【5章(プロローグ):廃棄都市《ジャンクシティ》編(全9話)】

93話:完全機械人間《ヒューマノイド》

「う~ん……ん?(ここは何処だ?)」


 目を覚ますと、ボクは暗い牢屋の中にいた。

 換気が悪いのか空気は非常に埃っぽく、起き上がろうと息を吸っただけで「げほッ」とむせる。


 どうやらの何処かの「地下空間」らしく、牢屋の天井は低いものの、牢屋の外には高い天井から陽の光が差し込んでいるのが見える。

 ただし、差し込む光はほんの僅かで、地下空間の大半を照らしているのは心許ない薄暗い照明達だ。


 その証明に照らされる空気は常に埃が漂っており、先の空気の悪さを改めて実感させるには十分過ぎる光景だが、注目すべきは天井よりもその「下」か。


 咳払いしつつ目を向けた牢屋の外では、何十人もの男達が忙しなく働いていた。

 何かの資材を運ぶ者、何かの部品を弄っている者、何をしているのかよくわからない者と、何をやっているのかは全く理解出来ないが、とにかく何かしらやっていることだけは伝わって来る。


「オラオラッ、働け奴隷どモ!!」


 バチンッ。

 痛そうな音が聞こえたかと思えば、“とある人物”が鉄板の床を鞭で叩いていた。

 働いている男達を威嚇しているのは明白で、彼が「機械の身体」を持っていることは更に明白かも知れない。


(おぉ、コレまた珍しい。完全機械人間ヒューマノイドだ。――ってことは、ここは『Robot World (機械世界)』だと考えるのが妥当なところか?)


 完全機械人間ヒューマノイド:脳以外の全てを機械部品ギアパーツに変えた人間。

 機械でありながら男っぽい顔付きの電子マスクを装着しており、声色からしても(声も自由に選べるだろうが)、恐らく元は男性であることが伺える。


 言うまでもないけれど、完全機械人間ヒューマノイドになる為には新世界『AtoA』の中でも飛び抜けた技術力が必要だ。

 必然的に、技術力に秀でた『R』の世界:『Robot World (機械世界)』が、今ボクが居る世界の有力候補となるが、まぁ完全機械人間ヒューマノイド一人だけでは何とも言えないか。


「おいそこ、さっさと手を動かセ!! お前等部品パーツ部隊のノルマは1日100個ダッ、休んでる暇なんか無いんだヨ!!」


「そ、その前に飯をくれ……腹が減ってまともに動けな――ぎゃッ!?」


 バチンッ!!

 手を止めていた男性が完全機械人間ヒューマノイドに鞭で打たれ、鉄の床に崩れ落ちた。


「働かない奴隷にやる飯なんか無イ!! 動けない奴は“実験棟”に送り込むだけダ!! オラッ、立テ!!」


「か、勘弁してくれ!! 実験棟だけは嫌だ!!」


「だったら死ぬ気で働ケ!! 今度休んだらマジで実験棟に連れて行くからナ!?」


 放り投げドサッ

 男性を投げ捨て、完全機械人間ヒューマノイドが足蹴り。

「うっ!?」と呻き声をあげた男性を無視し、仕事をしている男達の周囲を回りながら、彼は愉快気に鞭を振るう。


(えぇっと……状況がよくわからないけど、とりあえずアイツは殺しても良さそうだな。――いやもう、本当に状況がわからな過ぎる。一体何があってボクはこんな場所にいるんだ?)


 ここで目が覚める、その以前にある最後の記憶は『Ocean World (海洋世界)』での一幕。

 『血婚祭典ブラッディフェスタ』の会場から逃げ出して、もうすぐ『世界扉ポータル』で渡航出来るという場面で“奴”が現れたのだ。


 『五芒星ビッグファイブ』:強欲のグリード。


 圧倒的な強さで先輩(自称):イヴァン及び、イヴァンと同格の管理者:バンズバースを潰し、海鱗シーガ族のホスト:リョーガは心臓を引き抜かれて死亡。

 必至に抗おうとしたボクも呆気なく敗北して気絶。


 そして目を覚まし――現在に至る。


 強欲のグリードの姿は何処にもなく、恐らくだけど世界は変わっている。

 アレからどれだけの時間が経ったのか、先輩(自称):イヴァンは生きているのか、ここに運ばれたこと以外ボクにわかることは無い。


(イヴァン……あの男がそう簡単に死ぬとは思えないけど、相手が相手だ。最悪の可能性もあり得る)


