか、調子に乗ってるのは自分じゃないの?」


「フンッ、ムカつくガキだゼ。よく糞生意気って言われるだロ」


「どうだろう? 生意気な人からそう言われることがたま~にあるくらいかな」


「……フンッ、その生意気がボスの前でも続くといいがナ」

「HAHA」と笑い、その後に完全機械人間ヒューマノイドは意味深な笑みを電子マスクの顔に浮かべたのだった。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 先のいざこざの後、近くにいた他の奴隷が「機械技師」を呼びに行った。

 その人が来れば壊れた奴隷の脚も修理してくれるらしいけど、そこまで見届ける義理も無ければ、そんな時間を許す完全機械人間ヒューマノイドでもない。


 再び彼の後を歩き、そして辿り着いたのは“スチームパンク風な一件の家”。

 どうやらここが「ボスの家」らしく、完全機械人間ヒューマノイドがインターホン越しにやり取りをして、かなり幅の広い玄関を開けると――絶句。


 玄関を開けた先に居たのは、信じられない程に太った人間だった。


「ウォッホホ、コレが例の子か? オレ好みの可愛らしい顔じゃないか」


 ―――――――――

*あとがき

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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