 ================


『逃げろ後輩!! こいつはッ――』


 骨の折れる音バキボキッ


 ================


 “あの時”の音。

 ボクを押し出して身代わりになったイヴァンの声と、骨が折れる音は今でも鮮明に思い出せる。

 ボクを庇って彼は犠牲になったのだ。


(そんな性格の人間には見えなかったのに、どうしてボクを庇ったんだ?)


 わからない。何もわからない。

 イヴァンの考えも、安否も、現状では何もかもが不明だ。


「とりあえず、ここから出ないことには始まらないか……。えっと、何処か逃げ出せそうな場所は――」


「逃げようたって無駄さ」


「ッ!?」


 全く気付かなかった。

 同じ牢屋の中にボク以外の人間がいたのだ。

 彼は30代くらいの男性で、片腕が機械部品ギアパーツで機械化されているものの、それ以外は機械の部分が見当たらない。


 ちなみに“見当たらない”で言えば、彼の右脚も見当たらない状態で牢屋の片隅に座っている。


「……どちら様?」


「俺はサム。見ての通り、そんな警戒される人間じゃないことは確かだよ」


「ふ~ん?(警戒するかしないかはボクが決めることだけど)」

 まぁでも、確かに彼の目には生気を感じない。

 全てを諦めている様な、そんな虚無感を宿した目だ。

「それで、脱出が無駄ってのはどういうこと?」


「えっ、拘束爆弾ロックボムの説明聞いてないのか?」


「ろっくぼむ?」


「キミの手足と首に付いてる“爆弾”さ」


「ん? あっ、何だコレ。コレが爆弾?」


 今頃気付いた。

 ボクの両足と左手首、そして首に“見知らぬ輪っか”が嵌められている。

 動きを拘束する目的ではないのか、鎖や鉄球は繋がったりしていないし、動くのに不自由は感じないけれど、彼の言葉を信じるならコレは爆弾らしい。


「許可されていないエリアに立ち入ったら警報が鳴る。そのままエリア内に留まれば拘束爆弾ロックボムがドカンって訳さ」


「なるほど……(また爆弾か。爆弾は地獄でコリゴリなんだけどなぁ)」


 4000年も付き合った爆弾と再び向かい合いたくは無いが、そうは言っても仕方がない。

 爆弾で拘束されている以上、ここから逃げ出すには解除する必要がある。


「解除する鍵を持ってるのは、あの偉そうに指示してる完全機械人間ヒューマノイド?」


「いや、希望を抱いてるところ申し訳ないけど、この拘束爆弾ロックボムに解除する為の鍵は無いよ。一度付けたら最後、爆発しない限り外れない」


「え、じゃあどうすれば?」


「だから、どうしようもないって話をしてるんだよ。キミは右腕が無いみたいだし、僕と同じで“実験要因”なんだろうね」


「実験要因? それって――」



「おいッ、何をコソコソ話してル!?」



 先の完全機械人間ヒューマノイドがこちらに気付いた。

 鞭で床を叩きながら近付いて来て、ボクを見るなり「むっ?」と声を上げる。


「小僧、運が良いナ。ちょうど今から鞭で叩き起こすつもりだったが、その前に目を覚ますとハ」


「あー、そうだったんだ? 念の為に言っておくけど、人を起こすのに鞭は使わない方がいいよ」


「HAHA。奴隷が偉そうに言いやがル。お前のことはボスから聞いてるゾ。何やら“貴重な人材”らしいが、だからって甘えられると思うなヨ? 死ななけりゃ何してもいいって言われてるからナ」


「ボス? それって強欲のグリード?」


「あぁ? 何故ここで『五芒星ビッグファイブ』の名前が出るんダ。何を勘違いしてるか知らないが、とりあえず付いて来イ。お前の“仕事”を教えてやル」


 ―――――――――

*あとがき

【5章】もよろしくお願いします。

「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。

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